63.鑑定士、上級魔族と戦う
俺が魔族ホーネットから、【魔法無効領域】、【眷属操作】を鑑定した、数日後。
俺たちの住んでる、ジャスパーの屋敷にて。
魔族が、俺の目の前に、堂々とやってきたのだ。
敵は俺の部屋のドアを開けて、普通に乗り込んできた。
黒姫たちと作った防御システムを、敵がかいくぐってきて、である。
そいつは、ぱっと見で、俺と同年代に見えた。
赤い髪に金の目。
最初は人間かと思ったが、纏っている雰囲気が人外のそれだった。
「やっ。君がアインくん? なんかほんと弱そうだね」
「……誰だ、おまえは?」
「ボクはイオアナ。今日は君を殺しに来たんだ」
実にあっさりとイオアナが言う。
笑ってやがる。
まるで殺意を感じない。
……だが、ただならぬ気配を感じる。
「へぇ! きみ、【魔力探知】もないのに【魔力遮断】してるボクの魔力を嗅ぎ取っているんだ。やるね、サルのくせに」
「……なにもんだ、おまえ?」
「ボクの爵位は【公爵】。魔族5貴族の中の、トップさ」
俺が戦ってきた子爵、男爵とは、文字通りレベルが違うらしい。
「非魔族のサルの討伐なんて、下の奴らがするべき仕事なんだけどね。サルが調子乗っているのがカチンときちゃって、ボクが直々に倒しに来たってわけ」
あれ? こいつ、俺のこと侮ってるな。
……ウルスラ、能力の鑑定を。
『能力として【魔力探知】【魔力遮断】【縮地】【精密射撃】【威嚇】【環境適応】。技能として【闘気操作】をコピーしたぞ』
……最後の闘気ってなんだ?
『自然界にあふれるエネルギーを体内に取り込むことで、莫大な運動エネルギーへ変換する。上級魔族のみが持つ技能らしい』
コピーしたんだから、俺にも使えるってことだよな?
『そうじゃろう。使ってみるか?』
待ってくれ。ぶっつけ本番は怖い。
朱羽、準備は?
『いつでもいけるで!』
……よし。
「なぁ、ごたくはいいからさっさと始めようぜ?」
「あれ? すっごい自信だね? あ、そっか。ボク今魔力を遮断してるから、ボクの強さ、サルにはわっかんないのかな?」
俺は【仕込み】をしていく。
ヤツの意識が【あっち】にいっている間に、俺はゆっくり【近づく】。
「おまえの強さなんて知らん。ただ……」
イオアナの【背中】に、俺が触れる。
「油断がおまえを殺すってことは、確かだな。【弱体化】」
「!?」
バッ……! とイオアナが背後に居る【俺】を見やる。
「バカなッ!? なんでそこに!?」
俺は精霊の剣を取り出して、【金剛力】と【竜血強化】を発動。
イオアナの顔面めがけて、俺は剣を振る。
「ハッ! サルの剣なんて余裕でぶっ……!!!」
剣の腹が、イオアナの顔に激突。
そのまま、窓の外へと吹っ飛んでいく。
部屋の中で暴れるわけにはいかないからな。
俺は剣を持ったまま、やつの後を追う。
イオアナは裏庭に倒れていた。
ゆっくりと、立ち上がる。
「は、はは……サルのくせに、やるじゃん……」
敵は顔を手で押さえている。
鼻血が出ていた。
「久しぶりだよ……このボクに攻撃を加えたやつは。今まで全員、すぐに死んじゃってたからね」
イオアナが懐から拳銃を取り出す。
「さっきは油断して一撃もらったけど。もう油断しない。君が勝てる可能性は0だ」
「いや、おまえが勝つ可能性はもう0だ」
「ボク、君みたいな身の程知らずのサルが一番嫌いなんだ。……死ね」
ドドドゥッ……!
拳銃から3発の銃弾が、俺めがけて飛んでくる。
俺は攻撃反射のタイミングを鑑定。
「攻撃反射? 無駄無駄」
ヤツの言葉を無視して、俺は剣の腹で銃弾を弾く。
パリィイイイイイイイイイイイイン!
「なっ……!? なんだって!?」
イオアナが目をむく。
銃弾は倍の速さで、敵めがけて跳んでいく。
「くっ……!」
イオアナが避けようとする。
だが銃弾は途中で軌道を曲げ、やつの腹部に全弾命中。
「ぐあっ……!!」
ガクッ……とイオアナが膝をつく。
「そ、そんなバカな!? 精密射撃を使ったんだぞ!? 敵の防御を避けて本体を攻撃するはずなのに!?」
額に汗をかくイオアナ。
俺は無視して、敵に走って近づく。
「く、くそっ!」
ドドゥッ! ドドゥッ!
イオアナの銃弾。
俺は動きを完璧に鑑定。
すべてをすれすれで避ける。
「何で当たらないんだよぉぉおおおお!?」
俺はイオアナの胴めがけて、【斬鉄】を使用した精霊の剣を振るった。
ザンッ……!
「ガハッ……!」
やつの胴体が切断される。
ボトッ……と上半身が地面に落ちる。
「バカなあり得ない! このボクが! こんな非力なサルに負けるなんて!」
「非力と侮ったから、おまえは負けるんだ」
「おかしいだろ! 公爵のボクが君ごときに翻弄されるなど!」
「まあ、普通の状態で負けてたかもな。ただおまえは【弱体化】を受けている」
触れた相手のレベルを下げて、文字通り弱体化させる能力だ。
「ボクに触るタイミングなんてなかったはずだ!」
「おまえが余裕ぶっこいてる間に、【陽炎分身】でまず偽物の俺を作った。その間に、【隠密】と【魔力遮断】を使って背後に回り、【弱体化】を使用した」
あとは普通に倒した。
銃弾が当たらなかったのは弱体化の影響で能力が発動してなかったのだろう。
「ふざ……ふざけるなよ! こんなのズルじゃないか!」
「まあな。ただズルでもなんでも、勝てばいいんだよ」
ギリ……っとイオアナが歯がみする。
……というかこいつ、体を切断していても普通に生きてられるんだな。
俺は剣を振りかぶり、やつの首を落とそうとする。
そのときだ。
イオアナの真下に、突如として【穴】が開いたのだ。
そのまま穴の中へと墜ちていく。
「アイン! 覚えてろ! 次は殺す! 絶対に殺してやるからなぁああああああああああああ!」
穴が完全に閉まる。
後には俺だけが残された。
「ふぅー……」
「アイン、さん」
ぱぁ……っと左目が光り、ユーリが顕現する。
「だいじょー、ぶ?」
「ああ……大丈夫だ。問題ないよ」
ユーリがホッ……と安堵の吐息をつく。
スカートからハンカチを出して、ちょんちょん、と額を拭ってくれた。
「アインよ。危ないところじゃったな」
今度はウルスラが転移してくる。
「しかしあの逆境で、あの強敵を倒した。さすがじゃ、アイン」
「すごい、です! つよつよ、です!」
「ありがとな」
今回の最大の敗因は、ヤツが俺を弱者と侮ったことだろう。
「ほんと、魔族はどうしてああも、人間を馬鹿にするんだろうな。そのせいで足をすくわれるっていうのにな」
かくして俺は、上級魔族を退けたのだった。




