91.ゴーマン、部下たちから復讐される
鑑定士アインが、仲間たちとプールで遊んでいる、一方その頃。
魔界。
魔王城の、とある地下牢にて。
「はぁッ……! はぁ……はぁ……こ、ここは……? 我が輩は……いったい……?」
上級魔族、ゴーマンは、目を覚ました。
「し、信じられない……どうして、我が輩は生きてるんだ? あの小僧に、殺されたはず……?」
そのときだった。
「目が覚めたかしら、ゴーマン?」
「エキドナ殿!?」
牢屋の外に、美しいダークエルフが、微笑んでたっていた。
「え、エキドナ殿……どうして、我が輩は生きているのでしょう?」
エキドナは胸の谷間から、結晶を取り出す。
「これは【魔核】。精霊たちで言う【精霊核】と似たような物よ」
「まかく……?」
「魔族やモンスターたちは、本質的に精霊と同等の存在なの。魔核が本体。本体さえあれば、何度もやり直し気が利くのよ」
モンスターも、放っておけば再び湧き出る。
そう言う理屈であったか……とゴーマンは納得する。
「もっとも、ランクの低いモンスターであるほど、魔核の強度は低い。殺されると同時に本体が破壊されることもままあるわ」
「そんなこと、初めて知りましたぞ。なぜ我らに教えてくださらなかったのです?」
「あなたが知る必要は無いわ。さて……ゴーマン。これから、どうするつもり?」
エキドナは静かに微笑みながら、ゴーマンを見下ろす。
「決まっております! あの鑑定士に復讐を!」
「そう。けれどゴーマン。その前に一つ、悲しいお知らせがあるの」
エキドナは微笑みながら言う。
「あなたの能力、消滅したのよ」
「は…………? い、いま、なんとおっしゃりましたか?」
「あなたの自慢の能力【絶対不敗】は、鑑定士の【虚無の邪眼】によって、存在を抹消させられたわ」
「……いや! しかし関係ありませぬ! あの男を殺し、負けたことを帳消しにするまで! 何度でも挑んでやるつもりです!」
発奮するゴーマンをよそに、エキドナは実に楽しそうな笑みを浮かべた。
「とっても良い心がけだわ。……ところで、ゴーマン。【因果応報】、と言う言葉をご存じかしら?」
「? 何のことでしょう?」
「良い行いは幸福として自分に返ってくる。悪いことをしたら報いを受ける。この世の絶対普遍のルールのことよ」
「何を訳のわからないことを! それより今はそんな時間はありませぬ! 一刻も早く外へ出て、アインのヤツをズタズタに切り裂いてやらねば!」
と、そのときだった。
ガンッ……!
「ガハッ……!」
ゴーマンは、後から誰かに、殴られた。
そのまま地面に、ドサリ……と倒れる。
「な、なにが起きた……?」
ガンッ! ドガッ! ボグッ!
「ぐがっ! や、やめろ! 誰だぁ!?」
ゴーマンは背後を振り返る。
牢屋のなかに居たのは……自分の部下の、魔導師たちだった。
「き、貴様ら! いったいなにをしている!?」
魔導師たちは手に棍棒を持っていた。
その目は、狂気に染まっていた。
「あらあら大変。あなたの部下たちは、あなたに復讐がしたいみたいよ」
エキドナはしゃがみ込み、愉悦に満ちた笑みを浮かべる。
「あなた、随分と自分の部下に、酷く当たっていたようね。彼らはその恨みを果たそうとしてるみたいよ」
じりじり……と棍棒を持った部下たちが、ゴーマンににじり寄ってくる。
「バカが! 貴様ら底辺をひろってやった恩も忘れよって! 殺してやる!」
ゴーマンは立ち上がる。
そして部下たちに、その巨大な腕を振るう。
スカッ……!
「なっ!?」
ゴーマンの腕は、部下に当たらず空を切る。
「どうなってる……今の冴えないパンチはなんだ? 闘気が……闘気が使えぬ……だと!?」
「ああ、言い忘れた。再生直後の体は、とても弱体化しているのよ。今のあなたは、男爵級にも劣る力しかないわ」
「なんだって!?」
さぁ……とゴーマンの顔が真っ青になる。
「お、落ち着け! まずは冷静になろう!」
ゆらり……と部下たちが近づき、棍棒を振り下ろす。
ボグッ……!
普段なら避けることも容易い一撃。
しかし再生直後、脆弱な肉体では、部下の一撃を避けることも耐えることもできない。
「まっ、待ってくれ! まずは話し合おう!」
ボグッ! ドガッ……!
「き、貴様ら! こんなことして、ただですむと思うのか!?」
ドガッ! ボグッ! ドゴッ!
「や、やめてくれ! 悪かった! 我が輩が悪かったから!」
バギッ! ドゴッ! ボグッ! ドゴッ! がッ! バギッ!
……その後も、部下たちは攻撃の手を休めなかった。
彼らは全員、その【目】に狂気を宿していた。
無言で、ただ恨みを晴らすためだけに、ゴーマンを叩き続けた。
数時間後。
「も、もうやめ……やめれ……くれ……」
絶対不敗のゴーマンは、見る影もなくなっていた。
全身骨折している。
歯は全て折られ、顔面は原形がわからないほどゆがんでいる。
「ごめんなさぃ……ゆるして……おねがいだ……ゆるしてくれぇ~……」
ゴーマンは体を丸めて、地に頭をつけ、懇願する。
目から涙、鼻血と鼻水を流しながら、ゴーマンは部下たちに必死になって謝った。
「無様ね、ゴーマン」
いつの間にか、エキドナが牢屋のなかに入ってきていた。
「絶対不敗の能力が無ければ、しょせんあなたはこの程度。仮に力が全盛期に戻ったとして、能力の無いあなたが、今のアインに勝てるとでも?」
強く言い返したかったが、できなかった。
男爵級の部下たちにすら、ボコボコにされ、何もできなかった自分が……。
はたして、あの最強無比のアインに、勝てるだろうかと……。
「……ダメね、あなたは」
エキドナの目が、スッ……と侮蔑の色に染まる。
「勝負に挑む前から心で負けてる。そんな弱気で挑んだところで、勝てるわけないでしょう?」
エキドナがきびすを返し、牢屋を出て行こうとする。
「ま、まっでぐだざい……!」
ゴーマンがエキドナの足にしがみつく。
「おねがいします! もういちど! もういちどチャンスを!」
と、そのときだ。
「無様だねぇ、ゴーマン」
「おっ、おまえは!? なぜ生きてる!?」
牢屋の外に、そいつが立っていた。
「この子はもうダメだわ」
そう言って、エキドナはゴーマンの魔核を、放り投げる。
牢屋の外の人物が、それを受け取り、口の中に入れる。
「これであなたは魔核を失った。これで死ねば本当に死ぬ。……さようなら、ゴーマン」
エキドナがゴーマンの顔面を蹴ると、牢屋の外に出る。
「じゃあね、【上級魔族の恥さらし】」
二人は、その場を後にする。
「いやだ! こんなモブたちに殺されるなんて! 死ぬならせめて強敵と戦って死にたい! こんな! こんな無様な死に方は! いやだああああ!!!」
ドガッ! ボコッ! グシャッ! メキッ! ドゴッ! ゴスッ! グシャッ!




