83.鑑定士、魔物を倒し壊れた橋を修復する
獣人国【ネログーマ】の女王から、【親善大使】として迎えられることとなった。
それから1週間後。
俺は、隣の国に向かう、馬車に乗っていた。
「旅行♡ りょ、こー♡ アイン、さん、と、おでかけです~♡」
とんでもなく豪華な馬車の車内。
ユーリは俺の隣に座り、ニコニコしている。
その大きな胸に、俺の腕を抱いている。
「ちょっとユーリお姉ちゃん、アタシたちもいるんですけど~? いちゃつかないでくれますぅ~?」
「…………」
精霊ピナとアリスは、俺の正面に座っている。
「でもお兄さん、どうしていきなり隣の国へ行くことになったの? 親善大使とやらになったから?」
「まあそれもあるんだが……アリスが、次の隠しダンジョンの場所を探してくれたんだよ」
「へぇ。それが今から行く獣人国にあるんだね」
「ああ。ネログーマが所有する【聖域】って場所に隠しダンジョンがあるそうだ」
「せーき? なにそれエロい名前!」
ピナがワクワクしながら言う。
「違えよ【聖域】だ聖域」
「お姉ちゃんせーぇきだって。知ってる?」
「知ってます! こほんこほん、ってやつ!」
「それは咳な」
「お姉ちゃんがお子ちゃまなのはさておいて。聖域ってなんなの?」
「獣人国が所有する特別な土地らしい。王族のみが入れる場所なんだと」
「じゃあお兄さんは入れないじゃん」
「けどエミリア女王が、この間助けてもらったお礼だと言って、聖域に入る許可をくれたんだ」
だから隣国へ向かっているのである。
「とっとと行って、ささっと帰るぞ」
「しゅーん……」
「みんなで観光してな!」
「わぁい♡ アインさん、みんな、旅行……わーい♡」
えへへ~とユーリが楽しそうに笑う。
「けどさ~お兄さんが、ささっと帰るなーんてできるわけ~?」
「どういうことだよ」
「お兄さん有名人だし? みんなから引っ張りだこでしょ。すぐ返してくれなさそー」
「そんなことないって。自分とこならともかくここ外国だぞ? 俺のことなんて誰も知らないって」
やれやれ、とピナがため息をついた、そのときだ。
「……アイン君。この先でトラブルよ」
【千里眼】を使って、アリスが遠くの様子を見たようだ。
『どうやらこの先の川にかかる、大きな橋をモンスターが破壊してるようじゃ』
俺は立ち上がる。
精霊たちが、俺の目の中に戻る。
窓から飛び降り、【高速飛翔】能力で空を駆ける。
『ほーらやっぱりお兄さんってばトラブルにすーぐ顔突っ込む』
「しかたねえさ。うちのユーリさん、困ってる人ほっとけないし」
『あうぅ……ごめん、ねぇ』
「気にすんな。大事なおまえのためだからな」
『アインさん~♡ す、き~♡』
俺は気恥ずかしくなって、頬をかく。
ややあって、現場に到着した。
『【トゥネ川】という、大きな河川じゃ。これを渡った向こうが隣国ネログーマじゃな』
川の向こう岸へは、橋が架かっている。
その橋の上に、巨大な【タコ】がいた。
『【巨大蛸】じゃ。Sランクじゃな』
「Sランクがどうして、ダンジョンでも何でも無い外に?」
『そこまではわからぬ』
いずれにしろ、出現したオクトパスに、周囲に居た人たちは驚き、そして悲鳴を上げていた。
俺はオクトパスの上空で止まる。
精霊の剣を取り出し、攻撃しようとした……そのときだ。
「ピギィイイイイイイイイイイイイ!!」
オクトパスが、俺を見て……全力で逃げ出したのだ。
『仕方あるまい。おぬしには上級魔族を倒せるほどのチカラがあるからな。びびって逃げたのだろう』
川をバシャバシャと凄まじい速さで下っていく。
「逃がすかよ」
逃げた先で同じように、誰かを襲われちゃ困るからな。
俺は精霊の剣を、上空で構える。
【斬撃拡張】能力を発動し、剣を縦に軽く振った。
ズッバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
能力により、斬撃が飛翔する。
川を引き裂いて、そしてそのままオクトパスを両断した。
俺は川岸へと着陸。
そこには、数多くの馬車や、旅人らしき姿が見えた。
「な、なんだったんだ今の……?」
「巨大タコを、あの人が真っ二つにしたぞ……?」
周囲の人たちが、俺をじーっと見てくる。
「や、やりすぎたのかな? 闘気使ってないんだけど」
『それであの威力とはな。さすがアインじゃ』
あんま目立ちたくないし、人が多いとこでは力をセーブしないとな。
『して、アインよ。河川にかかっていた橋が、タコに破壊されたようじゃが、どうする?』
「もちろん、直すよ」
ウチのユーリが、困っている人を放っておくはずがないからな。
「【創樹】」
俺は、メイからもらった力を使う。
その瞬間、川底から、ドバァ! と巨大な木々が何本も生えた。
太いそれは、複雑に絡み合い、やがて1つの大きな橋となった。
「メイの力は、木を作るだけじゃなくて、こうやって好きなように木造建築を作れるんだよ」
『なるほど。さすがじゃなアイン。あの子らの力をここまで自在に使うとは』
さて。
こうして脅威を取り除き、橋を元に戻したわけだが……。
「す、すげえ……」「なんだよ今の……」「橋が一瞬でできたぞ……?」
するとギャラリーたちが、にわかにざわめき出す。
獣人国に近いからか、獣人の数が多い。
「お、おい! あの人まさか……親善大使様じゃないかっ?」
獣人の一人が、俺を指さしていう。
「きっとそうよ! 女王陛下がおっしゃられていた親善大使様だわ!」
ワッ……! と周囲に居た獣人たちが、俺の元に集まってくる。
「アイン様でしょう!? 聞きましたよ! とてもお強く、そして頼れる御方だって!」
獣人の女性が、俺の両手を掴んで言う。
「助けてくださってありがとう!」
「い、いや別に……」
すると獣人たちが、次々と俺の手を握っては、頭を下げる。
「あんなバケモノを1発で倒すなんて、すごいわ!」
「おれたちのために、壊れた橋を一瞬で直してくだりありがとうございます! さすが親善大使様だ!」
獣人たちが、みな俺に笑顔を向けてくる。
正直俺だけの力じゃないので、俺だけに感謝されてもな……。
『アインよ。この賞賛はおまえが代表し受け取っておけ。ユーリたちにも、伝わってるからな』
……その後。
俺たちを乗せた馬車は、橋を渡った。
そのまま隣国ネログーマの王都まで向かう。
その際中、馬車の後に、ものすごい数の獣人たちが、歩いてきた。
ややあって、目的地に到着すると……。
「親善大使様、ばんざーい!」
「「「ばんざーい!」」」
「我が国へようこそ! 心から歓迎いたします!」
「「「いらっしゃーい!」」」
かくして目的地に着いた俺を、凄まじい数の獣人たちが、熱烈に出迎えてくれたのだった。




