09.鑑定士、賢者の魔法をコピーする
前回に引き続き、ダンジョンの通路にて。
俺はウルスラに修行をつけてもらっている。
「すげえ、見ただけで能力を模倣とか、精霊の目ってすげえんだな」
「ふふん、そうじゃろう? ユーリはすごいのじゃ」
ウルスラ、うれしそう。
こいつにとってユーリは娘だと言ってたしな。自分の娘が褒められてうれしいのだろう。
「てゆーかこれ、ほんとすげえな。死熊から能力をコピーすればあの怪力ゲットできるわけだろ?」
「理論上ではな。じゃが無理じゃ。貴様の実力では死熊は倒せないし、倒した敵でないとコピーは使えぬ」
「そりゃどうして?」
「さっきの凄まじい頭痛を忘れたのか、貴様?」
「あー……なるほど」
単眼悪魔から能力を読み取った後、俺は激しい頭痛に見舞われ、まともに動けなくなっていた。
「あんな隙だらけじゃ……反撃喰らうわな」
「そうじゃ。だから、コピーをするなら確実に反撃が来ない相手……つまり、倒した相手からコピーするしかないじゃろう」
「なるほど……いずれにしろ死熊からコピーは無理か。けど……ここを出るなら、俺はあいつを倒さないといけないんだけど、どうすればいい?」
するとウルスラが、非常に不愉快そうに、顔をしかめる。
「貴様に、特別に、わしの能力をコピーさせてやる」
「なんだって? ウルスラに能力なんてあったのか?」
ウルスラが右手を差し出す。
なんだ……と思った次の瞬間。
ボッ……! と彼女の手から炎の球が飛び出た。
それが俺の体にぶち当たる。
「あっちぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
俺は【超加速】で走り、体についた火を消す。
超速で動いたことで、火が消えた。
「なにすんだよ!」
「わしの能力を見せただけだ。鑑定はできたか?」
「できねえよ! 死ぬかと思ったよ!」
「そうか。さっきわしは【詠唱破棄】という能力を使った」
「えいしょうはき……?」
「端的に言うなら、魔法を呪文も、魔法の名前も使わず、念じただけで使えるようになる能力じゃ」
「す、凄まじいなそれ……」
通常、魔法を使う場合、呪文の詠唱が必須となる。
長い呪文を唱える必要があるため、魔法使いは戦闘中、どうしても隙ができてしまう。
だから魔法使いは、仲間たちに守られ、後から魔法を使うのが常道だ。
「あんな風にゼロタイムで魔法が使えたら……最強じゃん!」
こくり、とウルスラがうなずく。
「【詠唱破棄】を、そしてわしの使った火属性魔法【火球】をさっさと鑑定しろ」
「え……? ま、まさか……もういっかい、やる気?」
「無論じゃ。ほれさっさと鑑定せよ」
ボッ……! とウルスラがまた手から炎を出す。
「ちょ、【超鑑定】!」
『ウルスラの能力(S+)』
『→詠唱破棄(S+)』
「いってぇええええええ! あっつぅうううううううううううう!」
頭痛、そして魔法の炎が、俺にダブルで痛みを与える。
バシャッ……! とウルスラが、俺に世界樹の雫をかけてくれた。
火傷は引いたが……しかし頭痛は引かなかった。
ややあって、俺は立ち上がる。
「魔法を鑑定できたか?」
「いや……詠唱破棄だけ」
「それじゃあもう1発!」
ボッ……!
『ウルスラの魔法(S+)』
『→【火球】(E)』
「あっつぅううううううう! いってぇええええええええええええ!」
俺はまた痛みでその場に転がる。
バシャッ! とウルスラが、俺に世界樹の雫をぶっかける。
「ほれほれまだ魔法を1つ鑑定しただけじゃぞ? わしは賢者。無数に魔法を覚えておる。特別にその全てをおぬしに伝授してやろう」
「て、てめえ! わざとやってるだろ!」
「まさか。わしはユーリに頼まれて貴様を強くしてるだけじゃ。別に鬱憤を晴らしてるわけじゃない。ほれ、次は風魔法を鑑定させてやるぞ」
びょぉおおおおおおおおおおお!
『ウルスラの魔法(S+)』
『→風刃(E)』
また一つ魔法を覚えた。
鑑定しただけでどんどんと魔法を覚えるのは、良いんだが……。
鑑定するたび、俺は魔法を見る必要があるわけで。
そのたびに、俺は頭痛と、そして魔法によるダメージを受けたのだった。
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