33.鑑定士、精霊たちと風呂に入る
冒険者ギルドでモンスターや素材を買い取ってもらった数時間後。
俺は拠点である商人ジャスパーの屋敷へと帰還を果たした。
夜。
旅の疲れを癒やすため、屋敷の風呂に、俺は来ている。
「すごいな……ここの風呂。外にあるのか……」
メイドのミラに風呂に案内してもらった。
ミラ曰く、ここは露天風呂というものらしい。
岩で囲まれた浴槽は白く濁ったお湯で満たされている。
「アイン、さんっ♡ 月、が、きれー、です……ね!」
……金髪の美少女が、ニコニコしながら湯船につかっていた。
「はっ!? ちょっ!? ええ!? おま……何してんだよユーリ!」
俺は股間を手でかくし、彼女から距離を取る。
「むぅ。なに、ゆえ……逃げる、の?」
「それはね~、お兄さんがお姉ちゃんの裸を見て、欲情しちゃったからだよっ!」
ユーリのとなりに、桃色髪の美少女が出現。
「ピナ、ちゃん。よくじょー、って? お風呂?」
「ちがうよ~。むらむらしちゃってさぁ大変ってやつだよ!」
「おまえら何してんだよ! ここ男湯だぞ!」
「ぶっぶー☆ アタシたち精霊だし~。精霊に人間の尺度での性別とかナンセンスだし~」
「見た目が女である以上女なんだよ! 出てけ!」
「あれ~? お兄さんはずかしいの? ユーリお姉ちゃんのおっぱいみて嫌らしいこと考えてるとか~?」
「そ……そんなわけないだろ!」
……しかしピナに言われて、改めてユーリを見てしまう。
大きい。
人間の顔を越えてる。
しかし形が下品じゃない。美しさすら感じる……。
ばっちり、ユーリと目が合ってしまった。
「…………ぽっ」
ぽってなんだ、ぽって。
「これは精霊と人間のハーフが生まれるのも、時間の問題かもね~☆」
意地の悪そうな笑みを浮かべるピナ。
「……小僧」
すると……ユーリの前に立ち塞がるように、ウルスラが立っていた。
……何も身につけず、全裸でだ。
「ちょっ!? か、隠せよ!?」
「何を慌てておる。別に貴様ごときに見られて恥ずかしいとは微塵も思わぬが?」
「こっちが気にすんだよ!」
ウルスラは10歳くらいの幼い見た目だ。
だがうっすらとだが胸にも尻にも肉があった。
どこもかしこもつるりとした、無垢な体に、思わず目をそらしたのだ。
「それより小僧。今ウチの娘を、汚い目で見ただろう?」
人殺しの目でウルスラが見てくる。
「いいか貴様、ユーリはわしの宝じゃ。もし手を出すようなマネをしたら、わしは貴様を極大魔法で吹き飛ばす……」
「おかー、さん! や、めて!」
ユーリが俺の前に立ち、手を広げる。
「わたし……は。アイン、さんに……見られて……ぽっ♡」
「よし小僧。遺書の準備はできてるな? 今日が貴様の命日じゃ」
右手に魔法の光を宿らせながら、ウルスラが俺に近づいてきた。
「やめ、て! アインさん……にげて!」
「離すのじゃユーリ! わしはおまえのためを思ってこの邪悪なる蟲を消すのじゃ!」
「むしじゃ、ないもん! アインさんは……素敵な人だもん!」
「まさかもう手込めにされたのか!? お、おのれ殺す! 今すぐ小僧を殺してやるぅうううううう!」
ぎゃあぎゃあと、ユーリとウルスラが取っ組み合いしてる。
……どうでもいいが、ふたりとも体にタオルをまいていない。
だから、非常に目のやり場に困る。
特にユーリの胸が躍動して、とんでもないことになってる……。
「くすっ♡ お兄さまってば、意外とむっつりさんなのですね~♡」
俺のとなりに、世界樹の守り手・黒姫がいた。
「わたしの胸も存分に見て良いんですよ♡」
「胸無いだろおまえ」
「今は無くても大人になればユーリちゃんのようにバインバインになってます♡」
「何千年後の話してるんだよおまえ……」
この幼女、見た目の割に長生きしてる。
なにせ太古の賢者ウルスラよりも、前から生きてるからな。
「ここは賑やかで良いですねぇ」
黒姫が遠い目をする。
その先でユーリとウルスラ、そしてピナが戯れている。
「ピナをあなたに預けたのは正解でした。あなたのおかげです、お兄さま。ありがとう」
その目は慈愛に満ちていた。
例えるなら、母親の目か。
「あんたにとっても、ピナは娘みたいなものなのか?」
「そうですね。守り手が精霊核を作り、そこに人格が宿ったので、まあわたしはピナの生みの親のようなものです」
確かユーリたちは世界樹は、もとは1つだったと聞いた。
そこから精霊核が9つに分割されたという。
ということは、大本の精霊核を作ったのが、9人の賢者だったってことか……。
「あと6組もおまえらみたいな愉快なやつらがいるわけか」
世界樹はもともと9本。
1本は遥か昔に枯れてしまった。
ユーリ、ウルスラ。そしてあと姉妹は6人。
「……いえ。7組です」
「は……? 1本は、死んだんだろ?」
「ええ……。ですが、精霊核が完全に消滅したわけではありません」
「じゃあ、1本目の精霊は生きてるのか?」
「おそらく、1本目……あの子たちの長女【エキドナ】は、この世のどこかにいるはずです。守り手とともに」
「そのエキドナは、どこにいるんだ? 地上にいるなら、なんで地上に出てきたユーリたちの前に姿を現さない?」
「……さぁ、どうでしょう。そこまではわかりません」
黒姫がため息をついて首を振る。
こいつも知らないようだった。
「エキドナは行方不明。のこり6人のいる隠しダンジョンの場所もわからず、か」
「途方に暮れてしまいました? もう探索はやめます?」
「いや、まさかだろ」
俺はユーリを見やる。
「おかーさん……わたし、言いたい! アインさん……と、いつか……結婚したいの!」
「ダメじゃぁあああああああ! 結婚は早すぎるぞぉおおおおおお!」
「けどお姉ちゃんって人間の体で16,7くらいでしょ~? 結婚普通にできるじゃん。しちゃいなよ☆」
「おぬしはだまっとれ! ユーリ! おぬしはずっとわしのそばにいてくれ!」
「いたい! けど……そこに、アインさん、も……一緒がいい!」
「消すぅううううう! やっぱりあの小僧消してやるぅううううううう!」
……3人が騒いでいる。
その中で、ユーリは輝くような笑みを浮かべていた。
外に出て、妹と出会い、あの子は幸せそうにしている。
「俺のやりたいことは今も変わらねえよ。恩人であるユーリを、家族に会わせてやりたい」
それが俺の、本心だ。
「まぁ。お兄さまってばユーリちゃんにメロメロなのですね」
「いや……なんでそうなるんだよ」
「おーい、ユーリちゃーん。お兄さまが大好きですってー♡」
「ひゃ~~~~~~~~~~♡」
ユーリが満面の笑みを浮かべて、くらり……とその場に、後ろ向きに倒れた。
どっぽーーーーーーーーーーーん!
「ユーリぃいいいいいいい! てめえ小僧ぶっころぉおおおおおおおおおす!」
……その後ウルスラが本気で、俺を殺そうとしてきたのだった。




