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81.鑑定士、古竜も素手で軽くひねる



 巨大化したイオアナを討伐完了してから、半月が経過したある日のこと。


 昼下がり。

 アリスが【千里眼】で、モンスターの出現を【予知】した。


 千里眼は、今までは限定的な未来(敵が襲ってくる未来)しか見られなかった。


 しかし最近。広い範囲での未来(自分に関わらない未来)も見られるようになってきたのだ。


『どうやらレーシック領の、隣の領地にて、古竜種が出現し、領民を襲うようじゃな』


 俺は能力アビリティ【高速飛翔】を発動。


 ウルスラが敵の場所までの最短ルートを鑑定し、そこまで道案内してくれる。


 俺は疾風となって領地上空を飛ぶ。

 やがて、隣の領地へとやってきた。


『どうやら敵が現れたのとほぼ同じタイミングで到着できそうじゃな』


 眼下には牧草地帯が広がっていた。

 牛やらヒツジやらがのどかに暮らしている。


 そこに1匹の巨大な竜がいた。


『ファフニール。古竜種じゃ。鋼のような鱗と竜息吹ドラゴン・ブレスと呼ばれる光線攻撃が得意じゃ』


『アイン、さん! 誰か、います!』


 ファフニールが、誰かを襲おうとしていた。


 俺はファフニールの横っ面に、跳び蹴りを食らわした。


 ドゴォオオオオオオオオオオオオン!


 見上げるほどの巨体が、超スピードで吹っ飛ぶ。


 俺はその場に着陸する。

 目の前には、粗末な格好の獣人の女性がいた。


 彼女はぽかんとした表情で、俺を見上げている。


「大丈夫か?」


「え、ええ……大丈夫よ」


 獣人は立ち上がると、ペコッと頭を下げる。


「危ないところをどうもありがとう。あなたのおかげで、とても助かったわ」


 ニコッと、と獣人女性は、上品に微笑んだ。


「さっきの古竜でしょう? それを一撃で倒すなんて、あなたとてもお強いのね」


「大したことない」


「まぁ。強いのに謙虚なのね。……あら? あなた、もしかして……」


 と、そのときだった。


『アインよ。ファフニールは生きておるようじゃ。おぬしに光線ビームを打ち込んでくる』


 ビゴォオオオオオオオオオオオオ!


 俺めがけて、光の奔流が押し寄せる。


 ドガァアアアアアアアアアアアン!


『古竜種であるこのファフニールを前に、よそ見をするから死ぬのだ! 小僧!』


 バサ……! バサッ……!


 どしーん……!


『おまえがうわさのアインだな! イオアナ様を倒したというから、さぞ強いかと思いきや! われの一撃で死ぬとはな! 所詮人間! 非力な存在よ!』


「言いたいことはそれだけか?」


 無傷の俺が、近くまでやってきていたファフニールを、見上げていう。


『バカな! さっきの一撃は【竜息吹ドラゴン・ブレス】! 大地を削り、山を吹き飛ばす必殺のわが能力! それを受けてなぜ平気なのだぁあ!?』


「いや、普通に【闘気オーラ】で防御力を上げただけだぞ」


 闘気には様々な使い方がある。


 その一つ、体の中で巡回させ、とどめることで防御力を超向上させたのだ。


『そちらの獣人のお姉様とここら辺一帯の牧草地は、わたしが結界を張っておいたので無事ですよ♡』


 守り手・黒姫が張ってくれた結界は、古竜程度の攻撃でびくともしていなかった。


「おまえの必殺の能力って、たいしたことないんだな」


『うるさい! くたばれぇええええええええええ!』

 

 ビゴォオオオオオオオオオオオオオ!


 俺は闘気を拳に集中させる。


 闘気は一点集中させると、パワーも硬度もより向上するのだ。


 俺は攻撃反射のタイミングを鑑定し、ファフニールの攻撃に対して……拳を軽く振る。


 パリィイイイイイイイイイイイイン!


 光線ビームは向きを変え、ファフニールの右肩をえぐる。


『ぎやぁあああああああああああ!』


 古竜がその場に倒れ伏す。


 肩からは血が噴き出している。


『パリィだと!? われの竜息吹ドラゴン・ブレスは光を越えていた! 不可避の攻撃のはずだ!』


「俺には全てを見切る最強の目がある。どれだけ早かろうが、関係ない」


 倒れ伏す古竜の元へ、俺は歩いて向かう。

『……アイン君。相手逃げる気みたい』


 アリスが未来を予知する。


『くっ……! 一時退却だ!』


 バサッ! とファフニールが翼を広げ、飛び上がる。


 俺は闘気を足に溜め、ジャンプ。


 ファフニールよりも早く飛翔。

 先回りし、俺はやつの顔面を蹴り飛ばした。


 巨体がまるでボールのように吹っ飛ぶ。


 ドガァアアアアアアアアアアアアアン!


 地面に激突したファフニールが、その場で動けなくなっていた。


 俺はファフニールの前に降り立つ。


『なんてことだ……人間界には、こんなバケモノが存在していたとは……』


 ファフニールは横向きに寝ている。

 どうやら俺の蹴りが良い感じに入り、脳しんとうを起こしているようだ。


 ぐぐっ……と体を起こし逃げようとするが、一歩も進んでいない。


『……アイン君。相手、自爆する気みたい』


 アリスがまた未来を予知してくれる。


『誇り高き古竜種のこのわれが! こんなひ弱な人間のガキに負けるなんて! ありえてはならぬ! こうなったら奥の手を』


「使わせねえよ」


 俺は右手に闘気を集中。

 自爆を使われる前に、俺はファフニールの土手っ腹めがけて、拳を振るった。


 ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 闘気を乗せた一撃は、古竜をまるごと粉砕した。

 

 ファフニールはチリ一つ残さず無に帰す。


『さすがじゃな、アインよ。もはや素手で古竜を倒せるとは』


『すごい、です! アイン、さん! 最強!』


「ありがとう。まあ、おまえたちが居てくれるおかげだよ」


 左目に収まっている【神眼】と、そして多くの仲間たちが俺に力を貸してくれている。


 一人だけの力では決してないのだ。


「…………」


 ぽかーん、と獣人女性が目を丸くし、口を大きく開いている。


『あちゃー。お兄さんあのお姉さんに、引かれちゃったかもね~。古竜を素手で倒す一般人なんていないしぃ~?』


 ピナの言うとおりだな。


「えっと……俺は別にその……」


 すると獣人女性は、立ち上がり、ニコッと笑う。


「わかっているわ。あなたが、私たちの敵ではないことくらい」


 獣人女性は微笑むと、スカートの端をつまんで頭を下げる。


 その所作は、異様なほど様になっていた


「我々とは何の関係もないあなたが、我が国土と大事な動物たちを守ってくださったこと、心からお礼申し上げます」


「いや別に、普通だろ」


 女性は顔を上げると、ふふっと笑った。


「さすが。【隣の国王】から聞いた通りの御方だわ」


 と、そのときだ。


「おーい!」「だいじょうぶかー!」


 遠くから、村人たちがこちらに駆けてくる。


「じゃ、俺はこれで」

「あっ! 待って。ぜひウチにご招待したいわ」


「そういうのいいから。じゃあな」


 俺は飛翔能力を使い、その場を後にしたのだった。

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