67.鑑定士、第4の精霊と契約し更に強くなる
第4隠しダンジョンにある、巨大樹に足を踏み入れてから、数日後。
ついに俺は、第4精霊【メイ】の待つ、樹の頂上まで到達した。
「ここか……結構時間かかったな」
巨大樹の頂上は、ちょっとした庭園になっていた。
色とりどりの花が、あちこちで咲き乱れている。
「お花。きれー、です♡」
ユーリがしゃがみ込んで、花を手に取り、せっせと何かをする。
「何してるんだ?」
「めーちゃん、に……おみやげ、作って、ます」
ややあって、ユーリが花の冠を完成させた。
花畑の奥には、見慣れた【世界樹】が佇立していた。
俺とユーリは、世界樹の元へ行く。
「めー、ちゃーんっ」
ユーリが声を張った……そのときだ。
世界樹の根元に、青い光が集まっていく。
それは一人の少女……いや、幼女を形作った。
7〜8歳くらいの美幼女だ。
晴れた日の空を思わせる、青く澄んだ長い髪。
真っ白な肌に、あどけない表情。
お姫様のような、フリルの付いたドレスを着ている。
「この子がメイ……か」
ふわり、とメイが着地する。
閉じていた目を開く。
とても美しい空色をしてた。
メイと、俺の目が合う。
「ひぅっ……!」
さぁ……っと、メイの顔色が、真っ青になる。
「ぴぇえええええええええええええん!」
途端、メイが大泣きしだした。
「ぴぇえええええええええええええん!」
「う、うるせえ……!」
俺は両手で耳をおおい、しゃがみ込む。
「め、めーちゃんっ。わたし、だよっ。ユーリ、だよっ」
すると、ピタッ、とメイが泣き止む。
「【ゆぅちゃん】……?」
「うんっ♡ そー、だよ……めー、ちゃん♡」
「ゆぅちゃんだ! ゆーちゃーん!」
たたっ……! とメイがユーリに駆け寄る。
ユーリはメイをキャッチし、むぎゅーっと抱きしめる。
「めーちゃん、ひさしぶり、だねぇ~」
「うんっ! すっごぉーーーーーく、ひさしぶり!」
さっきの泣き顔から一転、メイはヒマワリのような笑みを浮かべる。
「ゆぅちゃん! おみやげないの?」
「あり……ますっ! じゃんっ!」
ユーリが手に持った花の冠を、メイに手渡す。
「ほほぅ。これは……とってもいいものですねっ!」
メイが冠を手にして、その場でクルクル回る。
「めぃにのせてくださいな!」
ユーリはうなずいて、メイの頭に、花の冠を乗せた。
「どうどう? めぃにあってる? びじんー?」
ふふん、とメイが胸を張り、ポーズを取る。
「はいっ♡ とぉって、も……美人、です!」
「スカウト、きちゃうかなぁ~?」
「いっぱい、いっぱい、きちゃい、ます!」
「こまったなぁ。めぃ、そーゆーのきょうみないんだよねっ」
……とまあ、そんなこんながあった後。
俺たちは庭園の中央へとやってきた。
俺とユーリの分のイスがある。
これらはメイが能力で作った物だ。
幼女はユーリの膝の上に乗っている。
「ねーねー、どーして? ゆぅちゃん、めぃのとこ来たのー?」
「めーちゃん、が……ピンチ、だって……聞いて」
「そー! へんな赤い頭のやつきて、めぃをゆーかいしよーとしてきたのっ! 怖かったよぅ」
メイがユーリの大きな胸に抱きついて、すりすりと頬ずりする。
「もう安心、です! アインさん、います!」
ユーリが俺を指さす。
青い瞳が、俺をまっすぐ見る。
「じ~~~~」
「……なんだよ?」
メイはユーリの膝上から降りると、俺のとなりへと移動してきた。
「おにーちゃん! おひざのせてくださいなっ!」
「え? あ……え?」
突然のことに俺は困惑する。
「のせてくださいなっ!」
「あ、ああ……どうぞ」
ひょいっ、とメイが俺の膝の上に乗る。
「あたまなでてくださいな!」
「あ……はい」
よくわからんが、断る理由もなかったので撫でる。
「たかいたかいは、できますかっ?」
「は……?」
「できますかっ?」
「できるけど……」
メイが膝から降りて、バッ……! と両手を上に上げる。
俺はメイの脇の下に手を入れて、持ち上げる。
何度か高い高いして、下ろす。
「おにーちゃん。ちょっとシンキングタイム、挟んでまいります!」
メイは俺のそばを離れ、ユーリの元へ行く。
ボショボショと話した後、ユーリとメイが二人して、笑顔でうなずく。
「けっかはっぴょー!」
ユーリがメイを抱っこして、俺の元へやってきた。
「おにーちゃん! アインおにーちゃんは……めぃの、おきにいりに、とーろくされましたっ!」
ビシッ! とメイが俺を指さす。
「ユーリ。どういうことだ?」
「メイちゃん、も……アインさん、についていく、そうです」
なんだそういうことか。
「いいのか? 守り手の意見とか聞かなくて?」
メイもユーリ同様、世界樹の精霊だ。
彼女を守る守り手がいてもおかしくない。
ピクッ……! とメイは体を硬くする。
「……いないの」
「え? いないって……守り手がか?」
こくり、とメイがうなずく。
「【うー】ちゃん、でていっちゃったの……」
「出て行ったって……守り手は世界樹から離れられないんじゃなかったのか?」
すると隣に、ウルスラが顕現する。
「守り手【ウルキオラ】だけは、例外的に外で自由に動けるのじゃ。そういう能力を持っている。……まったく、【一族】の恥さらしめ」
「でもそれじゃあ、大変だっただろ、今まで」
「うん……」
メイが沈んだ表情になる。
「もう……ひとりぼっちは、いやだよぉ……」
……こんな幼い子が、ひとりで。
ずっとダンジョンの奥で、敵におびえながら生きてきたのか。かわいそうに。
俺はしゃがみこんで、メイを抱っこする。
「よし、一緒に行こうぜ」
「いいのっ?」
「ああ。今日から俺が、おまえを守る」
わしゃわしゃ、とメイの頭を撫でる。
「おぬし、メイの守り手になるということか?」
「ああ。ウルスラ、メイの精霊核の加工を頼む」
ウルスラはうなずき、世界樹から精霊核を取り出す。
青色のそれが、俺の義眼と合体。
「おにーちゃん……ありがとー!」
メイは笑って、俺の唇に、軽く口づけをする。
その瞬間だった。
ずぉお…………!
俺の体から、何かとてつもない【エネルギー】が噴出して【見えた】。
「な、なんだこれ……?」
「どうやらこれが【闘気】というものらしいの」
ウルスラが俺の目を通して、このエネルギーの正体を鑑定してくれる
「おぬしの【神眼】は、メイの精霊核を取り込んだことで、進化して【闘気】が見えるようになったようじゃ。そして、メイと契約したことで、今まで体に秘めていた闘気を解放したみたいじゃな」
「それとね、めぃのね、【創樹】使えるよーになったよ! 樹を自在に操れるのですっ!」
……なんか色々パワーアップしたな。
何はともあれ、こうしてまた一人ユーリを家族に会わせることができたのだった。




