46.鑑定士、精霊を連れて地上を目指す
数日後。
俺はまた禁書庫へと訪れていた。
精霊アリスは、いつも通り、カウンターで本を読んでいた。
彼女のそばまで行く。
……精霊は、どの子もキレイなんだな。
ユーリやピナは可愛い感じだが、アリスは美しいって感じだ。
線が細い。
髪の毛も色素の薄い紫色。
肌は真っ白で、手足も細い。
胸は、無くはないという程度の膨らみだ。
「…………」
じろじろ見ていたら、アリスは立ち上がると、どこかへ消えてしまった。
「ぶしつけだったかな?」
ややあって、アリスが守り手・朱羽を連れて帰ってきた。
「ちゃうやろ~。照れてたんやで~」
その手にはお盆と、ティーセット。
「ほな、うちはあっちでひましてるさかい、若い子ぉらで会話を楽しんでや~」
にししっ、と笑って朱羽が離れようとする。
「待ってくれ。今日はおまえらに話があるんだ」
「ほー? なんなん?」
アリスの膝上に、朱羽が座る。
精霊が嫌がるかと思ったが、大人しくしてた。
「色々考えたんだが、あんだけたくさんの書物から、隠しダンジョンの居場所を割り出すのは、無理だ」
きゅっ、とアリスが下唇を噛む。
「……もう。……会えないの?」
なるほど、ユーリにもう会えないのかと心配してるのか。
そうだよな。家族には会いたいんだな、この子も。
「そんなことねえよ」
「……そう」
「あー! 見てみて兄ちゃんほらうちの子めっちゃうれしがっとるで! ほら頬が真っ赤やで! ぶーーーーー!」
アリスの操作した本によって、朱羽が吹っ飛んでいった。
「んで、具体的にどーやってユーリ嬢ちゃんとうちの子を引き合わせるんや?」
「外からの脱出は諦めて、ここから外を目指す」
「でもアリスは体力もたへんで? それに途中はモンスターも出るし大変やろ?」
「俺がいる。俺が、アリスを守る」
ガタタッ……!
アリスがイスからずり落ちて、腰を打っていた。
「だ、大丈夫かアリス?」
「……はい」
「ほれみぃ! うちの子耳の先までまっかっかやで! 意中の子ぉからの大胆告白! もうアリスはあんたにメロメロぶぅーーーーーー!」
朱羽がまた吹っ飛んでいく。
「俺が途中に出てくる魔物全部倒す。キャンプ道具を持って行くから、ゆっくりと地上を目指そう」
「まあー……せやけど大丈夫なん? あんた、外はSランクモンスターがうじゃうじゃいるんやで?」
俺はアリスをまっすぐ見やる。
「アリス。俺を信じて、外までついてきてくれないか?」
アリスが目を潤ませて、目線を泳がせる。
せわしなく髪の毛を手でいじっている。
長くそうしてた後。
「……わかった。……あなたの、ためなら」
顔を真っ赤にして、アリスがこくりとうなずく。
「良かったなぁアリスぅ! 好きな子ぉとお出かけデートやで!」
バシバシ! と朱羽がアリスの背中を叩く。
好き? ああ、ユーリのことが好きなのか。
ユーリに会いに行く旅を、デートって表現してる訳か。
……ということで、俺はアリス・朱羽とともに、地上を目指すことになった。
禁書庫には2つの出口がある。
1つは、人間しか出入りできない、王都へ繋がる転位門。
もう1つは、隠しダンジョンへの出入り口。
「…………」
出口の前で、アリスは立ち止まった。
「この子、怖いんよ。外は、怖いモンスターたくさんおるからな」
俺はアリスの元へ行き、彼女の手を握る。
「安心してくれ。これでも結構な数の敵を倒してるんだ」
なぜか知らないが、アリスが首まで真っ赤になっていた。
「約束する。おまえを、大好きなユーリたちのもとへ連れていくから」
「…………え?」
「あ~……もしもし兄ちゃん。なにゆーてはるの?」
「なにって、アリスはユーリたち家族が好きなんだろ。だから勇気を出してダンジョンの外へ……って、どうした?」
アリスはうつむき、朱羽は苦笑してた。
「……まぁよかったやん? 勘違いしてるけど、結果的に好きなこぉと手ぇつなげてるわけやん?」
なんか後で、アリスたちがつぶやいていたが、聞こえなかった。
俺たちは部屋を出て、隠しダンジョンへとやってきた。
「ウルスラ、聞こえるか?」
『問題ない。リンクが繋がった。能力も普通に使えるじゃろう。ただユーリとおぬしは離れてるから、遠隔であの子を目に戻すことはできん』
「了解。じゃあ外までの最短ルートの鑑定と、索敵を頼む」
ウルスラが了解といい、ルートの鑑定を行う。
足元に矢印が出現。
俺はそれに沿って進む。
「しかし兄ちゃんほんまだいじょうぶなん? どれくらい強いのか知らんけど、ここの敵ほんま強いで」
「問題ない」
『アイン。敵じゃ。巨大芋虫。Sランク。怪力と捕縛網を吐き出すようじゃ。位置は特定できておる』
俺はうなずいて、右手を前に出す。
「螺旋弾」
ベヒーモスから鑑定した能力だ。
狙った場所に、正確に弾丸を撃ち出す。
着弾地点の空間ごとえぐり取る。
「よし、いくぞ」
「は? ちょっ!? あんた何したん!?」
「だから、巨大芋虫倒したぞ」
「はぁあああああああ!? ありえへんよ! 敵の姿形見えてへんやん! それにあんた魔法もなにも使ってなかったやん!」
そこから歩くこと、数分後。
体の8割をえぐりとられた、巨大芋虫の死体があった。
朱羽が目を大きくむいて叫ぶ。
「芋虫死んどるやん!」
「だからさっき殺したっていったろ?」
「いやでもありえへんやろ! こんな離れてたんやで!?」
「俺の鑑定能力は、敵の位置を正確に把握し、そこに攻撃を当てられるんだよ」
「なんやて!? ありえへんわ!」
あり得ないって言ってもな……。
『小僧。巨大芋虫が大群で来るぞ。50じゃ』
「【螺旋弾】、50連射」
俺の右手から、空気の弾丸が連続射出される。
それはすべて正確に、敵を吹っ飛ばす。
「また芋虫が近づいてたようだぞ」
「なんやて!? またか!?」
「しかも50だと」
「そんなに!?」
「まあ全部倒したけど」
「なんやてぇーーーーーーーー!」
信じてくれない朱羽たちを連れて、ダンジョンを進む。
「ほ、ほんまや! 芋虫ちゃんたちの死体が、めっちゃあるぅーーーーーーー!」
螺旋弾は使えるな。
こっちはアリスを守りながらだから、なるべく彼女のそばを離れたくない。
そう言う意味で、これは遠隔で敵を、確実に倒せるからいいな。
「……すごい。螺旋弾。ベヒーモスの能力」
「あ、あの古竜か! あんたどうやって古竜の力使えるん?」
「ベヒーモス倒して能力をコピった」
「なんやてぇーーーーーーー!!!!!」
いちいちリアクションが大きいな……。
「それマジならあんたちょっと異常やで! 人間やあらへんわ!」
「これなら多少安心してくれたか?」
アリスがこくこく、とうなずいている。
どうやら俺の力を信用してくれたようだ。




