95.鑑定士、エルフ姫にかかった不治の呪いを解く
アリスとデートした翌日。
聖域付近にて、モンスターが人を襲おうとするのを【千里眼】で捕らえた。
俺は【飛翔能力】で、現場へと急行した。
『バハムート。竜の翼の生えた鯨じゃ。古竜の一種』
バハムートが、3体。
その下には馬車と、その護衛たちがいる。
『護衛はかなりの手練れじゃが、古竜を倒せるほどではないな』
俺はうなずき、まずは1匹目のバハムートの背中に降り立つ。
俺は【虚無】の力で、バハムートたちの翼を消し飛ばす。
ボシュッ……!
バハムートたちは翼をもがれ、落下する。
俺は闘気を剣に纏わせ、その場で滅多斬りにする。
ズババババババババッ…………!!
あとは【虚無】の力で、肉片を消す。
「次だ」
俺は飛翔で、2匹目のバハムートの元へ行く。
闘気で身体能力を強化。
バハムートの背中の肉を掴んで、そのまま3匹目めがけて投げる。
2匹目と3匹目は、そのまま聖域近くの湖へと落下。
ドボォオオオオオオオオオオオオン!
あとは虚無の力で、上空からバハムートを視界に捕らえ、やつらの体を穴だらけにする。
後は虚無で死体を消し、および血で汚れた湖の水を元通りにする。
『さすがじゃ。もはや古竜はおぬしの敵ではないな』
俺は討伐完了した後、襲われていた馬車の近くへとやってくる。
みな、瀕死の重傷を負い、なかには死んでいるヤツもいた。
「あ、あんたは……?」
傷ついた護衛の一人が、俺に気付く。
俺は世界樹の雫をユーリからもらい、それを護衛にかける。
「き、傷がみるみるうちになおっていく! だと!?」
一方で、俺は死亡している騎士や冒険者たちを、【完全再生】能力で蘇生していく。
数分もしないうちに、死亡者は全員生き返る。
負傷者も、ユーリたちと手分けして、全員傷を癒やした。
「助けていただき、誠にありがとうございました!!!!」
護衛たちが、みな俺に頭を下げる。
「気にするな。それじゃ」
と、去ろうとした、そのときだ。
「まっ、待ってください! あなた、アインさんですよね!? 【レーシックの英雄】の!」
冒険者の一人、人間の男が、俺に話しかけてきた。
「何のようだ?」
「実はあなた様に、治してもらいたいひとがいるのです」
冒険者は、馬車を指さす。
「おれたちは【さる高貴な御方】が、聖域へと向かう護衛任務の途中だったんです」
「聖域に? 何の用事だ?」
「聖域には何でも治してくれる力をもった精霊がいる……と、その人がおっしゃるんです」
クルシュのことを言ってるのだろうか。
「……俺にどうしてほしいんだ?」
「あなたのその超強力な治癒能力なら、その方を治療できるかと思いまして」
なるほど。
いるかいないかわからない精霊に頼るより、治癒能力のある俺に治させたいのか。
さて……と。
「わかった。俺が治療する」
「ありがとうございます! ではこちらに!」
冒険者に先導させ、俺は馬車の元へとやってきた。
「なんか、めちゃくちゃ豪華な馬車だな……」
こんこん、と冒険者が馬車のドアをノックする。
「すみません、冒険者のエイゴです。入ってもよろしいでしょうか?」
『無礼者! わらわのような高貴なものと、貴様ら下民とが同じ空間に入ってよいと思っているのか? 分をわきまえよ!』
なんだかとても、居丈高なヤツがなかにいそうだな……。
「し、しかし。この方はあなたの病をなおす力を持っているのです」
『なに……?』
しばし、沈黙があった後。
『わかった。通せ』
冒険者はドアを開け、俺たちはなかに入る。
なかは、異空間になっていた。
馬車のなかとは思えないほど、豪華な作り。
そして何より、奥にはベッドがあった。
ベッドには、それは美しい、翡翠の髪をしたエルフが座っていた。
「なんだ、人間か? わらわの病を治せるというのは、本当か?」
「状態を見ないことにはなんとも。というか、あんたは誰なんだよ?」
「そんなことは関係ない。重要なのは、おまえが本当にわらわを治せるか否かだけよ」
なんだろう、この偉そうなエルフ。
確かにエルフは、プライドの高いやつが多いと聞いたことがあるが。
「治せるという言葉は、嘘ではなかろうな?」
静かに、エルフが俺をにらみ付けてくる。
「だからまだ状態見てないからわからねえよ」
「……ほぅ。わらわの【闘気】を受け微塵もひるまぬとは。ふむ、面白いヤツだな」
なんだこいつも闘気を使えるのか。
俺は女の体に、鑑定を使う。
『どうやら【不死鳥の呪い】がかかっているようじゃな』
「不死鳥の呪い?」
『体全身に火傷のあとがあり、そのものが死ぬまで炎であぶられ続ける。こやつはエルフ。長寿じゃ。長い間さぞ苦しんだことだろうな』
「なるほど……炎の呪いか。そりゃ、痛そうだ。ウルスラ、完全再生で治せそうか?」
『難しいな。細胞を再生するそばから、炎で体を焼かれる』
「となると……【虚無】か」
「何をブツブツ言っておる。治せるのか? 治せないのか?」
エルフが不機嫌そうに言う。
「治せる。が、一つ条件がある」
「ほう、なんだ? 言ってみよ」
「服を脱いで、火傷の痕を見せてくれ」
ビキッ……! とエルフ女の額に、青筋が浮かぶ。
「……貴様。わらわを誰と心得て言っておる?」
ごごご……と闘気が女の背後から湧き上がってくる。
「必要なことなんだ。決して、やましい気持ちがあって言ってるわけじゃない」
エルフはしばし俺をにらみ付けた後、ふっ……と闘気を解いた。
「……眉唾であったら、貴様を打ち首にするからな」
エルフはそう言うと、パジャマを脱いでいく。
美しい裸身には、痛々しい、火傷の痕があった。
「クルシュ。いけそうか?」
『おっけー。呪いの部位はちゃんと見えてるからね。やっちゃって、アイちゃん』
「じゃあ……いくぞ」
ボシュッ……!
邪眼を発動させると、エルフ女の体にあった、醜い火傷の痕が、まるごと消失した。
ぽつり、とエルフがつぶやく。
「ほ、本当だ……わらわの、わらわの体が……元に戻っておる……」
震える声で、エルフがペタペタと自分の体を触る。
「良かったな。それじゃ」
「待て」
エルフ女は俺を呼び止める。
すでにパジャマに着替え終わっていた。
「礼を言う。大儀であった」
最後まで偉そうだったな、こいつ。
「貴様に褒美をくれてやろう」
エルフ女は立ち上がると、俺のそばまでやってくる。
「いや、褒美とかいらねえよ」
エルフ女は俺の襟を掴んで、ぐいっと引き寄せる。
そのまま、自分の唇を、俺の唇に重ねてきた。
「な、なんだよいきなり!」
「わらわは貴様が気に入った。城に連れて行ってやろう」
「城って……あんた何者なんだよ?」
「わらわは【ミネルヴァ】。エルフ国【アネモスギーヴ】の王の娘だ。頭が高いぞ、人間」




