61.鑑定士、美少女たちと露天風呂に入る
俺が領主となってから、2週間ほどが経過した。
ある日の夜。
俺はレーシック領内にある、【温泉】へとやってきていた。
「領地に必要だろうってミラに発注したら、マジで作るんだもんな。やるな、あいつ」
「お褒めいただき、光栄でございます」
俺のとなりには、黒髪の犬獣人、ミラが立っている。
豊満な体を、タオル1枚で包んでいる。
お尻から覗く犬しっぽが、ゆらゆらと揺れていた。
「ご主人様がお疲れだと思いまして、お背中を流そうかと」
「……そういうことしなくていいから」
「いや! 遠慮することないよ、ダーリン!」
脱衣所から褐色肌の少女ペトラが、俺の元へ駆け寄ってきた。
……全裸だった。
「おまっ!? 服を着ろ!」
「ダーリンなにいってるの? お風呂は裸で入るもんだよ!」
「男湯なんだよここは!!!」
俺が逃げようとする。
しかし、後からハシッ……と誰かにホールドされた。
「ご主人様……すみません」
「み、ミラ!? おまえもそっち側なのか!?」
「……たまには、ご主人様と一緒に湯につかりたいのです……いけませんか?」
潤んだ目で、俺を見下ろしてくる。
「いやダメだろ。お、男が女と一緒に風呂なんて」
そのときだ。
ぱぁ……! と俺の左目が光る。
精霊ユーリ、ピナ、そしてアリス。
賢者ウルスラに、黒姫、朱羽。
俺の関係者が、勢揃いしていた。
「アタシたちと一緒に、お風呂はーいろっ☆」
この場に居る8人全員、とてつもない美少女揃いだ。
女神の世界にでも来てしまったのかと錯覚する。
「いや、俺はやっぱり……」
とにげようとした、そのときだ。
パリッ……!
進行方向に、何か見えない壁が張られていた。
「あらあらお兄さま。どうしましょう。わたしの結界が誤作動を起こしてるみたいです♡」
「黒姫……ワザとやってるだろ……?」
「まさか! とんでもない。まあ確かにとても面白い状況かなーっとは、思いますけど♡」
「たいへーん☆ このままじゃ風邪引いちゃうぞ☆」
「風邪……だめ。一緒に、おふろ……です!」
ふんふん、とユーリが鼻息荒く言う。
……どうせ風呂に入らないと、結界を解いてくれそうにないしな。
かくして俺は、着替えて、全員で露天風呂につかるのだった。
「ちょっと待て。なんでおまえら全員、タオルぬぐんだよ?」
いざ湯船に入ろうとした途端、いっせいに脱いだのである。
「お兄さん何言ってるの~? お風呂にタオル入れない。これ常識っしょ~?」
「おっ! ピナっちわかってるぅ~。そうだよねー! タオルつけてるダーリンの方が変だよねー!」
……妙に馬が合うな、ピナとペトラのヤツら。
「ささっ☆ お兄さんもほらタオルとってとって~」
「ダーリンが取らないならあたし、とっちゃおっかな~」
「やめてくれってマジで!」
俺がふたりから距離を取る。
「あーもー! 兄ちゃんじれったいなー! 男らしくしぃや!」
朱雀の娘、朱羽が、素早い動きで俺からタオルを奪った。
「おー、なんや、いいもんもっとるやん」
「お兄さまってばなかなかご立派なものをお持ちで♡」
この四神の娘たちのデリカシーがなさ過ぎる。
俺はさっさと湯船の中に退避した。
「じゃアタシ、お兄さんの隣☆」
「それじゃあダーリンの逆側はあたし!」
右にピナ、左にペトラが座る。
「ユーリっちほらおいでー! まだ空いてるから!」
いや空いてねえよ……。
バシャバシャと泳ぎながら、ユーリが俺の背後に回る。
「え、えいやーっ」
ユーリが、生の乳を、俺の背中に押しつけてくる。
「ちょっ!? ゆ、ユーリ!? は、離れてくれ!」
めちゃくちゃすべすべして、もちもちしてた。
「え、えー? なんです、かー? 声が小さくて、聞こえ、ないなぁ……」
「…………」
その様子をアリスが離れてみていた。
「なにしとんねんアリス! 他の子ぉらがほらあんなに積極的に兄ちゃん狙っとるんやで? ぐいぐいいかな!」
「そうですよアリスちゃん。この恋の戦争に勝ち残るためにはアタックありですわ♡」
四神ふたりが、アリスの背中を押す。
「いやあのですね……二人とも。アリスが嫌がってるじゃないですか。無理強いはよくないですよ……」
ウルスラが擁護側に回っていた。
「ウルスラちゃん! 消極的な態度でアリスちゃんが負けてしまったらどうするのですかっ?」
「そうやで! オスは1匹しかいないんや! ぐいぐいいかな食われちまうで!」
「……おふたりとも、楽しんでません?」
「「とっても♡」」
「……アリス。この人らの言うこと真に受けなくて良いぞ」
「……ありがとう。ウルスラさん」
一方で、俺の周りは、もうなんかとんでもないことになっていた。
ピナ、ペトラ、ユーリ。
そしてミラ。
4人の美少女が俺に密着するようにして、座っているのである。
「あれあれ~? お兄さんどうしたの~? 温泉入ってるのに汗ダラダラじゃーん☆」
「ま、まさか……のぼせちゃった、の?」
「こんなことがあろうかと、お水を用意しております。さ、どうぞご主人様」
ミラがボトルを俺に差し出してくる。
「おっとミラっち! それをあたしにかしたまえ!」
ペトラがミラから、水の入ったボトルを奪う。
口をつけてごくごくと飲んで、「ん~♡」と唇を近づけてきた。
「おっ、ペトラお姉ちゃんやるぅ~☆ 口移しだね! よーし、やるよ、ユーリお姉ちゃん!」
「え、あ、えっと……お、おー! やったる、ぞー!」
ピナ、ユーリ、そして……なぜかアリスもこっちに来て、ボトルを飲む。
「おにーひゃん☆ ん~♡」
「アイン、ひゃん。ん~♡」
「…………」
精霊たちが、キスを待つような表情で、俺を見上げてくる。
いやうれしいけど、これはさすがに……。
と、思ったそのときだ。
ガシッ……!
と、ペトラが俺の両肩を掴んで、そのまま俺の唇に、自分の唇を重ねてきたのだ。
「ぷはっ……。ダーリンじれったいから、キス……しちゃった♡」
えへっ♡ とペトラが照れくさそうに、しかし嬉しそうに笑う。
「さぁ三人とも! あたしに続けー!」
ペトラに羽交い締めにされ、俺はユーリ、ピナ、そしてアリス……と。
なぜか知らないが、キスをした。
「え、えへへ~♡ うれ、しーなー♡」
「あ、アリス様!? 大丈夫ですか!? アリス様ー!?」
ミラが慌てて、アリスを抱き起こす。
顔を真っ赤にしたアリスが、夢見心地の表情で倒れていた。
「おー、兄ちゃんやるやん」
「これで残り2人の精霊とも、契約したことになりましたね♡」
四神ふたりが、俺に近づいてきて言う。
「は? どういうこと……?」
「わしとユーリのときと同じじゃろう。パスをつないだのじゃ。神眼がレベルアップして、【技能】鑑定ができるようじゃぞ」
まあそんなふうに、みんなで温泉に入ったのだった。




