49.鑑定士、第3の精霊の力を得る
隠しダンジョンを突破した俺たち。
外に出て、近くの村を捜索。
そこで現在地を割り出し、王都まで馬車で向かった。
数日後。
俺たちはユーリたちの待つ、商人ジャスパーの屋敷へと帰ってきた。
応接室にて。
「姉、さまっ。ひさしぶり、ですっ!」
ユーリがてててっ、とアリスに近づいて、正面からむぎゅっとハグする。
「……久しぶり。ユーリ。ピナも」
「やっほーアリスお姉ちゃん。ちゃんとご飯食べてるの? ガリガリじゃん」
「ごはん、いっぱい、たべなきゃ、めっ、です!」
「いっぱい食べなきゃユーリお姉ちゃんみたいにおっぱいおっきくなれないよ~」
「……別に」
三人が楽しそうに会話している。
その一方で……。
「おー、黒やん元気しとった?」
「ええ、朱ちゃん。おかげさまで♡」
四神の娘たちもまた、会うのが久しぶりらしく、なごやかに会話してる。
「ウルやんも元気そーやな」
「は、はい……おかげさまで……」
「なんや硬くなる必要ないで。うちら同じ守り手やん?」
「は、はい……善処します……」
ウルスラが緊張してる。まあ相手は格上だしな。
「アイン、さんっ」
たたっ、とユーリが俺に近づいてくる。
そして正面から、ハグしてきた。
「ありが……とう! 姉さまに……あわせてくれて!」
ユーリが輝くような笑みを浮かべる。
「そりゃ良かった。頑張った甲斐があったよ」
その一方で、アリスが俺たちを凝視してた。
「…………」
「おや~? おやおやおや~? アリスお姉ちゃん、もしかして~……。これは面白い予感⭐︎」
にやにや、とピナがいじわるそうに笑う。
「…………」
アリスが俺たちに近づくと、ユーリの腕を引っ張る。
「姉、さま? どう、したの?」
「……別に」
アリスがそっぽを向いて、素っ気なく言う。
てててー、とピナが俺の元へやってくる。
「おにーさんっ☆」
俺の腕に、ピナが抱きついてきたのだ。
アリスの目が、くわっ、と見開かれる。
「えへへっ♡ おにーさーん♡ すき~♡」
ぷるぷる……とアリスの体が震える。
「おまえ急にどうしたんだよ? そんなキャラじゃないだろ」
「えー、そんなことないよぅ。アタシ、お兄さんだーいすきだもんっ♡ ユーリお姉ちゃんも好きだもんねっ♡」
「うん、すき……です♡」
「でもこのままじゃアタシがお兄さんとっちゃうかも~?」
「それ、は……いかんとも、しがたい!」
「お兄さんの左腕がフリーだよ! ゆけー、お姉ちゃん!」
「ユーリ、いき、ます!」
金髪美少女が、俺の腕にしがみつこうとした……そのときだ。
きゅっ……。
と、アリスが、俺の左腕に、抱きついてきたのだ。
「あれぇ~? アリスお姉ちゃんどうしたのお~?」
によによと笑いながら、ピナがアリスを見上げる。
「…………」
「顔真っ赤にしちゃってどうしたの~? あれれ~? もしかしてアリスお姉ちゃんも、アタシがお兄さん取っちゃったら、嫌だって思ったの~?」
アリスがうつむいて答えない。
ただ、首筋まで真っ赤になっていた。
「ピナ、あんまアリスいじめんなよ」
「えー! お兄さんってアリスお姉ちゃん好きなの~?」
「なんでそうなるんだよ……?」
「アイン、さん……すき、なの?」
「いやユーリ別にそういうわけじゃ……」
俺が答えに困っていると、アリスがくいくいと手を引いてくる。
「ど、どうした?」
「……好き、なの?」
……なんだこの状況は。
黒姫と朱羽は「「いえーい!」」と楽しそうにしてるし、ウルスラは呆れたようにため息をついてた。
「おぬしら。そこら辺にしておくのじゃ」
見かねたウルスラが、仲裁に入ってくれた。
「ピナは姉たちをからかうな。ユーリたちもアインの意向を無視して騒ぐでない」
「「はーい」」
すっ、と三人の精霊が、俺から離れる。
「助かったウルスラ……」
「ふん。別におぬしのためじゃないわ」
「じゃあ誰のためなんだよ?」
ウルスラは無視して俺から離れていく。
「アイン、さん」
ユーリが俺の前にやってきて、ペコッと頭を下げる。
「ほんとう、に、ありが、とー♡」
花が咲いたような笑みを浮かべる。
俺はそれが見れただけで満足だった。
「で? アリスお姉ちゃんはこれからどうするの~?」
「もちろん世界樹のところまで送り届けるよ。無理言って出てきてもらってるからな」
「えー、かえっちゃうの? アタシらともっと一緒に居ようよ~」
「わ、たしも……姉さま、と、いっしょ、いたいです」
ピナとユーリが、姉に抱きつく。
「……ねえ。アインくん」
アリスが俺を見て、ぽそり、とつぶやく。
「……私も。いい?」
「良いって……ユーリたちのそばにいていいかってことか?」
ふるふる! とアリスが首を強く振る。
「じゃあなんだよ?」
「……だから」
もにょもにょ、とアリスが口ごもる。
「姉さま、ふぁい、とー!」「ちゃんと言わなきゃ伝わらないよっ」
アリスはキュッと、と唇をかむ。
そして俺を見上げて、言った。
「……あなたのそばに、いたいの」
つまり、アリスもまた、家族と一緒に居たいみたいだ。
俺とユーリたちは、一心同体だからな。
「わかった。おまえが良いなら」
アリスは顔を真っ赤にして、口元を手で覆い隠す。
それでその場にへたり込む。
「だ、大丈夫か?」
俺はアリスに手を差し伸べ、アリスは俺の手を引いて立ち上がる。
そのままアリスは、俺の体に、正面からハグしてきた。
「……どうぞ末長く、よろしくお願いします」
「あ、ああ……こちらこそ」
なんだかんだ言ってアリスもまた、ユーリたちのように家族に飢えていたのだろうな。
「精霊核とりにいかないとな」
「ほな、うちが超特急で取ってくるわ」
朱羽が手を上げる。
「あれ? というかおまえ……守り手は世界樹の元を離れられないんじゃなかったか?」
「まぁな。だからここに居るウチは【分身】やねん」
「分身?」
「そ、うちの能力【陽炎分身】。ウチの炎は実体を伴った分身をつくるんや」
ボッ……! と朱羽が炎となって消えた。
ややあって、小柄な火の鳥が、超特急で俺たちの元へとやってきた。
鳥がくわえていたのは、アリスの精霊核だった。
鳥は朱羽へと変化する。
「ウルスラちゃん、義眼に加工よろしゅーな」
「承知しました」
「それから兄ちゃんにはこれを」
朱羽が俺に、【賢者の石】を差し出す。
「ウチもアリスのオカンとして、あんたについてくことにしたわ」
……その後、アリスの精霊核が加わったことで、新たな能力を得た。
『千里眼(SSS)』
『→遠隔地の出来事、将来の事象、相手の心の内まですべてを見通す』
『陽炎分身(SSS)』
『→朱雀の炎で実体を伴った分身を作り出す。分身を変化させることも可能』
かくして、俺は3人目の精霊と守り手と手を組んだのだった。




