74.鑑定士、精霊たちに看病される
子爵級魔族10体を倒した、数時間後。
ジャスパーの屋敷の、俺の自室にて。
俺が【ベッドで寝ている】と、部屋のドアがノックされた。
「どうぞ」
「失礼、し、ます……」
部屋に入ってきたのは、金髪美少女ユーリだった。
「ユーリ……なんだその格好?」
彼女は、珍妙な格好をしていた。
真っ白で清潔感のあるワンピース。
網タイツ。
頭には十字架の書いてある帽子。
「じゃっじゃーん! ナース服でーす☆」
その隣に、同様の格好のピナが顔を出す。
「はくいのてんし、とーじょー!」
ピナの後から、メイがひょこっと現れる。
幼女もまたナース服とやらを着ていた。
「…………」
「アリス……おまえまで……」
「……違う。無理矢理」
ナース姿のアリスは、うつむいて、もじもじする。
「おまえらなんでそんな変な格好してるんだよ?」
「そりゃあ、病人の看病と言えば、ナースでしょ☆」
ピナが顔の横でピースする。
「ねねっ、似合う? 似合ってる~?」
ピナが口元をωにして、俺の元へやってくる。
脇腹をひじでつついてきた。
「正直、やばくない? 美少女ナースが4人もいるんだよ? もう……胸がドキドキ?」
はぁ……と俺はため息をつく。
「アイン、さん。どうぞっ」
ユーリが白く丸まった何かを、俺に手渡してくる。
「おしぼりか? サンキュー」
ちょうど汗をかいてたところだ。
俺はおしぼりを受け取って、広げる。
「……なんですか、これは?」
おしぼりじゃなかった。
真っ白な……パンツだった。
「元気、に、なる……と、聞いて!」
「おい誰だユーリに変なこと教えたヤツは!」
「アタシです☆」
てめぇかぁああああああああ。
俺はピナの頭を掴んで揺する。
「アイン、さん。ピナちゃん、仲良しさん……です♡」
はぁ、とアリスが後でため息をついていた。
ややあって。
俺の寝るベッドサイドに、精霊たちがイスを置いて座っている。
「アイン、さん。元気、なった。わたし……うれしい、です」
ユーリが目を閉じて、ほーっ、と深く息をつく。
「ごめんな、ユーリ。心配かけて」
さて。
どうして俺がナース服の精霊たちに、看病してもらっているかというと。
話は、数時間前。
魔族10体を倒したとこまでさかのぼる。
あの直後、俺は気絶した。
そして次ぎ目覚めると、ジャスパーの屋敷へと運び込まれていた。
俺はすぐに、動こうと思った。
しかしユーリがやってきて、大きな声で、こう言ったのだ。
『休んでください! お願いだから!』
……その後俺は、言われたとおり休むことにした。
ジャスパーに医者を呼んでもらって、看てもらったところによると、ただの過労だったらしい。
「アイン、さん。お加減、どう、ですか?」
「問題ない。ユーリに世界樹の雫をもらって、少し寝たらもうすっかり良くなったよ」
「そう、ですか……。良かったぁ……」
ユーリが目の端に涙を浮かべ、淡く微笑む。
……その姿は、本当に美しかった。
キラキラ光る翡翠の目が、本物の宝石のようだった。
「みんな……ごめんな。心配かけて」
俺は精霊たちに、深々と頭を下げる。
「まっ☆ これに懲りたらもうちょーっと休みを取ることを覚えた方がいいかもね☆」
「そうだな……。反省してる。俺が倒れてる間に魔族が来たら、大変だもんな」
すると、4人全員が、はぁ~……と深くため息をついた。
「アインさん。あの、ね……」
ユーリが俺に近づいて、俺の手を握る。
「わたし、たち……アインさんの、体、が……心配、なの。アインさん、が、1番、大事……なの」
潤んだ目で、彼女が俺を見上げる。
「みんな、思い……一緒です」
「お兄さんが倒れちゃったら……困るじゃん。誰をからかえばいいんだって話」
「……アイン君がいないと、私……悲しい」
「めぃもおにーちゃんだいすきだから、ながいきしてほしいの!」
俺は精霊たちを見て、不覚にも泣きそうになった。
今まで、俺は誰にも必要とされてこなかった。
誰も、俺のみを案じてくれることはなかった。
初めてだ。
こんなふうに、誰かから心配してもらえることは……。
「アイン、さん? どーしたっ、の? 体が、痛いの?」
「……ユーリ。しばらく、そっとしてあげましょう」
ややあって。
「みんな。ごめんな。今度からは、もっと……体に気をつけるよ」
俺は彼女たちに、頭を下げる。
精霊たちが笑顔になってくれた。
「さっ! せっかくナース服になったことだし! 第一回! お兄さんを元気にしようぜ大会を、開始するぜー☆」
……名前から、いやな予感しかしなかった。
「ルールは簡単! お兄さんの息子さんを元気にさせた人が勝ち!」
「おいなんだその変なルールは!?」
「むすこ、さん?」
はて、とユーリとメイが首をかしげる。
「息子とは息子さんだ! ぞうさんだよ☆」
「おまえちょっと黙れ!!!」
俺はピナの頭を掴んで揺する。
「それじゃあエントリナンバー1! アリスお姉ちゃん! どうぞ!」
ピナがアホなことをし出す。
まあでも、アリスは常識人だからな。
アホ妹の言うことなんて聞かず、普通にしてくれる……。
……パサッ。
「あの……アリス?」
「…………見ないで」
アリスは、上着をはだけ、後ろを向いていた。
彼女の真っ白な背中が、俺の前にさらされる。
「おっとー! アリスお姉ちゃんはなんと背中を見せてきたー! 前を見せるんじゃなくてあえての後! 処女雪のように白い肌にお兄さんの視線はもう釘付けだー!」
「いちいち解説するな!」
アリスは背中まで真っ赤にしながら、服をいそいそと着る。
「さぁエントリーナンバー2! ユーリお姉ちゃん! アリスお姉ちゃんにこのままじゃ負けちゃうよっ?」
俺はユーリを見やる。
まさか、ユーリも服を脱いでくれるのか!?
「わかり……ました。わたし……脱ぎます! アインさんの、ためだもの!」
むんっ、とユーリが気合いを入れる。
ああマジか……。
いや悪いような、いやでもほら看病だからこれほら……。
と思っていたのだが。
「…………」
もみもみ。
もみもみもみ。
「おかげん、どう、ですかー?」
ユーリは、俺の背後に座り、肩を揉んでくれていた。
「ああうん……すっごく気持ちいいよ……」
「あちゃー。ユーリお姉ちゃんにはまだアダルト要素は無理かー。お兄さん、残念だったねー」
「おまえ、こうなるのわかってただろ……」
「まーね☆ お姉ちゃんほら、そーゆーの慣れてないし~」
こいつ……!
「アイ、さん。ゆーしょー、は?」
ユーリが俺に、期待のまなざしを向けてくる。
「……もちろん、ユーリだよ」
「わぁい♡」
「…………」
「アリスと同着で1位な!」
「……そ、そう」
かくして、精霊たちに看病され、俺は元気を取り戻したのだった。