【番外編】
【☆★おしらせ★☆】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
乾いた風が、荒野の砂塵を巻き上げる。
草一本生えない赤茶けた大地。
かつての戦争か、あるいは天災か。文明の爪痕だけが墓標のように残るこの場所で、食欲をそそる温かな湯気が立ち上っていた。
「さあさあー、並んで-! スープはまだまだあるよー!」
メイは、身の丈ほどもある大きな寸胴鍋の前に立ち、懸命にお玉を振るっていた。
かつてアインたちと旅をしていた頃は、誰かの後ろに隠れているような幼い少女だったけれど、今は違う。
空色の髪をバンダナでまとめ、エプロン姿で元気に動き回っている。
「はい、どうぞー! 熱いから気をつけてね!」
「ありがとう、お嬢ちゃん……」
痩せこけた老人が、震える手でスープを受け取る。
メイたちの後ろには、巨大な天幕と、物資を満載した竜車が何台も並んでいた。
その側面には、天を駆ける銀色の鳥――『銀鳳商会』の紋章が輝いている。
「めーのよそったスープ、栄養満点す! 食べたら元気百倍だよー!」
メイは満面の笑顔を振りまく。
彼女の笑顔につられるように、疲れ切っていた避難民たちの顔にも、少しだけ生気が戻っていく。
(ふふん、めーも役に立ってるのです。これならきっと、あの人も褒めてくれるのです!)
メイが期待に胸を膨らませて振り返ると、視線の先には一人の男がいた。
仕立ての良いロングコートを砂埃で汚すことも厭わず、自ら重い木箱を運んでいる長身の青年。
整った顔立ちに、理知的だが温かみのある碧眼。
彼こそが、『銀鳳商会』のギルドマスターにして、メイが心底惚れ込んでいる相手――ジャスパーだ。
「よし、このエリアの配給は順調だな。次はB地区への輸送ルートを確保する」
「はいっ! 直ちに手配します、会長!」
部下たちに的確な指示を飛ばす姿は、いつ見ても痺れるほど格好いい。
メイは作業の手を止め、うっとりとその横顔に見とれてしまう。
頬をポッと染め、恋する乙女の瞳で彼を見つめる。
「ジャスパー様……やっぱり素敵すぎ~……♡」
アインとの旅を終えた後、メイは行く当てのない自分を拾ってくれた彼についていくことを決めた。
世界中を飛び回り、商売をする彼と一緒なら、もっと広い世界が見られると思ったからだ。
「おや、メイ。手が止まっているよ?」
不意に、目の前に影が落ちた。
ハッとして見上げると、いつの間にかジャスパーが至近距離に立っていた。
優しげな瞳が、メイを覗き込んでいる。
「あわわっ!? ち、違うのジャスパー様! サボってたわけじゃないのっ! ちょっとジャスパー様に見とれてただけ……って、ああっ!?」
メイは慌てて口を押さえるが、もう遅い。
ジャスパーはクスリと笑うと、懐から白いハンカチを取り出した。
「ふふ、熱心なのはいいことだけど、顔が汚れているよ」
「え?」
彼の手が伸び、メイの頬に付いた煤を、優しく拭い取る。
ハンカチ越しに伝わる指の体温と、ふわりと香る彼の匂い。
「っ~~~~!!」
メイの顔が、スープの鍋よりも熱く沸騰した。
心臓が早鐘を打ち、頭からシューシューと湯気が出そうだ。
彼女は直立不動になり、ガチガチと震えながら叫ぶ。
「き、きょーえつにぞじますなのですぅ……!」
「ははは、なんだいその言葉遣いは。……よく頑張っているね、メイ。君の笑顔は、どんな高級な宝石よりも、人々の心を明るく照らしているよ」
「ほ、褒められちゃったのです……へへへ……」
メイはだらしなく頬を緩ませる。
この人のためなら、たとえ火の中水の中、荒野の果てまでついていける。そう改めて確信した。
ふと、メイは以前から疑問に思っていたことを口にする。
「でも、不思議なのです。ジャスパー様は商人なのに、どうしてタダでこんなことをするのです? お金、儲からないのです」
商売の基本は、安く買って高く売ることだと教わった。
けれど、ジャスパーがやっているのは完全な奉仕活動だ。
ジャスパーは荒れ地の向こう、スープを飲んで笑顔になる子供たちを見つめ、静かに答えた。
「確かに、今の利益はゼロだ。だがね、メイ。商売というのは『人』がいなければ成り立たない」
「人、なのです?」
「ああ。彼らが生きて、復興し、生活を取り戻せば……いずれ彼らは、我々の顧客(お客様)になってくれるかもしれない。これは未来への『投資』なんだよ」
そう言ってウインクするジャスパー。
それは計算高い商人の理屈のようでいて、その奥には確かな優しさが隠れていることを、メイは知っている。
「むずかしいことは分からないけど……ジャスパー様が言うなら、きっとそれが正解なのです!」
「信頼してくれて嬉しいよ。……さあ、次の街へ行こうか。世界は広い。僕らを待っている場所は、まだまだ沢山あるからね」
ジャスパーが歩き出す。
その背中を追いかけて、メイは元気よく駆け出した。
「はいなのです! どこまでもついて行くのです、ジャスパー様!」
荒野に吹く風は、先ほどよりも少しだけ優しく感じられた。
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