36.鑑定士、国王に気に入られる
ベヒーモスを討伐した、数日後。
商人ジャスパー経由で、今回の件について、俺に王の下へ来るよう、出頭命令が下った。
俺はジャスパーとともに、王城へとおもむき、謁見の前で王様と初めて顔を合わせた。
話は、王との謁見を終えた後。
俺は応接室へと、通されていた。
「ふぅ……疲れた……」
俺はソファにどかっと座る。
コンコン。
「ん? どうぞ」
「失礼いたします♡」
入ってきたのは、この国の第三王女、クラウディアだ。
「勇者さま~!」
花が咲いたような笑みを浮かべ、王女が俺の元へと駆け寄ってくる。
「が、がーどっ!」
俺の前に、ユーリが顕現。
両手を広げて立つ。
「あら、ユーリさん♡ おひさしぶりですわ~♡」
「う、うん……ひさし、ぶり」
クラウディアはユーリの手をつかんで、ぶんぶんと上下に振る。
「勇者様、ユーリさん、なかなかお会いに行けず申し訳ございません。わたくしあなたの第二夫人なのに……」
「いや、別に結婚してねえだろ」
「そ、そうだー! アイン、さんは……わ、わたしの夫だー!」
いやそれも違うだろユーリ……。
「クラウディアは何しに来たんだ?」
「父があなたに会いたいというので、連れてきましたわ♡」
「父って……え?」
ガチャッ、と扉が開く。
入ってきたのは、ラフな格好に着替えた……国王だった。
俺は立ち上がって、頭を下げる。
「よいよいアイン君。すわりたまえ。今私はこの国の王ではなく、クラウディアの父として、君に会いに来たのだからな」
謁見の間で見せていた、厳粛な雰囲気はなりを潜めていた。
そこにいたのは、気さくそうな、白髪交じりのおじさんだった。
国王は俺の正面のソファに座る。
「ではわたくしも失礼して♡」
「……なぜ俺の隣に座る」
「で、では……わ、わたし、も……失礼します!」
「ユーリ……おまえまで……」
美少女二人に挟まれて、居心地の悪さを感じる……。
「なるほど、さすが【竜殺し】の英雄。腕が立つだけでなく、女にももてるのか。いやはや、なんとも英雄の資質あふれる若者よ」
「なっ、あ、あんた何言ってんだよ!?」
「なにって、娘の将来のお婿さんが女にもてて、義父として鼻が高いという話だよ君」
「何の話だよ! 何の!」
すると国王がククッと笑う。
「やっと緊張がほぐれたようだね」
「あ、あっ、いや……す、すみません……」
「ここでは私はクラウディアの父。謁見の間でのときのように、かしこまらなくて良い」
どうやら国王は、俺がまた緊張していたことを見抜いていたようだ。
「アイン君、先ほどの私の謁見、正直私が何を言ってるのかわからなかっただろう?」
「いや……まあ、そうっすね。硬い言い回しが多くて」
「まあ簡単に言えば、ベヒーモスを倒してくれたことの、お礼を言いたかったのだ」
なんだそれだけだったのか。
「大儀であった~」とか「こたびの活躍が~」とか言ってて、正直なんで呼び出されたのかもさっぱりだったのだ。
「仕方あるまい。平民で、その歳で、公的な場に立つ機会などなかろう。わからなくても恥じることはない」
「恐縮っす……」
「ははっ、だからそうかしこまるな。やはり君は娘から聞いてたとおりの少年だな」
「なんて言われたんですか?」
するとクラウディアがキラキラした目で俺を見て言う。
「とても強くて! かっこ良く! すごい力をお持ちになられてるのに、おごり高ぶることのない素敵な殿方!」
「うちでは毎日のように、君の話題が上がっているのだよ。娘がこれだけ気にかける男、私も興味があってな」
俺の知らないところで、国王からの株が上がっていたようだ。
「それと……ちゃんとお礼を言いたかったんだ。先日はクラウディアを助けてくれてありがとう」
国王が、深々と頭を下げてきた。
「や、やめてくださいよ! 俺なんかに頭下げるのは」
「何を言っている。娘の命を助けてくれた恩人が目の前にいるんだ。ちゃんと頭を下げて感謝の意を伝えるのは父親として当然だろう?」
この人はそのために、俺に会いに来たんだな。
「本当にありがとう、アイン君」
「お礼はユーリに言ってください。この子の力が無かったら、俺はあなたの娘を救えなかったし、ベヒーモスは倒せませんでした」
「ありがとう、お嬢さん。聞くところによると精霊だそうで、いやはやお美しい」
ユーリが俺を盾にするように、背後に回る。
「すみません、ユーリは人見知りなんです」
「そうか。しかしアイン君。君は本当に謙虚だな。ますます気に入ったぞ」
ニッと国王が笑う。
「私は立場上、いろんな権力者と会う機会が多い。そいつらの目は皆そろって濁っている。力を手に入れた結果なのだろう」
しかし……と国王が続ける。
「君の目はたとえ世界最強の力を持っていたとしても、透明で純粋な目をしている。私はそこが気に入ったよ」
「ありがとうございます。俺もこの目は自慢なんです」
「アイン、さん……♡ すき~……♡」
「わたくしも大好きですわ! ね、ね、お父様、アイン様と結婚しても良いでしょう?」
まだ言ってるのかこいつ……。
「クラウディア、君は国民の上に立つ女だ。そう簡単に結婚を決めてはいけないよ」
良かった親父はまともだった。
「あと3年くらいしたら、結婚をゆるそうじゃないか」
「おいっ!」
何言ってるんだこのおっさん!
「無理だろ、俺は平民で、クラウディアは王族なんですよ?」
「今は、だろう? 3年後の君は王の娘をめとっても、誰からも何も言われない立場になっているだろうしな」
「そんな……何を根拠に言ってるんですか?」
国王はまっすぐ俺を見て言う。
「私は人を見る目には多少自信があるんだ。君は将来傑物となるだろう。君の成長を楽しみにしているよ」
国王は笑って、壁の時計を見て言う。
「おっと、そろそろ時間だ。アイン君と話すのは楽しくて、時間を忘れてしまう」
「お父様、もうお仕事ですか?」
「ああ。ではなアイン君。たまにで良いのでまた遊びに来て欲しい。クラウディアも喜ぶ」
「いや……そんなに頻繁にこられないですよ。ここ王の城ですし」
「おお、そうだったな。ではこれを君にあげよう」
国王はポケットをあさり、俺に何かを差し出してきた。
「これは……懐中時計ですか?」
銀の時計。
蓋には翼の生えたライオンが描かれている。
「王家の紋章の入ったものだ。これがあればどんなところでも入れるようになるだろう」
「い、いや! こんなのもらったら悪いですって……それに悪用したらどうするんですか?」
「君がそんなことをしない男だってわかっている。君なら上手く使ってくれるだろう。もっていたまえ」
こんな高価な物を、もらうなんて悪いという気持ちもある。
しかしこれがあれば、今まで閲覧できなかったものが見られるようになるかも。
これは、ユーリの家族を探すのに、役立つものだ。
「謹んで、頂戴いたします」
「うむ、やはり私は君が好きだ。ではな、アイン君」