第11話 転移魔法、町到着
「ナナシ、あれが『ファスター』の町だ。んでここについたが…何をするってんだ?」
「おう、あれか。んじゃ全員俺に触れておいてくれ。おそらく触れてなくても大丈夫だが念のためだ。
まだ試したことがないもんでな、触れていればまず間違いなく成功する。どこでもいいから触れておいてくれ」
そう言うとナナシは目を閉じ、自身の魔力を自身に触れている全てを包み込むように球体を描く。
全員がナナシに触れたのを確認し、目を開いてある『言葉』を放つ。
「んじゃ行くぞ、放すなよ…我らをその場に届けよ。『ワープ』」
全員を魔力が包み込み、視界がナナシの魔力の紅に染まる。
それが急にはじけ飛び、紅から解き離れた時、先ほどまでいた崖上とは違う場所にいた。
そう、崖上から見ていた『ファスター』の町の街道沿いである。
ナナシが使った魔法は、『時空間魔法』の転移魔法であった。ただし、自作である。
「お、うまくいったな。どうだ?だいぶ時間短縮になっただろ…ってお前らどうした?」
「ね、ねぇナナシクン…これってまさか転移術?魔法陣もなかったのにどうやったの?」
「な、まさか町のそばの街道かこれ!?あり得ねぇ…やっぱお前は人間じゃねぇ!」
「さっきの魔力といい、陣無しの転移術といい…この変態男は全てにおいて変態だったのね…」
「だ、旦那様…転移術自体は魔界にも存在するのですが、魔力を大量消費する上に一人とその荷物が限度なのですよ?
5人纏めて、しかも魔力消費がとても少ない…これは驚きを通り越してもう何も言えません」
この世界には魔法陣に魔力を流し込み、その上の人物や荷物を指定された魔法陣へ送る転移術がある。
100年ほど前に開発され、人々に認知はされてきたが、個人が使える転移術は悪魔を除き存在しなかった。
研究に300年、実用化に数十年、そしてようやく設置されたが莫大な金と時間がかかり、魔力消費も凄まじいモノにしかならなかった。
『移動とか一瞬でできたらすげー便利だよなー』という軽い気持ちから、ナナシは『賢人』とともに
座標指定の計算、『時空間魔法』の活用法、ひいては消費魔力の軽減まで道中で考えていた。
魔法の自作だけでも魔法使いからすれば難易度が桁外れに高いのに、そこに魔力消費量まで操作しようとしたナナシはまさに天才であると言えた。
(やっぱまだ魔力を使いすぎちまうな。『瞬間移動』ほどではなかったが…改善のいい案はあるか?)
---確認してみたところ、物質だけでなく空気や魔素も同時に移動していました。
『魔力操作』スキルで、身体及び触れている全てをマスターの魔力で覆ってみる、というのはいかがでしょう---
(なるほど、それは名案だ。『魔力操作』の特訓で行けそうだな。
あとは…転移開始から転移終了までのタイムラグを無くせれば完成だな、引き続き頑張りますか)
「っておーい、お前ら。町に行くんじゃねぇのか?いつまでぼーっとしてやがる。俺とアスモの身分証明も早く済ませたいんだ」
「はっ、それもそうだ。ギルドに報告…ってギルドで冒険者登録でもしたらどうだ?
俺らも持ってるが、冒険者のプレートがあればそれが証明書代わりになる。町に入るには証明がないから多少金がかかるが…」
「金ならある、とっとと行こうぜ。お前らがいないとギルドの場所も宿も取れそうにない」
「了解だ。エレン、シルビィ。早いとこ森の報告に行くぞ、臨時収入もあるかもしれん」
「臨時収入!それは見逃せない!エレン、ナナシクンに見惚れてないで行くよ!」
「な、見惚れてなんていないわよ!もう!…アスモさんは『悪魔』って公言しない方がいいわね。
下手すれば討伐隊が組まれたり、その場で捕縛されかねないわ」
「ふむ。なら角を隠しておくか。自分の意志で出し入れできる故、そちらは問題ない。
だが…『鑑定』のような種族を調べることができる者がいたらどうすればよいか…
「それは大丈夫だ。俺に任せとけ。すまん、3人とも先に町の中に入って待っててくれ」
「お、おうわかった…んじゃ先行ってるぜ」
3人と別れ、2人きりになったナナシとアスモ。ナナシはアスモに『隠蔽』スキルを使用し、ステータスを弄っていた。
この行為がバレないよう、3人とは離れる必要があったのだ。
「よし、これで大丈夫だ。アスモ、自分のステータスを確認してみろ」
名前:アスモ(アスモデウス)
種族:人族(最上位悪魔【色欲】)
状態:正常
特殊スキル:『解析』
常用スキル:『魔力感知』『超視覚』『超聴覚』『魔力操作』『魔法知識(元・闇)』『詠唱破棄』『念話』
ステータス
腕力:A
魔力:S(SS)
敏捷:B
抵抗:S
幸運:A
「おおっ!?名前と種族が変わって…いや、隠しで元々のがあるのか。魔力も低く設定したのはなぜですか、旦那様?」
「アスモの魔力量は人族にもほぼいないんだ。それがバレるとおそらくめんどくさいことになる。
例えばそうだな…この世界にあるかはわからんが、研究所みたいなところで延々と魔法の研究をさせられる対象になったり、下手すれば戦争の道具として駆り出されるかもしれない」
「な、なるほど…そこまで私のことを大事になさってくださるんですね。さすが私の旦那様!」
「それともう一つ、呼び方を変えさせようとも思ったんだが…アスモ、あいつらの前以外では『仕方なく』夫婦として行動する。いいな?」
「ああ…旦那様が遂に私と夫婦になることをお認めになってくださった…」
「だから違う…あーもうめんどくさい、それでいい。もう行くぞ」
町の入り口にある跳ね橋の先には槍を持った衛兵が2名、何やら書類を持った監察官のような人が1名立っている。
身分証明がない場合の代金に一人当たり銀貨1枚だそうだ。アスモを含め2枚。
金貨1枚を渡し、お釣りに銀貨8枚を受け取り、町へ入ることができた。
町に入ると、エレン達3人が約束通り待っていてくれた。
10時、14時の2回に分けて1日2話ずつ投稿を目標にしています。
読みづらい、こうした方がいいなどのアドバイスがあればコメントいただけると幸いです。