43.鑑定士、新人たちを迷宮から救助する
魔族ファルコから、下記の能力を鑑定した。
『疾風(SS)』
『→周囲に追い風を発生させ、移動速度・距離にプラス補正がかかる。また風の足場を作り、空中での立体機動が可能となる』
ファルコ撃破から数日後。
俺は王都南西部のダンジョン。
その迷宮主の部屋にやってきていた。
『敵は【人食い薔薇】。Sランク。巨大な薔薇の形をしたモンスターじゃ。無数の茨を自在に動かし、相手を捕捉しその身を喰らう』
ウルスラが敵の情報を、自動鑑定してくれる。
「「たすけてぇええええええ!」」
『どうやら先客が有ったようじゃな』
茨に捕捉されているのは、若い女の2人組みだった。
どうやら冒険者が、ここをうっかり訪れてしまったらしい。
『アイン、さんっ。たすけて……あげてっ』
「了解だ、ユーリ。【超鑑定】」
『→人食い薔薇の動き』
……その瞬間、薔薇の動きが、完全に静止した。
といっても、時間を止めているわけではない。
動体視力を極限まで上昇させることで、止まって見えるだけだ。
以前は、Sランクの動きはゆっくり見えた。
しかしユーリと契約を結び、俺の目【精霊神の義眼】は【神眼】へとパワーアップ。
上級モンスターの動きが、完全に止まって見えるようになった次第。
俺は【超加速】、そして【疾風】を使用。
薔薇からの反撃を受けることなく、俺は捕まっていた冒険者たちを救助する。
茨を切って、2人の女冒険者を回収。
救助作業と同時に、俺は薔薇に【仕込み】をしておく。
十分に離れたところに彼女らを置いて、鑑定を解除。
「あれっ!?」
「わ、わたしたち……捕まってたはずじゃ……」
女冒険者たちが目を丸くしている。
「おまえら、新人か?」
「そうなんです!」
「ちょっと背伸びしてボスに挑んだら返り討ちに遭っちゃって!」
「地上まで案内してやるから、ちょっとまってろ」
別にこいつらを助ける義理はない。
だがウチの精霊は困っている子を放っておけない優しい子なのだ。
「で、でもっ! まだボスモンスターが!?」
「問題ない。もう終わってる」
俺の手には、精霊の剣が握られている。
剣先から、細い【糸】が出て、それは薔薇モンスターのもとへと伸びていた。
「ギシャァアアアアアアアアア!」
薔薇は餌がないことに気付いたらしく、俺たちに茨を伸ばしてきた……そのときだ。
スパパパパパァアアアアアアアアン!
薔薇が、細切れになったのだ。
「えぇーーーーーーー!?」
「な、何が起きたのー!?」
驚く新人たち。
「【鋼糸】でモンスターの体を縛っておいたんだよ」
剣のように鋭い切れ味の糸を作り出す能力だ。
彼女たちを救助する際、ついでに鋼糸を敵に巻いていたのである。
『茨の鞭を鑑定しておいたぞ。茨を伸ばし敵を捕縛したり攻撃したりできるそうじゃ』
ウルスラが能力コピーをしてくれてたようだ。
【神眼】を手に入れたことによる恩恵の1つ。
いつもは鑑定する際、かなり情報量が脳に流れ込んでくるせいで、激しい頭痛を覚えていた。
しかし【神】の目を手に入れたことにより、頭痛を感じなくなったのである。
『わたし、治癒、できない。お役目、ごめん?』
「いつも十分にユーリには助けてもらってるよ。ありがとな」
『えへへ~♡ アイン、さん。やさしい、すき~♡』
……さて。
ボスを倒し、俺は新人冒険者を、地上へと連れて行くことになった。
俺は新人たちの前を歩いていると。
「あ、あの! もしかして【古竜殺し】の英雄アインさんですかっ?」
「そ、そっか! この人ね! 町中に現れた魔獣を倒し、瀕死の住民を全員治癒して見せた、あの伝説の冒険者の!」
「…………人違いだ」
この数ヶ月で、俺はかなりいろんなことをしてのけた。
氷竜、古竜ベヒーモスの討伐。
そして魔獣となったゾイドを下し、死者を蘇生させた。
そのせいで、鑑定士アインは、多くの人に知られることとなったのだ。
「いやでもアインさんですよね!? これだけ強いひとそうそういないですし!」
「うわー! 有名人じゃん! サインしてサインー!」
「……だから、人違いだっての」
色々派手にやらかし、知名度が上がった結果、わずらわしいことも増えた。
だから、俺は基本的に、素性を隠すことにしている。
『アイン、さん。ゆーめー、じん。わたし、お鼻が、たかいですっ』
ちなみにユーリの声は俺にしか聞こえてないので、俺の名前は新人たちに知られてない。
「ねーねーアインさんでしょ~? なんで嘘つくの~?」
「嘘じゃねえしアインでもねえ。ほらさっさと帰るぞ」
俺はダンジョン内をすいすいと歩いて行く。
ウルスラが出口までの最短ルートを鑑定してくれているのだ。
ややあって。
「すっごーい! ここ来るとき見た! 出口付近じゃん!」
「さすがアインさんです! お強い上に迷宮のことも熟知なされてるなんて!」
新人たちが、キラキラした目をおれに向けてくる。
「アインさんっ! ぜひあとでお礼させてください!」
「ねーアインさん。どうやったら強くなれるのか教えてよー!」
「いらん。しらん。ほら帰るぞ」
……と、そのときだった。
「あ、アインさんっ! うしろー!」
「うっわ! なにあの巨大鼠の大群!」
背後を振り返ると、確かに鼠型モンスターどもが、大挙して俺のもとへ押し寄せてくる。
「……またか」
「ちょっアインさん! なに冷静ぶってるの!? 10や20どころの騒ぎじゃないよ!?」
「……問題ない」
俺のとなりに幼女賢者たちが転移してくる。
「黒姫はダンジョンやこいつらにダメージがないように、結界で鼠だけを囲え。ウルスラは極大魔法使うから、魔力供給をたのむ」
俺は左手を、鼠の大群どもに伸ばす。
「【煉獄業火球】」
ドッガァアアアアアアアアアアアアン!
手から放出された、超高温の爆撃により、鼠どもは全滅。
結界で衝撃を防いでいたので、地下でも極大魔法が使えるのだ。
新人たちは、その場に尻餅ついていた。
「立てるか?」
俺は新人たちに手を伸ばし、ひっぱりあげる。
「「すっ、すっごーーーーーーーい!」」
新人たちが目を輝かせて、俺を見やる。
「さすがですアインさん! 今の極大魔法ですよね!? しかも呪文詠唱なしで打てるなんて!」
「やっぱ伝説のアインさんじゃん! やっぱ本物はすごいなー!」
きゃあきゃあ、と新人たちが騒ぐ。
「あたし、ギルド帰ったら、アインさんに助けてもらったって自慢しよー!」
「余計な噂広めるのはやめてくれ」
「「いやです!!」」
その後彼女らを街まで送り届けた。
すぐに帰ろうと思ったのだが、ギルド連中に捕まり、余計な時間を取られた。
だから、目立ちたくないんだよ……。




