64.鑑定士、第4精霊のもとへ向かう
上級魔族イオアナを撃退した、数日後。
俺は、第4の精霊のいる、隠しダンジョンへとやってきていた。
経緯としては、アリスが千里眼でイオアナの心の中を鑑定。
アイツはここへ来る前、精霊の居る隠しダンジョンを訪れたと知る。
そこから場所を特定して、隠しダンジョンへとやってきた次第だったのだが……。
「なんだこの、でかい樹は……?」
俺がいるのは、この国の東にあるとあるダンジョン【跡地】。
普通ダンジョンは、地下へ続く作りになっている。
しかしダンジョンの入り口は破壊され、そこから凄まじく高い樹が生えていた。
「ウルスラ、世界樹か?」
『違うな。【メイ】の能力で生やした、ただの樹じゃ』
この隠しダンジョンには【メイ】という、ユーリたちの妹精霊がいるそうだ。
『メイちゃんはねー、樹木を作って、自在に操る能力があるんだよ。森だって作れちゃう』
精霊ピナが言う。
「おまえもダンジョンをジャングルにしてたけど、あんな感じか?」
『違う違う。あれはただの幻術。メイちゃんのは無から樹を作るの。実物を、無限にね』
「何もないところから樹を作るって、とんでもない能力なんじゃないか……?」
『まーね。けどそれくらい強い力もってないと【ダメ】なんだよね』
「どうしてだ?」
『メイちゃん幼くて、しかもあんまり人を傷つけるの得意じゃなくてさ。だから強い力を持ってないと自己防衛できないの』
「その結果がこれか……。アリス。イオアナから読み取った情報によると、やつは一度ここを訪れてるんだよな?」
『……そう。メイを拉致しようとして失敗。メイは自分を守るために【創樹】の力を使った。単独では無理と悟ったイオアナは撤退。そのままアイン君のもとへ来た』
アイツあんなイキってたわりに、本来のミッション失敗してやがったのか。
恥ずかしいヤツめ。
失敗を帳消しにするために、俺のところへ向かったというわけか。
「つまり、メイは自分の身を守るためにこのデカい樹を作ったと。じゃあ本人は……」
天を貫く巨大な木を見上げる。
この樹のどこか。
あるいは、頂上にいるか。
敵から身を守ると考えると、てっぺんの可能性が高い。
ぱぁ……と左目が光り、ユーリが顕現する。
「アイン、さん……」
金髪美少女が、潤んだ目で俺を見やる。
その目は、不安そうだ。
「心配すんなって」
俺はユーリのさらさらの髪を撫でる。
「メイには会わせてやる。妹なんだろ?」
「うん……一番、下。【めーちゃん】……とってもこわがり、です。とっても、さみしがりやさん、です」
「そっか。なら、すぐ姉ちゃんたちが迎えに行ってやらないとな」
ぽんぽん、と俺はユーリの頭をなでる。
「アイン、さん……いつも、ありが、とう……」
ユーリが俺の体に抱きついて、微笑んだ。
……不覚にもドキッとしてしまった。
『……アイン。ユーリ。節度はわきまえるのじゃよ?』
『あー! もうウルスラママだめだってばー! いいとこだったのにー!』
かぁ……っとユーリが頬を染めて、ぱっと離れる。
俺の目へと戻っていった。
「具体的にどう進めていくかな」
『内部構造を鑑定したぞ。どうやらこの大樹は、1本の巨木というよりは、無数の樹木が重なり合って作られた【建造物】に近いみたいじゃ』
「ということは、中から昇っていける感じか?」
『そうじゃな。大きな分すきまも多い。適切なルートはわしが鑑定しよう。ただ、気をつけるのじゃ。ダンジョンのモンスターもまた樹の隙間に潜んでおる』
「ようするに、いつものダンジョン攻略が、下へじゃなく上へ昇ってく感じなだけだろ?」
なら、何も問題は無い。
『余裕そうじゃな』
「俺にはウルスラがいるからな。いつもサポートありがとう」
『……ふん。勘違いするでない』
「わかってるって。ユーリのためなんだろ」
『ふんっ。……ちょっとは気付け、ばか』
「ん? なんか言ったか?」
『いっ、言っとらん! ほらぼやぼやするな! とっとと進むぞ!』
俺はうなずいて、ダンジョン入り口へと向かう。
地下から伸びた巨大な樹木が、何本も折り重なって、遥か頭上へと伸びている。
木で編んだ籠の中にいる気分になった。
ただし俺がいるのは、敵がうごめく樹木の迷宮だけれど。
ウルスラがルート鑑定を行う。
足元に矢印が伸びる。
「いくか」
上へ伸びる樹の1本に、俺は乗る。
全然ぐらぐらしない。
足場はしっかりしてる。
「これならいざ敵が出てきても、戦えそうだな」
俺が一歩足を踏み出した……そのときだ。
『……アイン君。トラップ。木の枝が君の右足を狙ってる』
アリスの警告を聞いて、俺はその場から後退。
ついさっき立っていた場所に、凄まじい速さで枝が伸びてきた。
「この樹、生きてるんだな」
『ピナが言っておっただろ? 自己防衛のために能力を使っておると』
「なるほど。天然のトラップってわけか」
罠があり、しかもこの樹は天高くそびえている。
中にはモンスターがうじゃうじゃ。
建造物じゃないから、正確なルートがわかりにくい。
一時撤退したイオアナの判断は、まあまあ正しかったと言うことか。
「まあ、俺には……何も問題ないけどな」
罠も、敵も、【神眼】が見切ってくれる。
『アイン、敵じゃ。雷鳥。素早い動きの鳥型モンスターじゃ。敵の直接攻撃を受けると雷になって避ける【雷撃】という能力を持つ。Sランク』
姿が見える前に、ウルスラが敵の位置、そして敵の動きを、鑑定してくれる。
俺のすぐ真横で、雷の小鳥が止まっていた。
こいつが雷鳥か。
別に敵の時間が止まっているわけじゃない。
動体視力が極限まで進化し、物事が止まって見えるのだ。
この止まった時空の中で、俺だけは普通に動ける。
【超加速】、【竜血強化】を使い、体を超スピードで動かす。
精霊の剣を取り出し、雷鳥の突撃を【攻撃反射】。
パリィイイイイイイイイイイン!
雷鳥は剣の腹でぶったたかれ、壁にたたきつけられる。
『さすがじゃな。斬撃など直接攻撃でダメージが与えられないから、反射で弾き壁にぶつけ間接的なダメージで倒すとは』
俺は精霊の剣を消す。
「Sランクがいるのってどうしてだ?」
『隠しダンジョンの敵が外に出てきてるのじゃろう。それと樹木型モンスターが自動生成されてるようじゃ』
「メイはモンスターまで作れるのか。応用の利く能力なんだな」
『身を守るための手段の1つじゃろう。無自覚だからな』
「わかってる。悪意があって敵を襲わせてないことくらいはな」
ふぅ……とため息をつく。
「今回のダンジョン攻略も、問題なさそうだ」




