52.鑑定士、魔族の軍隊を退ける
ユーリたちとサウナに入った、数日後。
千里眼が、魔族の軍隊が人間の村を襲っている現場を捉えた。
俺は現場である南西部の村まで、【飛翔】能力を使ってやってきた。
眼下にはサルの集団が居た。
黒いサルが多数。
白いサルが、1匹。
黒いサルは、人間を捕縛し一カ所に集めている。
俺は村に降り立つ。
「な、なんだてめえはぁ!」
黒サルが俺に気付く。
『モンキィという魔族らしいぞ。男爵。そこら辺に居る黒いサルたちはみな親族だそうだ。白いのはシルバー・コングという名の子爵の魔族だそうだ』
「おいそこのひ弱そうなサル! 逃げてるんじゃあねえよ!」
黒サルが俺の頭をわしづかみにしようとする。
俺は精霊の剣を出し、能力【居合抜き】を発動。
スパァンッ……!
間合いに入っていた黒サルが、一太刀で切り捨てられた。
「おいなんだぁ~」
黒サルたちがぞろぞろと、俺の元へとやってくる。
仲間の死体を発見し、目を丸くする。
「お、おい、なにがあった?」
黒サルたちが俺を見つける。
だが、ハンッ! と鼻で笑う。
「なんだ、ひ弱そうなサルじゃねえか!」
「こんなのに負けるなんて! 一族の恥さらしめ!」
サルたちが殺された仲間を足蹴にする。
……なんてクズな野郎どもだ。
俺はスタスタと歩き出す。
「おい! 人間! 止まれ!」
「断る。三下の雑魚には用はない」
「なんだと! 下等生物のくせに!」
……その瞬間、俺の【千里眼】に明確なビジョンが見えた。
『→黒サルたちは、背後から一撃を食らわせる』
俺は【重力圧】を発動。
背後の敵がグシャッ……! と潰れる。
千里眼は、このように未来の事象を予測することができる。
ただし、俺の実力では、千里眼による【未来視】を自在に操れない。
今のところ、俺が見られる未来のビジョンは、俺の身に危険が迫る事象についてのみだ。
アリス曰く、訓練すれば自分の好きなように未来を見られるようになるという。
「さて、駆除するか」
親玉であるシルバー・コングの近くには、護衛である黒サルと、そして捕まった村人たちが多く居た。
「そこの人間! 止まれ!」
黒サルが俺に命令するが、無視。
「非力なサルのくせに無視するとは生意気な!」
「下等生物の分際で! 死ね!」
スパァンッ!
敵が襲ってくるタイミングを完璧に鑑定できる。
だから歩みは止めない。
避ける必要も無い。
攻撃が来る場所に、一撃喰らわせばいい。
スパンッ! スパンッ! スパァアアアアアアン!
「な、なんだこいつ!?」
「人間のくせに強いぞ!」
「うろたえるな、子分ども!」
奥の方から、のそり……と白いサルが立ち上がる。
人間の3倍くらいの大きさ。
全身が白髪というか銀の髪。
こいつが親玉か。
「こちらには数の優位がある! 全員で取り囲んで殺せ!」
バッ……! と黒サルどもがいっせいに動き出す。
10……いや、50匹くらいのサルに、俺は四方を囲まれた。
「多少腕が立つようだが、所詮は非魔族のサル1匹だけ! こちらは1匹1匹がSランクモンスター以上の実力を持った魔族の集団! 我らが負けるなぞありえぬわ! カーッカッカッカー!」
シルバー・コングが勝ち誇った笑みを浮かべる。
俺は居合抜きの構えを取る。
【斬鉄】にくわえて、【斬撃拡張】の能力を発動。
「子分ども! いっせいに……かかれぇい!」
黒サルたちが、俺めがけていっせいに飛びかかってきた。
そのタイミングで、俺は超高速で、居合抜きを放った。
ズバアァアアアアアアアアアアアアン!
「がッ……!」「ばか……な……」
50はいただろう黒サルたちが、全員、その場に倒れた。
胴体を切断され、1匹残らず絶命した。
奥に居たシルバー・コングだけが助かったらしい。
俺はコングの方へと悠然と歩いて行く。
「ふんっ! 人間、なかなかやるではないか。しかし! 所詮は男爵級をいくらたおしたところで、子爵級魔族であるこのシルバー・コング様に勝てるわけがないのだ!」
『どうやらこいつは【百烈拳】という、強烈な1撃を、ほぼ同時に100発くらわせる能力を使うらしいぞ』
ウルスラと、そしてアリスが見せる【未来視】のおかげで、【予習】はばっちりだ。
「わしには最強の能力がある! 聞いて驚け!」
「強烈な打撃を100発同時に打ち込むんだろ?」
「わが必殺の百裂拳は…………へぇ!? な、なぜそれを!?」
「答える義理はない。それで? 種が割れてる手品を、客の前でやるつもりか?」
「ば、ばかをいうな! わしが長年武を積み上げて手に入れた必殺の【百裂拳】! それを避けられるものはこの世に存在しない!」
バッ……! とシルバー・コングが腕を引く。
アリスが見せてくれた未来のとおりだ。
「死ね! おらおらおらおらおらおら!」
ドドドドドドドドッ!
……襲い来る拳。
俺はその全てを……回避も、そして攻撃反射もしなかった。
ただ、一歩前に出る。
そこはシルバー・コングの間合いの内側。
拳の雨あられは、俺の真横をすり抜ける。
「ば、バカなっ!? 1発もあたらないだと!?」
驚愕するシルバー・コング。
俺は【斬鉄】を使用。
剣を振り、コングの四肢を切り飛ばす。
胴体だけになったコングが、地面に倒れ伏す。
「貴様! どうやってわが百裂拳をかわしたぁあああ!」
「かわしてない。未来視で拳が当たらない場所を予習してただけだ」
「バカな……そんなことができるなんて……わしは、子爵なんだぞ……それがこんな弱そうなガキに……」
俺は剣の先をシルバー・コングにつきつける。
「おまえに聞きたいことがある。先日、ファルコ、シャドウっていう魔族が俺を襲いに来た。そいつは誰かに命令されてきたと言った。おまえら魔族の裏で糸を引くやつの名前を言え」
「それは言えぬ! 貴族の誇りにかけて!」
俺は螺旋弾を使用し、コングの脇腹を吹き飛ばした。
「ぐぁあああああああああ!」
「次は本当に殺すぞ? だれがいったい俺の命を狙うんだ?」
「わ、わかった! 言う! だから命だけは勘弁してくれぇえええええええ!」
「雇い主の名前は?」
「それはエ……」
と、そのときだった。
「ごぼぉ……!」
突如として、シルバー・コングの顔色が紫色に変わった。
シルバー・コングはぶくぶくと泡を吹きながら、もだえ苦しみ、やがて動かなくなった。
『どうやら死んだみたいじゃな。結局、手がかりは無しか』
「いや……そうでもない」
『なんじゃと?』
「やつが名前を呼ぶ瞬間、やつの心の中を千里眼で覗いた。雇い主の姿が見えた」
あの瞬間見えたのは、恐ろしく美しい、ダークエルフの女だった。
『ふんっ。やるではないか、小僧』
手がかりは得た。名前はわからなかったが、一歩前進だ。