30.鑑定士、第2の精霊を得る
ボスモンスターに勝った、数分後。
俺は、世界樹【ピナ】のもとへと、やってきていた。
ユーリと初めて出会った場所に似ていた。
木に向かって歩くと、そこに小柄な女の子がいた。
外見の年齢は10歳くらい。
ショッキングピンクの短い髪を、ツインテールにしている。
小柄な割に胸が大きい。
服は、見たことのないような服だ。
白い上着に、赤く長いスカート。
見たことがないが……どことなく神聖な服装に感じた。
「ピナ、ちゃんっ」
顕現したユーリが、少女の元へ駆けていく。
ユーリはピナを、正面からハグする。
「お姉ちゃん! ひさしぶり~」
「うんっ、うんっ、ひさし、ぶり!」
ピナをハグしたまま、くるくるとユーリが回る。
楽しそうで何よりだ。
「それで? そこのお兄さんが、アタシをいじめた意地悪お兄さん?」
「ちがう、よ! アイン、さんは、優しい、もん!」
「ふーん。お姉ちゃんはお兄さんにゾッコンなんだー」
「ちちち、ちがう、よ!」
「へー? じゃあなんで顔真っ赤なの? ねーねー、どうしてどうして~?」
つんつん、とピナがユーリの脇腹を指でつつく。
実に楽しそうだった。
一方ユーリは顔真っ赤で黙っている。
「あー、楽しかった。一通りお姉ちゃんいじって満足満足♪」
「ピナ、ちゃん……あいかわらず、いぢわる、です」
けど、とユーリはにっこりと微笑んで言う。
「うれし、かった……。家族が……変わらず、元気で」
「んも~。お姉ちゃんってば……おおげさなんだからさ……」
ピナの小さな肩が、少し震えていた。
この子もまた、ユーリ同様、家族に会えてうれしかったのだろう。
ややあって。
「アタシもお兄さんについてってもいい?」
「何を突然言い出すんだよ?」
「いいじゃん! アタシも外の世界みてみたいしっ。もう地下はあきた! それにゲームマスターも疲れた! もう廃業!」
時々この子、よくわからんこと言うな。
「俺についていくって、具体的にどうするんだよ?」
「アタシの精霊核をお兄さんにあげる。それ使ってお姉ちゃんのやつと同じ風にしてよ」
「それは迷宮核を取り込んだときみたいに、精霊核を俺の義眼に取り込むってことか。できるか、ウルスラ?」
「可能じゃ。さほど時間がかからぬ」
「ハイじゃあ決定ー! アタシもついてく!」
「ピナちゃん、と一緒!」
ユーリがピナに抱きついて、くるくるとその場で回る。
……嬉しそうにしているユーリを見ていると、ダメとは言えないな。
「アイン、さん。どう、ですか?」
「いいんじゃないか。俺はユーリの意思を尊重するよ」
ユーリは花が咲いたような笑みを浮かべて言う。
「わしはピナの精霊核を取り出し、義眼に加工しよう。その間、小僧、貴様は守り手に話をつけてこい」
「守り手……? そうか。ピナを守るやつがいるはずなのか」
辺りを見回す。
だがそれらしき人物はいなかった。
そのときだ。
「あの、お兄さま」
ちょいちょい、と誰かが俺の服の裾を引っ張る。
そこにいたのは、つややかな緑髪の、幼女だった。
5歳くらいか。
おかっぱ頭に、ピナのものに似た、不思議な服を着ている。
「これは着物といいます。ピナの着ているのは巫女服ですわ、お兄さま♡」
「だれなんだ、おまえ?」
「失礼いたしました。わたしは世界樹ピナの守り手、玄武の子供、【黒姫】と申します♡」
「玄武の子供……って、ああ、さっきのカメか。おまえが守り手だったのか」
「はい。長くからピナのお目付役として、あの子をずっと守っております」
「子供なのにか?」
「こう見えてもわたし、お兄様よりずっとずっと年上なのですよ♡ 歳はひみつです♡」
黒姫がクスクス、と口元を隠して上品に笑う。
「黒姫も守り手ってことは、あんたもウルスラの仲間みたいなものなのか?」
「そうですね。わたしもウルスラちゃんと同じで、世界樹を守るべく選ばれた存在です」
ウルスラちゃんって。
まさかこいつ、ウルスラよりも長生きなんじゃ……。
「そんな長く生きててまだ子供なんだな」
「カメは長寿なのです。お母様は天地創造から生きております♡」
スケールがデカすぎて、俺には把握しきれなかった。
「まあいい。黒姫、ピナを外に出す許可をくれないか?」
「もちろん、ぜひそうしてください。あの子にはもう少し常識と教養を身につけさせたいと、常々思っていたところですの」
守り手・黒姫は、ピナを連れ出すことを快諾してくれたようだ。
「ところでお兄さま。わたくしもお供したいと思っております」
すすっ、と黒姫が俺に近づいて、ぴったりと寄り添う。
「いや、おまえついてきたら、誰が世界樹を守るんだよ」
「ですので、こちらを」
そう言って、黒姫は懐から、宝石のようなものを、俺に手渡す。
黄金の宝玉だ。
見覚えがあった。
「賢者の石か?」
「ええ。これをわたしだと思って、肌身離さず、持っていてくださいまし……♡」
なんか急に重くなった気がする、この石。
「これもウルスラに頼めば義眼に加工できるか?」
「可能だと思います。これでわたしの意思とつながれますし、わたしをいつでも呼び出せます」
ウルスラと同じことができる訳か。
「ああもちろん、お兄さまのお役にたつつもりです。わたしの能力は【結界】。魔法や物理攻撃から守るバリアを張るのが得意です」
「結界か……」
「ご用の際はわたしを呼べばすぐに駆けつけて、結界を張ります。わたし攻撃力はてんでだめですけど、防御には自信あるんですよ♡」
まあ世界樹守ってるくらいだし、ウルスラと同格の存在って言ってるもんな。
かなり強力な結界使いそうだ。
「義眼の加工が終わったぞ、小僧」
ウルスラが桃色のクリスタルを持って、俺の元へやってくる。
「それがピナの精霊核か? なんかユーリと色がちがくないか?」
「精霊によって色も形も異なるのじゃ。ほれ、手術するから目を閉じよ」
俺はウルスラに言われたとおりにする。
「ウルスラちゃん♡ こっちの賢者の石も、お兄さまの右目に」
「わ、わかりました、黒姫様……先ほどは大変失礼なことを……」
「いいのです♡ ウルスラちゃん♡ それに様はやめて。気軽に黒ちゃんって呼んでって言ってるのに」
「め、滅相もございません!」
ややあって、手術が完了した。
「【鑑定】」
『精霊神の目(LEVEL4)』
『→【瞳術】が使用可能に、幻術を鑑定できるようになった』
『賢者の石(LEVEL2)』
『→玄武・黒姫とリンクできるようになった。【結界】が使用可能になった』
「幻術を見破れるようになったのはわかったんだが、瞳術っていうのはなんだ?」
「目を使った幻術だね~。見た人に幻覚を見せてまどわせるとか、心を操るとかできるよ」
まあ、何はともあれ、これでユーリを、家族に会わせることができた。
これで姉妹は、あと6人だ。