47.鑑定士、精霊を連れダンジョンをサクサク進む
巨大芋虫を倒し、【捕縛網(S)】を鑑定した。
俺は精霊アリス、そして守り手・朱羽とともに、隠しダンジョンからの脱出を目指す。
「…………」
俺はアリスの手を引いて、前を進む。
彼女はうつむいて、何も言わない。
「兄ちゃん、大変や!」
「どうした、朱羽?」
「うちの子もー疲れとるわ」
振り返ってみると、確かに、アリスは顔が赤く、そして息も荒かった。
「すまない。休憩を取ろう」
「いや! それにはおよばん。先を急がなあかんからな……そこで!」
くわっ! と朱羽が目を見開く。
「兄ちゃんがアリスをおんぶするっちゅーのは、どやっ?」
確かに朱羽の提案はいいかもしれない。
「…………」
アリスが耳の先まで顔を真っ赤にして、朱羽の耳をつねっていた。
「……えーやんチャンスやん。ぐいぐいいけぐいぐい!」
「まあアリスが嫌じゃないならそれでいいけど、どうする? 嫌だよな見知らぬ男におんぶされるなんて」
すると、アリスは首を強く振った。
「……嫌じゃない。……お願い」
普段からか細い声だが、今は絞り出すような声だった。
後で朱羽がガッツポーズしてた。なんなの?
ということで、俺はアリスをおんぶする。
細くガリガリだと思ったが、意外と柔らかい。
とくに太ももは、すべすべで、細い中に柔らかな肉が詰まっていて……い、いかんな。
「なんや兄ちゃん! お尻触ってもええのに! このこ許すで! お尻ほらもっと! ぶーーーー!」
朱羽がすっ飛んでいった。
アリスは無言で、しかし首元まで真っ赤にしてた。
「いくぞ」
ややあって。
『【雷飛蝗】。巨大なバッタのモンスターじゃ。【電光石火】という音速を超えた強力な飛び蹴りを喰らわせてくるぞ』
俺は右手に精霊の剣を出現させる。
「兄ちゃんなにすんの?」
「はじき返す」
「はぁ? 無理やって。あのバッタ動きが雷みたいに速くて目ぇで追えんのや。無理にきまっとるって」
パリィイイイイイイイイイイイイイン!
「はぁっ!? ちょっ!? あ、あんた今なにしたん!? 手だけが一瞬消えたで!?」
「だから、バッタを剣で弾いたんだよ」
俺たちが進んでいった先、壁にバッタが埋まっていた。
「死んどるぅううううううう!」
俺は【電光石火】(S)を鑑定した。
「なんなん!? なぁあんたおかしないっ? あんな速い動きどうやって捕らえたん!?」
「俺の目は精霊核で作られた義眼なんだよ。俺の動体視力はどんな敵の動きも止まって見えるんだ。あとは攻撃反射のタイミングを鑑定してはじき返した」
「はぁ~…………バケもんやん」
「……違う」
俺の背後で、アリスがぽそりとつぶやく。
「……バケモノ。違う」
「ありがとな。なんか最近みんなからバケモノとか異常とか言われててさ、うれしいよ」
「…………」
「兄ちゃんそれあかんて! アリスが嬉しすぎて失神しかけとるわ! この子はぶーーーーーー!」
「……違う。から」
「わかってる。朱羽の発言は全部妄言だって思ってるから」
「……違う。から」
よくわからんが先に進む。
『【炎虎】。炎を纏ったSランクモンスター。【爆牙】という噛みついた部分を爆発させる能力を使うな』
「わかった。【重力圧】」
グシャッ……!
「終わった」
「早ない!? 何したん!?」
俺たちが歩いて行った先に、地面に虎の毛皮が残っていた。
「重力場を発生させてモンスターを圧死させたんだ」
「いやいやいや! その能力って相手の動きを阻害するだけちゃうん!?」
「目が神眼になったことで、能力の出力も上昇してこうなったんだ」
「……いや、これでバケモノや無いて……あんたおかしいでほんま……」
「……失礼」
アリスが朱羽の耳をつねる。
「……アインくん。すごい」
「ありがとな。あれ? なんか初めて俺の名前呼んだか?」
「……うん」
「美人に名前呼ばれると、なんか気恥ずかしいよ」
「……そ、そう」
「兄ちゃんこう見えてアリスのほうが人間換算であんたより年上なんやで?」
「そうだったのか。まあ大人びてるからそうかなとは思ってたけど」
「…………」「あかんて! うちの子もうあんたにメロメロぶぅーーーーーー!」
「次だ」
『首無し騎士王。文字通り首のない動く甲冑騎士だ。【防御無効】の槍で攻撃してくるぞ。また【必中】という能力もあって攻撃反射が効かぬ』
「おいおい今度こそやばいんちゃう? あんたがパリィがつかえへんで?」
「何も問題ない」
俺は今度は、敵が来るのを待ち受ける。
首のない騎士が、槍を持って俺の元へと突撃してきた。
その瞬間……細切れになってその場に崩れた。
「なんやてぇーーーーーーーーー!?」
「勝ったぞ」
「なにしたんあんた!?」
「【鋼糸】と【捕縛網】で罠を張っておいたんだ」
捕縛網。自分の思ったとおりに、任意に捕縛用の糸の罠をしかける。
その糸を【鋼糸】で強化しておけば、罠に突っ込んだ瞬間、細切れになる。
「能力の複合使用って……なんでできんねん!?」
「俺とウルスラが契約を結んだからだな。守り手として一心同体となったことで、2つ同時に発動が可能となったんだ」
「あんたちょっと……無敵すぎへん?」
「……さすが。アインくん」
【防御無効】と【必中】を鑑定して、先に進む。
「……アインくん」
歩いていると、背中からアリスが俺を呼んだ。
「どうした? 疲れたか? 休憩取るか」
「……ごめんね」
「気にすんな」
俺はアリスを下ろす。
俺は右手を前に出し、そこから収納してあったレジャーシートやらクッションやらを取り出す。
「ちょっ!? なんやそれ!? 今なにしたんや!?」
朱羽がまた目をむいている。
「なにって……魔法紋のなかに収納してあった道具を取り出しただけだけど」
「魔法紋って! 無限収納やろそれ! ちょっ! あんたもうちょっとすごいことしてる自覚しぃや!」
「そうなのか、ウルスラ?」
『まあ使えるのはわしくらいじゃがな』
「そっかぁー……ウルスラ嬢ちゃんか。そーいやユーリ嬢ちゃんの守り手やったな……納得やわ」
ぺたん、と朱羽がその場にへたり込む。
ぜえぜえ……と肩で息してる。
「朱羽も疲れたか? 結構歩いたからな」
「いや……あんたへのツッコミいれ疲れやわ」
「ツッコミ?」
「あんたがおかしいことばっかするからや」
「俺なんかしてたか?」
くわっ! と朱羽が目をひんむいていう。
「しとったわ! 全部! あんたちょっと規格外に強すぎるんやよぉおおおおおおおおおおおお!」




