87.鑑定士、第5精霊の力を得てさらに強くなる
精霊の森を無事抜けると、そこには【洋館】があった。
「ここか。隠しダンジョンがあるのか」
『正確にはちょっと違う。この聖域自体が隠しダンジョンなのさ。あの洋館は精霊の御座す場所なんだよ』
「けど隠しダンジョンって確か、中に強い敵が居たはずなんだが?」
『いたでしょ! めっちゃ強いのが!』
「え、どこに?」
『ここ! 僕! それに精霊たちも!』
俺は首をかしげる。
「全然強くなかったぞ。最後土下座されたし」
『いや強いから! 言っただろ、精霊は魔族並みに強いって』
「そんな強いって思わなかったけどな」
『おまえが強すぎんだよ! いい加減気付けばバカぁ!』
べしべし! とフェルがしっぽで俺の足を叩く。
と、そのときだった。
「やぁやぁ、アイちゃん。こんにちは~」
バッ! と俺は隣を見やる。
そこには、長身の女性がたっていた。
俺は精霊の剣を取り出す。
まるで殺気を感じなかった。
つい先ほどまで何にもなかった場所に、この女は突如として現れたのだ。
俺は女を見やる。
かなりの長身だ。
170近くある。
深い藍色の髪は、つややかで、地面に付きそうなほど。
顔の上半分が、【仮面】で覆われていて、目が見えない。
「おっと。そうカリカリしなさんな。私は敵じゃないよ。味方味方。そうだろ、可愛い【妹】たちよ~」
目隠し女が、口元だけでニコッと笑う。
ぱぁ……! と左目が輝き、世界樹の精霊たちが現れた。
「【クルシュ】、お姉、様!」
ユーリが長身女に抱きつく。
「お~。【ゆりゆり】じゃ~ん。元気だったかい~?」
「うんっ!」
無邪気に笑うユーリを見て、俺は剣を収納した。
「お、私が敵じゃないって信じてくれたかい?」
「ああ。ユーリの姉ちゃんなんだろ?」
「そそ。世界樹9人姉妹の【次女】。【クルシュ】お姉さんで~す」
クルシュがヘラヘラと陽気に笑う。
彼女は俺のとなりにやってくると、俺の腕を抱いてくる。
むにゅぅ~~~~~~~♡
な、なんだ……この柔らかさは。
というか、改めてみると、デカいなこいつの乳房。
他の姉妹たちの、誰よりもデカかった。
ニヤニヤとクルシュが笑い、ぎゅーっと俺の腕に力強く抱きついてくる。
う、腕が沈む……!
「うむ、苦しゅうない。もっと密着して良いよ~。クルシュだけに。な~んてねぇ~。あ~はっはっは」
「「「…………」」」
「おおぅいここ笑うところだよ? みんなどうしたの~? 元気ないね~」
……さて。
俺たちはクルシュの案内で、洋館の中に入った。
中は普通の建物だった。
この地下に、クルシュの本体である世界樹が埋まっているらしい。
客間にて。
「みんな遠いところから、私に会いに来てくれてありがとね~」
ソファに座るクルシュが、口元をほころばせていう。
「クルシュ姉さま、お元気そうで、何よりです!」
「そりゃ私のセリフだよ~。【ピナピナ】に【メイメイ】。それに【アンアン】も元気そうじゃないか~」
「……姉さん。そのあだ名、やめて」
アリスが顔を真っ赤にしてうつむいていた。
「え~。なんで? 良いあだなだと思うな~。そう思わないピナピナ?」
「ほんとほんと。アリスお姉ちゃんは、どうして恥ずかしがるのかな? ねえねえ? どうして~?」
「どうして~?」
クルシュとピナが、二人そろってアリスをいじっていた。
「くぅちゃん! やめて! あーちゃんこまってます!」
メイがアリスの前に立ち、手を広げる。
「メイメイ、飴をあげるからこっちおいで~」
「わぁい♡ めぃ、くぅちゃんの味方になるー!」
クルシュの膝上に、メイが乗る。
よしよしと飴をもらったメイの頭を撫でる。
「しかしなるほど~。つまりアイちゃんが、私の可愛い妹たちを、ここまで連れてきてくれたんだね~」
「まあ、そうなるな」
仮面に隠れてない口元が、ふふっ、とほころぶ。
「よしっ、お姉さん決めました~。はいみんな注目~」
パンパンっ、とクルシュが手を叩く。
「みんなのお姉ちゃんことクルシュさんが、アイちゃんの力になりま~す」
いえーい、とクルシュが両手でピースを作る。
「クルシュ、姉さまも、いっしょ?」
「そうそう。これでいつでもお姉ちゃんに甘えられるぞ~。良かったね~ゆりゆり」
「わぁい♡」
ユーリが嬉しそうに笑う。
「てことなんだけど、アイちゃんどう~? ダメ?」
「ダメなわけないだろ。大歓迎だ。ユーリが喜ぶ」
「アイン、さん……♡」
するとニヤニヤ、とクルシュが笑う。
「ほほぅ~。なるほどね~。そ~ゆことね~?」
「……なんだよ?」
「いやいや~。これから退屈せずすみそ~ってさ~。ここ誰も来ないから暇で仕方なくてね~」
クルシュはソファから立ち上がると、俺の前までやってくる。
手を俺に向ける。
そこには、【藍色】の【精霊核】が乗っていた。
「お姉ちゃんの精霊核だよ~。うるるん、加工よろしく~」
ウルスラが転移してきて、精霊核と俺の義眼を合体させる。
「これで君は、私の【虚無の邪眼】を手に入れたことになるよ~」
「虚無? 邪眼?」
「うん。ま、言うより見てもらった方が早いかな。それじゃみんな~。洋館から出ましょ~」
クルシュに背中を押されながら、俺たちは洋館を出た。
そこそこデカい屋敷だ。
「それじゃあ今から、お姉ちゃんの超ミラクルぱわ~、見せちゃうよ~」
クルシュは仮面を外す。
その下には、言葉を失うくらい、美しい顔があった。
血のような赤い目が、妖しく光る。
「あんまり私の目を見ちゃダメだよ~。やけどしちゃうから♡」
クルシュは洋館を見上げる。
「それじゃおみせしましょう。ほい」
ぱっ……!
「………………は? き、消えた?」
さっきまであったはずの、デカい屋敷。
それが、まるごと……消えていたのだ。
「はいこれがお姉ちゃんの【虚無】の邪眼で~す。視界に入っているものを、【無かったこと】にするんだ~」
「強い力で消し飛ばす的な?」
「ううん、存在そのものを抹消する感じ」
……どう考えてもヤバい能力だろこれ。
「ま、そのぶん消費魔力がとんでもないし、それに目への負担がすごいんだ。私以外、虚無の邪眼は使えなかった」
でも……とクルシュが続ける。
ニコニコ笑いながら、俺の左頬に触れる。
「君だけは例外。その目は神眼。虚無を使っても壊れることはない。私と君が組めば最強だよ~」
確かに、魔力は精霊の雫でいくらでも回復できる。
そもそもウルスラと繋がっているので、魔力なんて無限に等しい。
目への負担は神眼であることで気にしなくて良いので……。
「最強の【虚無】の力を、俺はリスク無しで使えるてことか」
「すごい、です!」「やばいね。もう誰もお兄さんに勝てないんじゃないの~?」「おにーちゃんすっげー!」
……かくして、俺は第5精霊と契約し、最強の力を手にしたのだった。




