53.鑑定士、傷ついた村人たちを助ける
サル魔族を全滅させた直後。
村にて。
『シルバー・コングたちは村人を襲い、エサとして魔界に連れて帰ろうとしていたみたいじゃな』
「魔界なんてものがあるのか?」
『ああ。魔族たちはゲートをくぐって、本拠地から人間界へとやってきては、こうして食料にと人間をさらって帰る』
なんてやつらだ。
「そ、そこのおかた……」
老人が俺の元へとやってくる。
額からは血が出ていた。
「治癒、します!」
ユーリが顕現。
老人の頭に、世界樹の雫をかける。
「おおっ! 傷が治ってる! す、すごい!」
世界樹の雫は傷を全回復する効果があるのだ。
「あんたは?」
「わしはこの村の村長です。あなたがたはいったい……?」
「他に怪我人はいるか? 俺たちが治療する」
「それはありがたいですが……なにぶん貧しい村です。見返りをご用意差し上げられませぬ……」
「気にするな。金なんて取らない」
「ほ、本当でございますかっ?」
俺も、そしてユーリも、うなずく。
「困ってる、とき、おたがい、さま、です」
「そういうことだ。気にするな」
「おおっ……! な、なんと慈悲深いお方!」
そんなわけで。
俺とユーリは、手分けして村の治療へと当たった。
ユーリの護衛にはウルスラがついているので、俺は重症患者たちの治療に取りかかる。
村の小屋のなかでは、重症の患者や死者が寝かされていた。
「村の若い衆たちです。われらを守ろうと、あのサルの魔族に戦いを挑んだ結果、返り討ちに遭いまして……」
魔族にとって人間はエサだが、抵抗してくる人間はエサ以下と見なされて処分されたのだろう。
「この中にはわしの娘もおりまして……」
スッ……と村長がしゃがみ込んむ。
活発そうな印象の、若い女の子だ。
心臓を破壊され死んでいる。
「すまない、ふがいない父で……すまない……」
「村長。どいてくれ」
「いったいなにを……?」
俺は村長の娘に、スッ……と手を向ける。
そして俺は【完全再生】を発動させる。
部位の欠損を治すだけでなく、死者の蘇生もできる最強の治癒能力だ。
ややあって。
「あれ……? お父さん?」
「ペトラ!」
村長が自分の娘に、抱きつく。
娘は、何が何だかわからない様子だった。
「お父さん……あたし、どうしたの?」
「魔族に殺されたおまえを、この御仁が助けてくださったのだよ!」
ペトラは立ち上がると、ガバッ……! と俺を正面から、ハグしてきた。
「ありがとう! 小さな英雄さん!」
小さなって……いやまあ確かに、ペトラの方が身長高いけど。
それにこの子、結構胸がある。
というかめちゃくちゃデカい。
肌は少し日焼けしてて、上着からちらっと見える胸は、まるでチョコレートプリンだった。
「は、離してくれ……まだやることがあるんだ」
「あ! ごめんね!」
にこにこーっと笑いながら、ペトラが俺の左腕にひっつく。
「なんだ?」
「んー? 別に! お気になさらずっ♡」
むぎゅーっと、ペトラがその大きな胸を押しつけてくる。
「他の村人の治療と蘇生をする。悪いが村長はユーリ……外の女の子を手伝ってあげてくれ」
「わかりました! アイン様!」
だっ……! と村長が出て行く。
俺は自分の仕事をしようとする。
だがペトラが、俺に抱きついたままだ。
「離れてくれって、やりづらいから……」
「いやよ! だってあたし、きみのこととっても気に入ったんですもの!」
頑固そうだ。
俺は無視して、重傷人たちの治療をしていく。
「ね、ね、きみいくつ? アタシ17歳!」
「15だ」
「じゃあぜんぜんありね! ねえまだ結婚してない? ならあたしの旦那になってよ!」
「気が早すぎるだろおまえ……」
「一目惚れってきみ知らないの? あたしはあなたに救われたとき、確信したね! きみは運命の王子様だって!」
何を言ってるんだか……。
ややあって、俺は死傷者すべての治療を終えた。
ユーリたちの方も終わったらしい。
「アイン様! ユーリ様! このたびは本当に、ありがとうございました!!!」
村人全員が、俺たちに頭を下げる。
「あなたたちのおかげよ!」「ありがとう!」「ほんとうにありがとうー!」
村人たちから感謝されて、ユーリが嬉しそうに笑っていた。
俺はそれが嬉しかった。
村長は滝の涙を流しながら、俺の手をにぎって、ぶんぶんと上下に振る。
「あなたがたは命の恩人です。このご恩は決して忘れません!」
村長がユーリの手をにぎって、ぶんぶんと上下に振る。
「あ、アイン……さぁん……」
慣れないことに、ユーリは困惑してるようだった。
「素直に喜んどけって」
「う、うん……」
その後も、村人たち全員から手を握られ感謝された。
彼女は困惑してたが、次第に笑顔になった。
彼女は今まで他人に優しくしても、恩を仇で返され続けてきたからな。
こんなふうに、きちんとお礼が返ってきたことが、うれしかったんだろう。
ユーリが喜んでくれるなら、人助けも悪くない。
「それじゃ……俺たちは帰るな」
「なんと! どうか泊まっていってください! あなたたちのために宴をご用意させてください!」
「俺たちは忙しいんだ」
「そうですか……残念です……」
「悪いな。それじゃ」
飛翔で帰ろうとした、そのときだ。
「お父さん! それじゃ!」
ペトラがビシッ! と敬礼のポーズで、村長に言う。
「あたし、この人についてく! お嫁さんにしてもらう!」
「ちょっと!?」
ペトラが俺の腕にしがみつく。
谷間に、腕が沈んだ。
「が、がーんっ。お、およめさんこーほが……ふえたっ!」
「いやユーリ落ち着け……。村長、ペトラをなんとかしてくれ」
「いや! アイン様。どうか娘をつれていってくださいませ!」
「あんたまで何言ってんだよ……」
村長はペトラの肩を叩いて言う。
「あなた様には返しきれない恩を受けました。無償でいいとは言われましたが、それではこちらの気が収まりません。どうか我が娘をあなたのもとへ置かせてください」
「いや責任もてねえよ」
「なにも妻にしてくれと言ってません。あなたのお役に立てればそれで」
「そうそう! あたし料理洗濯お掃除とかめっちゃ得意! あとマッサージもプロ級! ついでに床上手だって有名だよ! 処女だけど!」
「いやいいってマジで……」
「しかし本当に無償ではこちらとしても大変申し訳なく思います! なのでどうか、娘をもらってください!」
「お願いアインくん!」
……非常に困った。
困ったので……。
「さらば!」
俺は【飛翔】能力で、その場から一目散に逃げた。
娘もらってとか言われても、責任モテないし、そもそも今回の件だって、ユーリの功績だしな……。
こうして、俺は村人を救って、その場から逃げてきたのだが……。
後日。
「やっほー! アインくん! 君を追っかけて王都まで来たよー!」




