第0話 白銀色、誕生
初投稿小説になります。温かい目で呼んでいただけると嬉しいです。
「ふぅ…間に合った。『彼』には消滅してほしくなかったんだ。」
誰かがポツリと呟く。その呟きは誰にも届かず、真っ白で何もない世界にのみ綴られた。
全身を白い装束で包み、背中には2対の白い翼、頭頂部には金色に輝く輪が数センチ上で浮いている。
誰もが一目で思うだろう、この者は『天使』である、と。
その者が胸元で両手で大事そうに抱える炎のように揺蕩う白銀色の物体。
そしてそれに優しく語り掛ける。
「ごめんね。ボクのミスで君を巻き込んでしまって。君はとても綺麗な『心』を持っている。
その綺麗な白銀の輝きがその証拠なんだ。ボクは君のような心を持つ者を待っていた。『君が暮らしていた世界』とは『別の世界』になるんだけど、この世界を神から救ってくれると信じて。」
白銀色の物体を頭上に掲げ、祈りを捧げる。
ソレは輝きを増し、目も眩むような光を放つ。真っ白な世界の隅々まで照らすように。
ソレが放つ光がゆっくりと小さくなり、天使が目を開けれるようになるとそこには白銀色の物体ではなく、人が浮いていた。
身長は180センチ後半、しっかりとした骨格に、オールバックで纏められた黒髪。
顔立ちは整っており、某人気アイドルグループに所属していてもおかしくない美貌を携えており、『彼』を保護した天使も暫く見惚れていた。
「よかった…肉体もそのまま作ることができた。心の輝きもそのまま…うん、大丈夫そう。後は記憶…」
天使が行ったのは『魂の保護』、それと『生前の肉体の蘇生』のみであった。
『記憶』が残っているかはその者の『魂の強さ』に準ずるため、記憶が残っているかが心配であった。
「ボクの声は聞こえるかい?ゆっくりと目を開けて、自分の身体を確かめてほしいんだ。
一応生前そのままの身体構成にしたつもりなんだけど…どうかな?」
天使の声に応じて彼はゆっくり目を開ける。
三白眼の黒目、その瞳には強い意志の光が満ちているようだった。
上から下へ、左から右へと瞳を動かし、両の掌を握り、開き。
動きには全く問題がないように見えた。そして一言。
「僕の身体ってこんなに力強かったかなあ」
天使は違和感を覚えた。全く同じ筋力、身体能力を元に作り直しただけ。彼の元居た世界の地球と全く同じ環境にしているはずの真っ白な世界。何も変わらない…はずだった。
「記憶は…あるのかな?君の名前とか、住んでいた場所とか、好きだった食べ物とか」
「住んでいたのは日本の…えっと…食べ物はなんでも好きだったような…名前…ナマエ…」
記憶の一部が抜け落ちていて、大事な部分が無くなっていた。名前、住所、家族、友人。
『彼』に関わる重要な事項が失われてしまったようで、天使としては悩みになってしまうモノとなってしまった。
「ねぇ、白い人。ここって何?なんでこんなに真っ白で何もなくてつまらなそうな場所なの?」
「ここは魂のみが訪れることができる世界。世界、というより『世界に繋がる道』という方が正しいのかもしれないね。よく周りを見てごらん。いろんな色のもやもやした炎のようなモノがふらふらしているから」
赤いもの、青いもの、真っ黒なものや灰色に濁ったもの。いろいろな色の魂がゆっくりと一定方向へ流れているようだった。
「あれは『魂』と君たちが呼んでいるものさ。ここはいわゆる死後の世界。さしずめ三途の川、ってとこかな?」
「ふーん、ということは僕は死んでしまってここに流れついちゃった、ってことなんだよね。でもなんで僕だけ自分の身体を持っていて、自我があって、会話ができて、あなたの目の前にいるの?」
「それはね。君をボクが『殺して』しまったからなんだ。君を死なせるつもりは一切なかった。
殺してしまっておいてなんだけど、その罪滅ぼし…というわけになるのかな。君を蘇らせて新しい命を持たせて、別の世界に送り込んで…って、ボクのワガママになってしまうけど」
本来、天使が神に無断で命を復活させてしまうのは禁忌とされている。
寿命があり、平等に与えられた時間があり、そして命の終わりを迎える。それを見届けるのが天使に与えられた唯一の仕事である。
「本来なら君も平和に過ごし、寿命を迎えるまで生き続ける予定だったんだ。でも今回は違った」
「違ったってことは…何か手違いが起きた、もしくはイレギュラーが起き、それに僕が巻き込まれた」
「君は頭の回転がとても早いんだね。その通り、君は完全に被害者だ。ボクら『天使』の諍いに君が巻き込まれてしまった。何人かは君を守ろうとしていたんだけど、守り切れなかった。本当にすまない」
天使は謝罪の言葉と同時に俯き、強く握った拳からは血が滲んでいた。
自らの不甲斐なさ、巻き込んでしまった失念、謝罪程度で許されるわけがないとの自責の念。
「顔を上げてください。謝罪はいいです。ただ…言葉遣いをやめていいかだけの許可をくれればそれで」
「そんなのでいいのなら許可なんていらないよ、好きにしてほしい。ボク自身好きにしているのだから」
「そりゃよかった。『僕』なんて一人称、小学生以来だしな。俺はこれからどうすりゃいいんだ?
いきなり殺されて、気づけばこんななんもない世界に呼び出されて、話し相手はあんた一人。俺に何をさせたいんだ?」
「本当に唐突だね…うん、はっきりと言おう。君にはボクらの上司、つまり『神』を助けてほしい」
苦笑交じりで天使はこう言った。『神を助けろ』と。
は?神?助ける?俺らを守るべき存在を?
「断る。折角貰った命をむざむざ捨てるつもりもない。わかりやすく言うなら『天使の駒になれ』ってことだろ?俺に何の得があるんだよ。生きていた時の記憶がほとんど無いにしろ、自由にさせてくれるんじゃないのかよ」
「それは…その通り…なのかもしれないね。ごめんね、君の言う通りだよ。でも一つだけ訂正させてほしいんだ。『天使の駒』にするつもりはないよ。君は自由に生きてほしい。ボクの予想ではそれが『神』を助けることになるはずだから」
10時、14時の2回に分けて1日2話ずつ投稿を目標にしています。
読みづらい、こうした方がいいなどのアドバイスがあればコメントいただけると幸いです。