70.鑑定士、ユーリとデートする
第4隠しダンジョンでの騒動を終え、俺たちは屋敷へと戻ってきた。
それから数日後の昼。
俺は、ユーリとともに、王都へと訪れていた。
王都中央にある、噴水広場にて。
「デートっ♡ アインさん、と、ふたりきりっ!」
おめかししたユーリがふにゃふにゃと笑っていた。
なぜこうなっているか?
先日の一件で、ユーリたちの姉が、人殺しをしてるかもと言う話になった。
別人ということで処理された。
それでもユーリの心には、不安の影を落とすことになった。
気晴らしにでもなればと思い、俺は一緒に出かけないかと誘った次第。
「アインさん、から……デートのお誘い! 天に、昇る……気分です~♡」
えへへとユーリが笑う。
しかしデート、か。
俺、友達すら居なかったから、誰かとどこかを回るってこと、したこなかったな。
『ちょっとお兄さん! なにやってるのー!?』
脳内にピナの声が響く。
『お姉ちゃんがおめかししてるんだよ! ほめなきゃ!』
俺はユーリを見やる。
確かに今日は、一段とキレイだった。
普段はシンプルな服装。
しかし今日はどことなく気合いの入っていそうな、洒落た服を着ていた。
「……あー、その。に、似合ってる、ぞ」
「えへへっ♡ わーい♡」
ユーリが諸手を挙げて、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。
ゆっさゆっさ、と乳房が揺れていた。
普段の服よりも、なんだか谷間がよく見えるデザインだった。
改めてみるとデカいな……。
『ほらー! お兄さん褒めないと! おっぱいでっかいですねー! って!』
「じゃ、ユーリ。行くか」
「はいっ♡」
『ちょっ! 無視すんなしー!』
ユーリとともに、王都のメインストリートを歩く。
日中だからか、かなり混んでいた。
なかなか前に進まない。
「迷子にならないようにな……って、ユーリ?」
後を見やると、ユーリがいなかった。
遥か後方に、彼女の金髪が見える。
人の波を縫って歩き、ユーリの元へとやってきた。
「はぐれるなっていったそばからおまえ……」
「わ、わー。ひとがいっぱい、だなー。これ、は、迷子に、なっちゃうよー」
超棒読みで、ユーリが言う。
「これ、は、手を繋がないと、危険だなー」
「…………」
「危険、だなぁー」
「……わかった。ほら」
俺はユーリに、左手を差し出す。
「♡」
ユーリは太陽のようにまぶしい笑みを浮かべると、俺の腕に抱きついてきた。
むにゅ~♡ と、腕が、彼女の柔らかすぎる胸に沈む。
「お、おまっ、離れろよっ」
「え、えー? なんです、かー? 人が多くて、聞こえ、ないな~」
やけに積極的だった。
どうせピナに色々吹き込まれたのだろう。
まあさておき。
俺はユーリとともに、昼食を取るため、レストランにやってきた。
天気が良かったので、店の外の席にしてもらう。
俺たちはテーブルを挟んで、向かい合うように座っている。
「アイン、さん。その【メガネ】、どうした、んですか?」
「これはジャスパーが手配してくれた【認識阻害メガネ】っていうんだ」
かけると別人に変装できるという魔法道具だ。
俺の顔は、結構知られている。
外を歩くとかなり目立つので、変装しているのだ。
「さすが、アインさんっ。ゆーめーじん、ですっ! わたし、うれしい、です!」
「どうして俺が有名だとうれしいんだ?」
「だって、わたし、アインさん、だいすきですっ! 好きな人、ゆーめーじんだと、わたし、とてもうれしいです!」
「えっと……どっ、どーも」
なんだろう。
頬が熱い。
ユーリの笑顔が、やけにまぶしく見える。
「アイン、さん?」
「めっ、メシにしようぜっ。何食べる?」
ユーリにメニューを渡す。
じーっ、とユーリがメニューに目を落とす。
「アイン、さん。字が……読めません!」
「え、そうなのか?」
「はい、さっぱり、です。なのでっ」
ユーリは立ち上がると、イスを持ち上げ、俺のとなりにイスを置く。
「どっこい、しょー。ふー」
「いやあの……ユーリ? おまえ何してるんだ?」
「メニュー、読めません! 読んで、ください!」
ユーリは俺の真横。
本当に密着するレベルで、隣に座る。
「いやその……」
「……しょぼーん」
「ああもう、わかったよ!」
俺はユーリが指さす文字を、読み上げる。
彼女が動くたび、胸がひじに当たる。
めちゃくちゃ柔らかい。
なんだこれ気持ちいい……。
一通りメニューを読み上げ、ユーリはカレー、俺はパスタランチを頼む。
ややあって、テーブルの上に料理が運ばれてくる。
「わぁ♡ おいし、そー! はやく、たべ、ましょー!」
「ああ……。その、ユーリ? どうして隣に座ったままなんだ?」
「え、えー? なに、か、おかしい、ですかー?」
「前の席が空いてるだろうが……」
「わたし、ここ……好き! ここわたしの、領域!」
むんっ、とユーリが両手を広げる。
移動する気は、さらさらないらしい。
二人並んで、俺たちは昼飯を食べる。
だがすぐ近くに彼女の顔があって、俺はドギマギしてしまう。
……近くで見ると、ユーリは本当に美人だ。
顔はびっくりするほど小さい。
唇はみずみずしい果実のよう。
さらさらの金髪は、金糸で編んだ高級な織物のようだ。
「アイン、さん。どーした、の?」
「えっ!? いや!? なんでも!?」
仕舞ったオーバーリアクション過ぎたか……。
じーっ、とユーリが俺を不審そうな目で見る。
「わかり、ました」しまったさすがにバレたか「カレー、食べたいんですね!」良かったバレてなかった。
……バレる?
良かった?
何のことを言ってるんだろうか、俺は……?
「はい、アイン、さん。あーん♡」
ユーリがカレーを一口掬い、スプーンを俺に向けてくる。
「あーんっ♡」
「あ、はい……」
ユーリから有無を言わさないオーラが出ていた。
俺は一口、食べる。
「おい、しー?」
「ああ、すっごく……」
正直緊張で味がわからなかった。
「それは、良かった♡」
ユーリはそのスプーンで、普通にカレーをパクッと食べる。
「お、おいっ! 新しいのに変えてもらえよ?」
「え? どうし、て?」
「いやそれ間接キス……」
「? !」
かぁあ……とユーリの頬が赤く染まる。
今頃気付いたのか……。
「俺、新しいのもらってくるよ」
「い、いいえ! だいじょうぶ、です!」
ユーリが俺の腕をひっぱり、にっこり笑う。
「大丈夫、ですので! むしろ、ごほーび、ですので!」
「そ、そうか……」
ユーリが首まで真っ赤にして言う。
俺もまあ……たぶんそんな感じだったと思う。
そんな感じで、俺たちはランチを食べたのだった。




