97.鑑定士、ヤードックと戦う
王城でエミリアとミネルヴァから取り合いになった、数日後。
王都から離れた、海岸にて。
上級魔族襲来を、千里眼がキャッチした。
俺は【仕込み】をしてから、飛翔能力で敵の元へ向かった。
海岸の砂浜には、人間大の青いカエル男が立っていた。
「お初にお目にかかるな小童。わしの名前はヤードック。魔公爵が一人。【軍師】を名乗らせてもらっている」
ヤードックはあごひげを手でいじりながら、余裕の表情を浮かべる。
「間近で見ればまだ子供のサルではないか。なんだ、警戒して損したのぅ」
「気持ち悪い色したカエルが、俺になんのようだよ?」
「ほほっ。決まっておるだろう。貴様の命、もらい受けに来たのじゃ」
ヤードックが指を鳴らす。
その瞬間、海の底から、巨大なモンスターが出現した。
『ニーズホック。巨大なウミヘビ型の古竜じゃ。体内であらゆる毒を作る。』
「1匹だけと思ったら大間違いじゃ」
次々と、海上に敵が浮上で。
ニーズホックが合計で50匹。
「ふはは! どうじゃ!? 古竜の軍勢を前に、恐れおののいたか!?」
「別に。おまえ、軍師名乗ってる割にやることって数で相手を押しつぶすだけか。子供でも思いつくぞそれ」
「はっ! イキがるのは我が軍勢を倒してから言うが良い」
「それもそうだな」
俺は精霊の剣を取り出す。
「ほっほ! さぁかかってくるがよい! ご自慢の剣術で切り伏せるか? それとも虚無の魔眼で消し飛ばすかぁ?」
やけにヤードックは余裕そうだった。
『アイン。気をつけるのじゃ。ニーズホックの血は死毒となりうる』
……なるほど。
つまりヤツを攻撃して、返り血を浴びたら俺が死ぬ。
万一俺が毒に耐性をもっていたとしても、ニーズホックの血でこの海が汚れる。
そうなると海に隣接する獣人国に、多大なるダメージを与えられる、ってことか。
『攻撃されても二の矢を考えておるな』
「……なるほど。軍師なんて恥ずかしい名前を自称する程度の頭はあるのか。まあ、しょせん両生類だけどな」
ニーズホックたちは、口を大きく開くと、砂浜の俺目がけて毒を吹いてくる。
俺は【虚無】の力で、毒を吹き飛ばす。
数匹は俺目がけて、巨大な尾を振る。
俺は剣の腹でそれらを攻撃反射する。
「おーおー! やるではないか! さすがイオアナとゴーマンを倒しただけことはあるのぉ。これは負けてしまうかのぉ」
カエル野郎は、自分の作戦がバレてないと思って、俺に攻撃するよううながしている。
そこにひっかかってニーズホックを剣で倒せば、血で海をけがして後から『実は血には毒が入っていたのだー!』とかやるつもりだ。
まあ、それならそれで、やりようはある。
「ゆけ! ニーズホックよ! やつを殺せ!」
50匹のウミヘビたちが、俺の元へ首を伸ばしてくる。
俺は【仕込み】をしながら、敵の攻撃を弾き、あるいは避ける。
「ははは! 逃げてばかりではわしに勝てぬぞぉ?」
ヤードックがニヤニヤと笑う。
俺はニーズホックたちの攻撃を、神眼で見切り、ギリギリで全て避ける。
【術】の仕込みをしていく。
「ほれほれ逃げろ逃げろぉ! 無様に逃げろぉ! ひゃーっひゃっひゃー」
ヤードックのバカは、俺がタダ単に逃げているだけと思っているようだ。
慢心しているヤツほど、足元を掬いやすい。
『お兄さん、これで全員にかかったよ~』
よし、準備は完了のようだ。
俺は飛翔能力で、大きく後退した。
「なんだ? 体力がキレたのか? 善戦したほうじゃが、ま、しょせん非魔族のサル。この程度か」
「…………」
「まあよい。これで仕舞いじゃ。殺せ、ニーズホックども!」
しーん……。
「どっ、どうした! わしの言うことを聞かぬか!!!」
ニーズホックたちは、うつろな目をしている。
ヤードックの命令を聞いていない。
それはそうだ。
「貴様ぁ! 何をしたっ!」
「答える義理はない」
『そーだそーだ。きっしょく悪いカエルめっ。べーだっ』
俺のとなりに、精霊ピナが出現している。
ピナの能力【幻術】。
目を見た相手に幻を見せたり、心を操ったりできる。
俺はニーズホックたちの攻撃をかわしながら、敵の目を見て、術をかけていたのだ。
「くっ……! 言うことを聞かぬか! ならば!」
『……アイン君。ヤードックがニーズホックを自殺させるつもりよ。血で海をけがす作戦にうつるのかも』
「やらせねえよ。メイ。黒姫、力を貸してくれ」
俺は砂浜に手をつき、メイの【創樹】の力を発動。
ごごご……! と音を立て、海から巨大な樹が生える。
それはニーズホックたちに絡みつき、そのまま上空へと持ち上げる。
巨木はニーズホックの体を、万力の力で締め上げる。
ややあって、敵の体は、グシャッ! と潰れる。
グシャッ! グシャッ! グシャッ! グシャッ! グシャッ!
ヤードックがそろえたニーズホック50体が、メイの力で圧死させられた。
「はっ! ば、バカめが! 良いかよく聞け。ニーズホックの血にはなぁ……!」
「死の毒が混じってるんだろ?」
「なんと驚くな死毒がぇええええええええええええええええ!? な、なぜ知ってるぅうううううううう!?」
アホだな。
こっちには未来を予測するアリスと、能力を鑑定するウルスラがいるんだから。
「は、は! 知ってたとしておまえはニーズホックたちを絞め殺した! 大量の血が吹き出てる!」
「海をよく見ろ」
「なっ!? なぜだ!? 海が血で汚れていないだとぉおおおおおお!?」
奴らがいた海は、それはそれはキレイな青色をしていた。
「バカな! ありえぬ! なぜ汚れていない!?」
「よく見ろ。てめえらの部下の死体を」
「なっ、なんだあの球体は!?」
ニーズホックの体を、巨大な丸い球体が囲っていた。
「結界だ。血が飛び散らないよう、あらかじめニーズホックの体を結界で覆っていたんだよ」
結界はなにも、敵の攻撃を防ぐだけではない。
敵を閉じ込める使い方もあるのだ。
「くっ……! し、しかしその後どうする!? 結界をずっと維持しておくのか?」
「そんなことはしねえよ」
俺は創樹の力を再発動。
じゅる……じゅる……じゅる……。
創樹で作った木が、脈動する。
結界内の血が、徐々に消えていく。
やがて、内部の血が、全て消えていた。
「ばかな……ばかなばかな何をしたぁああああああ!?」
「樹で血を吸わせた。樹木は水分を吸い取る力が強いからな」
死毒を完全吸収した樹は、あとでゆっくりと処分すれば良い。
「そんな……ありえぬ……。わしの、完璧な作戦が……完璧に……打ち破られただと……」
がっくり、とヤードックが膝をつく。
俺はヤツのもとまで行き、精霊の剣を首元につきつける。
「別に完璧ってわけじゃなかったぞ。おまえ、軍師名乗ってる割に、作戦ガバガバだったな」




