26.鑑定士、第2の精霊の試練に挑む
村で一泊し、そこから馬車で2日後。
俺は、商会がつきとめた、隠しダンジョンと思わしきダンジョンへと、到着した。
この世に存在する迷宮の中に、隠しダンジョンは隠れている。
「ミラは入り口で待っててくれ」
「あ、あのっ」
ミラが近づいてきて、心配そうな顔で言う。
「隠しダンジョンは……この世で最も難易度の高いダンジョンと聞きます。Sランクモンスターがうじゃうじゃいるとか……だから……その……心配です……」
ぺちょんっ、とミラの犬耳が垂れる。
「大丈夫だ。こっちには最強の精霊と、この目があるんだから」
「……そうですね。ご主人様の卓越した強さなら……」
ミラはフッと笑う。
「かしこまりました。外でご主人様の帰りとご無事を、女神様に祈っております」
「ああ、安心してまってな」
ミラは俺の腕にしがみつく。
そして、俺の額に……キスをしてきた。
「はぁ!?」『なん、と……!』
ミラが口を離す。
頬を赤らめて言う。
「獣人族の……おまじないです。ご武運を」
「あ、ああ……ありがとう」
笑顔で手を振るミラを残して、俺はユーリとともに、ダンジョンの中へ向かった。
『ぅ〜……』
「どうしたんだよ、ユーリ?」
なんだかさっきから、ユーリが不機嫌そうだった。
『アイン、さん。でれでれ、してる?』
「いやいやそんなことないよ」
『して、る! キスされて……浮かれて、ます!』
「そ、そんなことないって……」
ユーリをなだめながら先へ進む。
「ここって何のダンジョンなんだ?」
『霧狐というDランクのモンスターじゃな。【煙幕】の霧を使い、それに隠れて攻撃してくるぞ』
ややあって。
ダンジョン通路に、霧が発生する。
「これか……」
かなりの濃霧だ。
前が見えない。
「ォオオオオオオオオオオオン!」
狐の声がした瞬間。
ガキィイイイイイイイイイイン!
俺の右腕に、狐がかみついていた。
「オォオオッ!?」
狐が驚いている。
俺には【不意打ち無効】の能力がある。
だから霧に紛れて攻撃してくるとしても、俺は平気なのだ。
【金剛力】を発動。
俺は頭部を粉砕する。
「鑑定しとくか」
『煙幕(C)』
『→濃霧を発生させ身を隠す』
「先へ進むか」
出てくる霧狐を無視しながら、俺はダンジョンを進む。
向こうが勝手に噛みついてくる。
だが攻撃方法が不意打ちである以上、俺に攻撃は通らない。
攻撃無効。からの金剛力、または溶解毒で、敵の攻撃をものともせず進む。
『アイン、さん。すごい、です。無敵! 最強、です!』
「ありがとな。おまえのおかげだよ」
『~♪』
ややあって。
「ここか?」
行き止まりになっていた。
俺の面前には、迷宮の壁があるだけだ。
『壁に転移の魔法が付与されておる。触れれば隠しダンジョンの中へ入れるみたいじゃな』
ウルスラがよく使っている転移の魔法か。
「よし……いくか」
俺は壁に手をふれる。
すると壁自体が発光。
まばゆい光に包まれる。
……次の瞬間、俺は別の場所に立っていた。
「ここは、密林みたいだ……それに、空もある」
生い茂る植物。
動植物のぎゃあぎゃあというやかましい声。
そして蒸し暑い。
ダンジョン内とはとても思えなかった。
『どうやら強力な幻術の魔法で、ダンジョン内部の構造を変えてるみたいじゃ』
「幻術か……。誰が?」
『それはもちろん、世界樹じゃろう』
「じゃあこれでここに世界樹があるのは確定ってことだな」
『そうじゃな。幻術を使うとなると、【ピナ】がおると思われる』
『わたし、の、妹、です! いたずら好き、の、かわいい、子!』
ユーリが弾んだ声で言う。
そりゃそうか。
超久しぶりに妹に会えるんだもんな。
そのときだった。
『そうでーす☆ おねーちゃーん!』
どこからか、甲高い女の声が響いてきた。
『ピナ、ちゃん!』
『ユーリ姉ちゃんじゃん! わ~☆ ひっさしぶり〜。おねえちゃんたち何しに来たの~?』
「おまえに会いに来たんだよ」
『ふーん……。人間……。へえ……おねえちゃん、人間と手を組んだんだ』
なんだか含みのある言い方だった。
『ま☆ いーや。アタシ、奥で待ってるね☆』
「は? おいちょっと待てよ。姉が会いに来たんだから転移とか使っておまえのところに連れてけないのか?」
『ごっめーん☆ 外から世界樹の部屋へは転移できないバリア張ってるの。だから歩いてここまできて~』
マジかよ。
『あ、ここね侵入者防止用にトラップとかモンスターとかうじゃうじゃいるけど頑張って☆ あと結構入り組んだ内部構造してるけど迷子にならないようにね』
『わか、った! わたし、がんばる!』
『がんばるのはお姉ちゃんの彼氏でしょ~?』
『か、彼氏!? ち、ちがい、ます!』
『ふーん。まいいや。待ってるからね☆ あ、無理ならすぐギブアップ宣言してね。外へは追い出すことは簡単にできるから』
どうやら迷宮を突破しないと、妹に会えないようだ。
「いくか。まあ楽勝だろうけど」
『ふーん。いってくれるじゃーん。けど無理だと思うよ~?』
ピナが意地の悪そうに言う。
『ここのモンスター、めっちゃ強いから。それにダンジョン罠も幻術で巧妙に隠されてるし、自慢じゃないけど全部の隠しダンジョンのなかで、アタシのダンジョンが一番難易度高いと思うな~』
「そうか。まあ問題ない」
俺はジャングルの中を進む。
『目の前に落とし穴トラップがあるぞ』
ウルスラに言われたとおり、俺はジャンプして落とし穴を避ける。
『えぇえええええええ! な、なんでなんで~~~~~~~~!?』
ピナの声が響く。
どうやらダンジョン内の様子を監視できるらしい。
『なんでそのトラップに気づけるわけ!? 普通の地面に偽装してたじゃん!』
「こっちには最強の目とガイドがいるんだよ。罠も敵の位置も、正解のルートも把握できる」
『はぁ~~~~~~!? な、なにそれズルじゃん! ズルズル!』
「別にズルじゃねえよ。自分の能力で迷宮を突破しようとしてるだけじゃないか。他のやつらと同じだよ」
『きぃ~~~~~! ま、まあいいよ! ダンジョンのモンスター! これがめっちゃ強いから! ぼっこんぼっこんのけっちょんけっちょんにするから!』
ちょっと進んでいくと、ウルスラの通信が入った。
『白猿。Sランクの猿型モンスターじゃな。遠くからこちらに魔法を打とうとしておるぞ』
俺は【招雷弾】を発動。
隠れている猿を麻痺させる。
動けないところを、俺は【斬鉄】を付与させた精霊の剣で切り捨てた。
『なんでぇえええええええええ!?』
ピナがまた叫ぶ。
「なんだ、この程度のモンスターしかでないのか?」
『ま、まだいるし! つ、強いのめっちゃいるから! ほんとだしー!』
どんなやつがいるのかわからないが、まあ、問題なさそうだった。




