08.鑑定士、魔物の能力をコピーする
単眼悪魔相手にカウンターを入れる修行をすること、3日後。
「ぜえ……はぁ……ど、どうよ!」
俺の周りには、単眼悪魔の死体の山が転がっていた。
「もう完璧にカウンター入れられるようになったぜ……」
「ふん。精霊の目を持っているのだ。それくらいできなければおかしいわい」
銀髪幼女は不満そうに頬を膨らませていた。
「では次の訓練じゃ。単眼悪魔の死体を1つもってこい」
頭蓋骨をかち割られた単眼悪魔を、俺は手にする。
うへえ……脳みそが出てる。
グロテスクだなぁ……。
「それでどうするんだ?」
「次の修行だ。この死体から、単眼悪魔の動きを鑑定し、自分の物とせよ」
「……はぁ?」
ウルスラは何を言っているのか、全然ピンとこなかった。
「モンスターには人間と違って【能力】というものがある」
「アビリティ?」
「人間は後天的に【技能】を身につけるように、モンスターは生まれ持って能力を身につけている」
俺たち人間の【技能】の、モンスターバージョンみたいなものか。
「精霊の目を貴様は手に入れた。人間では見えなかった物が見えるようになった」
「つまりこのモンスターの能力も鑑定できるようになった訳か。けど……鑑定したところで、だからなんだ?」
「わしが思うに鑑定とは、相手の情報を見抜き、把握する……自分のものにすることだと思う」
まあ確かに、鑑定することでモンスターの名前やアイテムの希少度合いという情報を読み取って、自分の知識(自分のもの)にしてるけど。
「人間の目は単に情報を読み取り、知識として蓄積されるだけじゃ。じゃが精霊の目は読み取った情報を、完全に自分の【経験】にすることができるのじゃ」
「え? それって……鑑定した能力を、自分の物にできるってこと?」
「わしの推測ではな。やってみよ」
俺は単眼悪魔の死体の前にしゃがみ込む。
「【超鑑定】」
『単眼悪魔の能力(S+)』
『→【超加速】(S+)』
その瞬間……。
俺の頭の中に、単眼悪魔の体の構造、体の動き……つまり、能力がたたき込まれる。
「がぁああああああああ! いってぇええええええええええええ!」
凄まじい量の情報を、脳内に直接ぶち込まれたのだ。
すげえいってえ……。
しばらく俺はその場で無様に転がることしかできなかった。
やがて、頭痛が引く。
「ぜえ……はぁ……こ、これで単眼悪魔の能力が、手に入ったのか……?」
「試してみるが良い」
俺は立ち上がる。
今、把握したばかりの、単眼悪魔の素早さを……再現する。
びゅうううううううううううううううううううううううん!
……俺は、風のように、速く走れた。
それは、単眼悪魔の速さそのものだった。
「で、できた……って、いってぇえええええええええええええ!!!」
俺は無様にその場に倒れ込んだ。
「体……体超痛え! 足が! 足の筋肉が! いった! 腱とかもぶちっていってる!」
「当然じゃ。単眼悪魔の動きをマネできても、速さに体がついていかないのだ。体が壊れて当然じゃ」
「んなのわかってたよ! どうすりゃいいんだよ……」
ウルスラは俺のとなりに立つと、革袋を傾ける。
ドボッ……! と俺の顔に、全回復できる世界樹の雫がぶっかけられる。
ちぎれた筋繊維が完璧に治った。
「ぜえ……はあ……な、なおった?」
「ユーリに感謝しろ。貴様の力になりたいと、雫を大量に提供してくれている」
「そ、それって……つまり?」
「体が単眼悪魔の動きに耐えられるようになるまで、ひたすら走りまくれ。筋繊維はちぎれて治るたびに強くなるというしな」
ま、マジっすか……。
あの爆速ダッシュを何十何百って繰り返すわけ……?
「繰り返せば単眼悪魔の速さに耐えきれる強靱な筋肉が手に入るだろう。ほれ、立ち上がれ。ぼさっとするな」
俺はふらふらと立ち上がり、何度もダッシュを繰り返す。
何度も筋肉をぶちぶちに断裂させ、雫で筋肉を無理矢理超回復させる。
……鬼だ。悪魔だ。
マジなんでこんなスパルタなわけ?
もっとお手軽に、楽勝に強くなれないの?
「泣き言言う暇があるなら走らんかい!」
「くっそぉおおおおおおおお!」
……しかし繰り返すごとに、俺の足の筋肉と腱は、確実に、強くしなやかになっていった。
半日もするころには、完璧に単眼悪魔の速さを手に入れていたのだった。