86.鑑定士、精霊の森をサクサク攻略
隠しダンジョンのある【聖域】という森までやってきた。
この森は、魔族と同等の強さを持った、精霊がわんさかいるらしい。
話は、門番を倒した数十分後。
俺の後から、フェンリルの【フェル】がついてくる。
「おまえ、なんでついてくるんだ?」
『はっ、はぁっ!? 何か問題あるのかよ!?』
「いや無いけど」
『じゃあ別に良いだろ! べっ、別に僕は強い雄の圧倒的な力の前に、屈服したわけじゃないからな!』
まあどうでも良かったので無視して先に進む。
俺はウルスラに、隠しダンジョンまでのルートを鑑定してもらっている。
すいすい、と目的地まで最短で向かう。
『アインよ。火の精霊が出現し、おぬしに極大魔法を打ってくるぞ』
ウルスラの忠告を聞き、俺は精霊の剣を出してく。
すると俺の目の前で、突如炎が炸裂した。
ドガァアアアアアアアアアアアアアン!
『ふはは! わが名は火の精霊【イフリート】! わが灼熱の極大魔法の威力! 思い知ったか!』
「ああ、たいしたもんだ」
『なにぃいいいいい!? なぜ生きてるんだぁあああああああ!?』
「爆発の瞬間、体を闘気で覆ったから、極大魔法くらいじゃダメージは入らねえよ」
『最上級の炎魔法が喰らわないだと!? な、なんて固さだ!』
俺は精霊の剣に闘気を込めて、軽く振る。
ズバンッ……!
イフリートは上半身を失い、その場で消滅した。
『アインよ。精霊は精霊核を破壊しないかぎり消滅することはない。気にせず排除するが良い』
「わかった。次だ」
進んでいくと湖が見えてきた。
『わたしは水の精霊ウンディーネ! 受けなさい、わが水竜の舞を!』
下半身が魚の女精霊が、手に持った矛を俺に向ける。
湖から水柱が上がり、それが竜の形となった。
竜は俺に絡みつくと、そのまま湖の底へと引きずり込む。
『おーほっほっほ! 所詮は非力な人間ね! 水に溺れて死ぬが良いわ!』
「いや、平気だけどな」
『はぁあああああああ!? どうしてよぉおおおおお!?』
「おまえ、【水中呼吸】って能力持ってるんだな。便利だからコピーさせてもらったぞ」
さすが水の精霊、いい能力を持っている。
『ふ、ふんっ! だから何よ! 水の中はアタシの領域! 水中戦ならアタシに分があるわ!』
ウンディーネが水に潜ってくる。
凄まじい速さで俺の元へやってきて、矛を振る。
スカッ!
『よ、避けるなんて運が良いわね!』
スカッ! スカッ!
『なぁんで当たらないのよぉおおおおお!?』
「おまえから【高速水中移動】をコピーさせてもらった。ありがとな」
俺は精霊の剣を取り出し、闘気を込めた一撃を、お見舞いする。
ドバァアアアアアアアアアアアアアン!
湖が、縦に割れる。
中にあった水は、衝撃で外にあふれ出た。
干上がった湖で、ウンディーネが腰を抜かしている。
「まだ、やるか?」
『調子に乗ってすみませんでしたぁあああああああ!』
水の精霊ウンディーネ、戦意喪失。
「次だ」
湖を過ぎると、より一層木々が濃いエリアへとやってきた。
『4時の方向から矢が来るぞ』
ビュンッ……!
パシッ……!
受け止めた矢に、闘気を込めて、俺はそっくりそのまま投げ返す。
ビュォオオオオオオン!
凄まじい速さで矢が木々の奥へと消える。
ドスッ……!
「当たったか?」
『いや、直前で入れ替わられた』
どういうことだ?
『はっはー! みたか! ぼくっちの【偏在】の能力は!』
びゅぉおおお! と突風が吹いて、そこには妖精が現れた。
『ぼくっちは風の精霊【シルフ】! おっと、能力は教えないよっ』
「へぇ。分身を作り、しかも分身と自分との位置を自在に変えることができるのか。便利な能力だな」
『まっ、せいぜい偏在ってなにか無い頭を絞って考えるだって、えぇえええ!? な、なんで知ってるのさっ!?』
「いや、能力を鑑定したから」
『チクショウ!』
シルフがギリリと歯がみする。
『まあいいさ! 能力の正体がばれたところで、君はどうすることもできないんだからね!』
シルフの体が、何百にも増殖する。
『君はこの数を前に、なすすべもなく死ぬんだよ!』
「問題ない」
俺は右手を挙げる。
下級火属性魔法【火球】を使用。
『バーカ! そんなちんけな火の玉でぼくっちを倒せるとでも思ってるのかい!?』
「ああ、もちろん」
俺は火球に闘気を込める。
闘気によって魔法の威力が強化。
何千もの火の玉が、俺の周囲に出現。
あとはイオアナからコピーした【精密射撃】を使用し、火の玉を打つ。
ドッパァアアーーーーーーーーン!!!
数千の火の玉が、1つ1つ正確に、シルフの分身を射貫く。
『……う、うそでしょ。あの数、全部倒すなんて』
残り1体となったシルフが、呆然とつぶやく。
「まだやるか?」
『ごめんなさぁあああああい! 馬鹿にしてすみませんでしたぁあああああああ!』
「次だ」
進んでいくと、木々のない開けた場所に到着した。
『地中に地の精霊【ノーム】がいるようじゃな』
「位置の特定頼む」
俺は右手を地面につく。
するとピキ……! と地面が割れる。
メキメキメキメキ…………!!
割れた地面から、巨木が生える。
その先には、デカいモグラが居た。
『ぷぎー! なんだこの樹はぁ!?』
「【創樹】の力で生やした木だよ。地面にいるから根っこでおまえを捕捉した」
俺は精霊の剣を取り出す。
闘気を込めた一撃を放つ。
ズバアアアアアアアアアアアアアン!
ノームはそのまま消し飛んだ。
『お、おまえ強すぎるだろ! 異常だよ異常!』
振り返ると、フェルが目を大きくむいていた。
俺はスタスタと前を進んでいく。
『まあここまで順調みたいだけどさ! 君はまだ2大精霊と相対してないからね!』
「ほぅ。強いのか?」
『そうだよ! 光のレム様、闇のシャドウ様! この森で最高の強さを持つ精霊さ!』
「へぇ」
『あの人たちにかかれば君なんてイチコロだろ! 今のうちから土下座する準備をしておくんだね!』
「ところでフェル。レムとシャドウって、あいつらか?」
俺が指さす先に……。
光り輝く女性と、闇を纏わせた男性がいた。
彼らは……俺の前で、土下座していた。
『すんません! マジすんません!』
『あなたが強いのはもう十分わかりましたので! 勘弁してください!』
光の精霊と、闇の精霊が、必死になって土下座を繰り返している。
「敵意がないならやり合うつもりはない」
『『ははぁ! ありがたきしあわせぇえええええええええ!』』
レムとシャドウが、手と頭を地に着けて、深々とお辞儀する。
「で? 誰が土下座の練習しておけば良いって?」
『いやもう……わかった。おまえは強い。もう僕らの負けで良いよ……』
その後、精霊たちは襲ってこなかったのだった。




