32.鑑定士、魔物を売りに冒険者ギルドへ行く
俺は精霊ピナと守り手・黒姫の力を得た。
帰り道、滞在した村を襲った氷の竜を倒し、新しい能力を得た。
『霧氷化(S+)』
『→相手の攻撃が当たる瞬間、自らを氷の霧に変え回避する。霧に当たった敵は氷付けになる』
氷竜を倒した後、馬車に乗って3日後。
俺は王都の、商人ジャスパーの家へと、帰還を果たした。
話はその数時間後。
俺は、王都の冒険者ギルドへと足を運んでいた。
「……なあ、ジャスパー」
「なんだい、少年?」
俺のとなりには、赤い髪のスーツ美女が立っている。
彼女はジャスパー。
この国一番の商会で、会長をしている女性だ。
「本当にギルド行かないとダメなのか? おまえにアイテムとかを直接買い取ってもらうってことはできないのか?」
「ああ。ギルドは冒険者から魔物の死体や素材を買い取る。商会はギルドからそれらを買い取って商品にする。そういう取り決めがあるのだ。私が少年から直接買い取ると、ギルドの規約に違反してしまう」
そうなってるのか……。
「では参ろうか。なに、私がいれば、君が危惧してるように、インチキを疑われないさ」
ジャスパーは笑うと、俺の肩を叩き、ギルドのドアを開く。
「ジャスパーだ!」「碧玉の豪商だっ!」
一歩足を入れた瞬間、近くにいた冒険者たちが、ジャスパーをみて叫ぶ。
「これはジャスパー様! ようこそおいでくださいました!!!」
奥のカウンターから、受付嬢がすっ飛んできた。
それだけジャスパーは上客ってことか。
「どうぞ奥のVIPルームへお越しください! ギルドマスターを今呼んできますので!」
「ん、大丈夫だよお嬢さん。今日はギルマスに会いに来たんじゃないんだ。彼の付き添いなんだ」
受付嬢が俺を見て、首をかしげた。
「彼はアイン。冒険者だよ。つい先日王都に越してきたんだ」
「えっと……アイン様は、ご用件は?」
「魔物を買い取ってもらいに来た」
「そして彼の売る魔物を、私が買い取りに来たというわけだ」
「? と、とりあえず受付まで来ていただけますか?」
俺はジャスパーとともに、奥へ歩いて行く。
「……ジャスパーの後のあいつは誰だ?」
「……弱そうだぞ。職業はなんなんだ?」
冒険者たちが、遠巻きに俺の噂をしている。
というか、ギルドホール内にいた冒険者たち全員が、俺に注目していた。
俺たちは受付カウンターへとやってくる。
「では、アイン様。ギルド証の提出をお願いします」
ギルド証とは、冒険者ギルドに登録してることをしめす証のことだ。
ここには個人情報が全て記載されている。
冒険者のランクや、【職業】までも。
「アイン様……ランク、え、F? 職業、か、鑑定士ぃ~~~~?」
受付嬢が俺を見て、目を見開く。
そして、俺に疑いのまなざしを向けてきた。
「ジャスパー様。下級職の彼の、何を貴女は欲しいというのでしょうか?」
「彼が倒した魔物だよ」
「失礼ですが……何かの間違いではないでしょうか? 彼は下級職の鑑定士ですよ? 道に生えてる薬草ならともかく、モンスターを彼が倒せるとはとても……」
受付嬢がジャスパーに確認を取る。
「無礼を承知で申し上げますが、ジャスパー様はこのアインという冒険者にだまされているのではないでしょうか……?」
「そうだ!」「下級のくせにモンスターが倒せる訳ねえだろ!」「商人相手に詐欺とは大胆なヤツだな!」
ギャラリーからヤジが飛んでくる。
「騎士と警備を今呼んできます。ジャスパー様は離れてください」
「いいや、お嬢さん。それには及ばない。なぜなら彼が倒したというのは本当だからだ。さぁ少年、彼らに見せてあげなさい」
あまり目立つのは好きじゃない。
冒険者の、下級を見下す空気もほんと好きになれない。
だが……このまま詐欺師の汚名を着せられるのは、もっと嫌だ。
俺は右手を、カウンターに向ける。
手の甲には、無限収納の魔法が付与された、魔法紋。
紋章が光ると……。
ドサドサドサドサドサドサドサドサ!
「え、えぇ~~~~~~~!? なんですか、この素材アイテムの山はぁあああああああああああああああああ!?」
受付嬢が目をむき大声を上げる。
今までため込んでいた、Sランクモンスターから採集した素材たちが、山積みになってるのだ。
「し、失礼します! い、今鑑定用の【真実の目】を持ってきますので!」
ダダダッ! と受付嬢がカウンターの奥へと引っ込んでいく。
「やべえ、なんだよあの大量とアイテム!」
「おいあれって【不死王の髑髏】じゃないか!?」
「嘘だろ!? ボスモンスターのドロップアイテムって噂だぜ!?」
周りの冒険者たちが驚愕している。
その後、何人もの受付嬢が、真実の目を持って鑑定を行った。
ややあって……。
「ジャスパー様! そしてアイン様、大変、大変申し訳ございませんでした!」
初老の女性がやってきて、俺の前で頭を下げてきた。
「そんなに恐縮しないでくれ、ギルドマスター」
ジャスパーが笑って言う。
どうやらこの初老の女性、冒険者ギルドのギルドマスターらしい。
「わたくしどもの職員が、アイン様に大変失礼な言動をしてしまい、誠にもうしわけございません! 責任を取ってクビにさせますので! どうか! ご容赦ください!」
「い、いやそこまでしなくていいだろ……」
「よ、よろしいのですか……?」
「ああ。俺は別に、バカにされるのは慣れてるからな」
「寛大な処置、誠にありがとうございます!」
「本当にありがとうございます! アイン様! 本当に申し訳ございませんでした!」
ギルマスと、さっきの受付嬢が、俺にペコペコと何度も頭を下げてくる。
こんな対応されたことなかったので、どうしていいのかわからん。
「彼が強き者であること、そして彼が自分の力でモンスターを倒してきたことは、このジャスパーが保証しよう。さて、では少年。残り全部だしたまえ」
「「えぇーーーーーーーーー!?」」
ギルドマスターと受付嬢、そして冒険者たちも、目を限界まで見開いていた。
「ま、まだ他にもアイテムが?」
「ああ。彼のこれなんてほんの一部だぞ。ほかにも【氷竜】の死体もある。ああそうだ、隠しダンジョンで倒したモンスターの分も換金しておこう」
「「「はぁ~~~~~~~~~!?」」」
またも、その場にいた全員が叫ぶ。
「隠しダンジョンを……まさかクリアなさったのですか!?」
「す、すごい……! すごすぎます!」
受付嬢が俺に、キラキラした目を向けてくる。
「いやぁ! さすがジャスパー様のお連れの冒険者様だ!」
「い、今職員総動員で換金と鑑定作業を行います! なのでどうぞアイン様! 奥のVIPルームでお待ちください!」
ギルマスに案内された部屋で、俺はジャスパーとともに鑑定が終わるのを待った。
そして莫大な報酬を、ギルドから支払われたのだった。




