29.鑑定士、第2迷宮のボスと戦う
砕鰐を鑑定した。
『武器破壊(S+)』
『→直接、あるいは武器越しに、触れた相手の武器を破壊する』
そのときに、なぜかゾイドに出会った。
瀕死だったので治療し、ピナに言って外へ追い出した。
話はその数十分後。
「なんで迷宮主の部屋があるんだ……?」
蔦に囲まれた石の巨大な扉を見上げながら、俺はつぶやく。
『そりゃダンジョンの最後と言ったらボスモンスターいないとね!』
ピナがウキウキしながら言う。
「これ倒したらおまえのところ行けなくならないか……?」
『迷宮核を壊さなければ大丈夫じゃろう』
『そう! そしてボスを倒さないと、お姫様のいる部屋にまではたどり着けない! これゲームの鉄則!』
……ピナが何を言ってるのか、さっぱりだった。
まあとにかくボスを倒せばいよいよピナに会える訳か。
「ユーリ。ちょっとまってな。ちょろっとボス倒して、すぐおまえの妹に会わせてやるから」
『はい♡ 信じて、まって……ます♡』
俺はうなずいて、石の扉を開く。
中もまた密林になっていた。
「敵はどこだ? ウルスラ」
『どうやら、貴様の立っている地面がそうらしいぞ』
「なんだと……?」
そのときだった。
ごごごッ……! と地面が揺れた。
激しい揺れに立っていられなくなる。
『【玄武】、というSランクのモンスターらしい。その実体は、山の如き巨大な亀だ。背中に草木が生えてるから、密林の中だと勘違いしていたようじゃな』
「とにかく……脱出だ!」
俺は【超加速】を使用。
脚力を強化し、飛び上がる。
「ガアァアアアアメェエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!」
……眼下には、恐ろしい大きさの亀がいた。
最初、山かと思った。
甲羅の上に密林が乗っている。
ぶっとい首と手足。
そのフォルムはまごうことなくカメ。
「デカすぎるだろ!」
『泣き言を言うな。敵は攻撃を待ってくれぬぞ』
「わかってる!」
俺は空中で【火球】を打つ。
その数は100。
百発の火の玉を、玄武の眼めがけて打つ。
ドガガガガガァアアアアアアアアアン!
「やったか……?」
『生きておるようじゃな』
「マジかよ……」
あれだけの数の魔法を喰らって、玄武はピンピンしていた。
「ガァアアアアアアメェエエエエエ!!」
『玄武が魔法【水流弾】を小僧めがけて打ってくるぞ』
玄武は口を開き、空中の俺めがけて、水の魔法を打ってきた。
「……なんか、違和感があるな」
だが今は対処が先だ。
『玄武の魔法攻撃』
『→攻撃軌道の鑑定』
『→攻撃反射のタイミングの鑑定』
魔法の速度が、スローになる。
俺は攻撃が当たる瞬間、剣の腹で弾いた。
パリィイイイイイイイイイイン!!
弾き飛ばされた水流弾が、玄武めがけて跳んでいく。
激突。
だが、ピンピンしていた。
「…………」
俺はようやく着地。
眼前には、仰ぎ見るほどの、巨大な玄武。
玄武は足元の俺を前に……微動だにしなかった。
「……やっぱり、変だ」
『小僧。苦戦しておるようじゃな。わしが転移し極大魔法を打つか?』
「いや……それには及ばねえよ」
『なに? どういうことじゃ?』
「【超鑑定】」
『玄武の正体』
『→※【幻術】によるジャミングのため、鑑定不能』
『……なるほどな。やるな、小僧』
珍しくウルスラが褒めてくれた。
俺は玄武めがけて、右手を差し出す。
「おいカメ野郎。おまえそれ、張りぼてなんだろ?」
玄武が、ギクッ……! と肩をふるわせた。
「だろうな。【解呪】」
不死王から鑑定した能力を、発動する。
あらゆる魔法、呪いを解除する能力だ。
俺が【解呪】を発動させた瞬間……。
巨大なカメは、煙のように消えた。
そして……足元に、通常サイズのカメがいた。
「やっぱり、空間ごとデカく見えるよう、幻術かけてやがったんだな」
玄武は、ユーリのダンジョンで出会った岩巨人の大きさを、遥かに超えていた。
だがよく考えなくても、この山みたいなカメが地下に入れるスペースがあるわけない。
つまり……この空間そのものが、幻術で作られた偽の空間だった、ということだ。
『精霊の強力な幻術じゃ。だから、守り手であるわしにも見抜けなかったのじゃろう』
悔しそうウルスラが言う。
『今回ばかりは……貴様の手柄だ。褒めてやる』
「珍しいな、あんたが褒めるなんて」
『勘違いするな。貴様をユーリの男として認めたわけじゃないからな』
「はいはい……っと」
俺は玄武を見下ろす。
「【鑑定】」
『玄武(幼体)』
『→Sランクモンスター・玄武の子供』
『鑑定結果すらも幻術で変えられていたみたいじゃな』
「ピナの幻術がそれだけすごいってことか……。さて、悪いな」
俺は精霊の剣を手にする。
こいつを倒さないと先に進めないからな。
「…………」
だが、剣を振り下ろせなかった。
「子供を殺すのは……ちょっとな……」
俺は剣を右手の魔法紋の中にしまう。
『正義の味方気取りか?』
「ちげえよ。ユーリが泣くかなって思ったんだ」
『アイン、さん。ありが、と』
ホッとしたような、ユーリの声。
彼女もまた、玄武の子供を殺すことを、気に病んでいたのだろう。
『……ありがとう、優しいお兄さま』
……ん?
なんか聞こえたような……まあ気のせいか。
「で? ピナ子さんよ。これ玄武を倒さないとダメなのか?」
『も、もちろんだよ! ボスを倒さないとゲームクリアできないね!』
「けど俺はおまえの幻術を破って、しかも敵の正体がたいしたことないものだって看破したぞ?」
『ぐぬっ』
「隠し球はもうないんだろ? 幻術見破った時点で俺の勝ちだろ」
『ぐぬぬっ』
「おまえこれで勝ち認めないつもりか? こんな小さな可愛い亀の命を見殺しにするってのか。ひでえやつだなおまえ」
『あーもーーーーー! わかった! わかったよ降参! アタシの負けッ!』
すると……奥の部屋の扉が開く。
どうやらあの先に、世界樹が、精霊ピナがいるようだ。
かくして、俺は第2迷宮のボスを打ち破ったのだった。




