25.鑑定士、盗賊団を返り討ちにする
ゴブリンの大群を極大魔法で吹き飛ばした、その日の夕方。
「今夜は道中の村で一泊いたしましょう」
やってきたのは、特に目立った物のない普通の村。
ミラが話をつけて、民家に泊めてもらえることになった。
夜。
「さあご主人様、お嬢様方。どうぞお召し上がりください」
民家の居間に、豪勢な料理が並んでいる。
「こ、れ……全部、ミラさん、作った、の?」
「はい。と言っても食材が限られているので、たいした物が作れなかったのですが」
「いやたいしたもんだよ。美味そうだ」
「お褒めくださり光栄です。尊敬するご主人様にそう言われるととてもうれしいですっ」
頬を紅潮させ、ミラが言う。
ふりふりと犬しっぽが揺れていた。
「むむっ、ライバル、おおい……がんばら、ないと……!」
ユーリがもぐもぐとご飯を食べながら何事かをつぶやく。
一通り食事を終え、お茶を飲んで一息ついついていた……そのときだ。
「何やら村の外が騒がしいですね。様子を見て参ります」
ミラが立ち上がり、家の外へ出ていこうとする。
「どうやら夜盗の類いがやってきてるみたいじゃな」
「夜盗! 大変です! 助けないと!」
「待ってミラ。おまえ戦闘職じゃないだろ。俺が行ってくるから」
俺はユーリを見やる。
その表情を見れば、どうしてほしいかわかった。
もういい加減、この子の性格はわかっているつもりである。
俺は民家の外に出る。
大勢の男たちが、村の入り口に立っていた。
「おいジジイ。命が惜しけりゃ村の有り金全部だしな。若い女でも良いぜ」
「そんな物はこの村にはございません! 何も特産品もない、消え去るだけの寒村ですじゃ! なにとぞ、お引き取りを!」
「ほんとのこと言わねえと村に火矢打ち込んでもいいんだぜ~?」
ニヤニヤと盗賊団たちが邪悪に笑う。
やつらは弱者をいたぶっているのだ。
「おい、それくらいにしておけよ」
俺は盗賊団たちの前へ到着する。
『数は30。程度としてはゴブリンとどっこいどっこいくらいじゃ。まあ雑魚じゃから後はおぬしでなんとかしておけ』
「あぁ!? なんだてめえ? 冒険者か……?」
「元な。今はしがない鑑定士だ」
「ぷっ! ぷぎゃはははっ! か、鑑定士だってぇ~? あの役に立たないゴミ職が、いったい何しに来たって言うんだよぉ?」
頭領がニヤニヤ笑いながら、俺に近づいてくる。
「戦うチカラのないゴミが、まさかと思うが人助けするつもりじゃあないだろうなぁ~?」
俺は頭領の肩に、手を触れる。
不死王から鑑定した、【昏倒】の能力を発動。
「はれ……?」
頭領はクタッ、と力が抜け、その場にへたり込んでしまった。
「なにしてんだよおかしらぁ?」「酒の飲み過ぎかぁ?」
どうやら今の現象を、誰一人として理解してないようだった。
「警告する。逃げるんだったら俺は手を出さない。命が惜しければ大人しく帰れ」
「ざっけんな!」「雑魚ゴミの不遇職のくせに!」「ぶっ殺せ!」
盗賊団のメンバーたちが、戦闘態勢に入る。
ナイフを持った盗賊の2人が、俺めがけて走ってくる。
俺は【不動要塞】を発動。
その場で動けなくなる代わりに、攻撃ダメージを0にする能力だ。
がきぃいいいいいいいいいん!
盗賊のナイフが、俺に当たった瞬間、折れる。
「げぇ!? な、なんだこいつ! めちゃくちゃ硬いぞ!」
驚いている彼らの肩に、俺は手で触れる。
【昏倒】が発動し、その場で倒れる。
「こいつやべえぞ! 不遇職のくせに強い!」
「せ、先生! 用心棒の先生!」
メンバーの一人が叫ぶ。
ゆらり……と夜の闇から、痩せた男がでてきた。
「……やれやれ。拙者の手を煩わせるなと言っているのにな」
着物に、腰に刀を差している。
【サムライ】か。
上級普遍職のひとつ。
剣士をさらに越える刀の使い手だ。
「坊主、命乞いをするなら助けてやってもいい。拙者の妖刀は強者の血をすする刀。貴様のような雑魚にはもったいない刀だ」
どうやらこいつも、俺が鑑定士だからって馬鹿にしているようだった。
「御託はいいからかかって来いよ」
「……威勢の良いガキだな。嫌いじゃないが、大人を怒らせるとどうなるか教えてやろう」
サムライは刀の鞘を手に取る。
だっ……! と踏み込んでくる。
「【超鑑定】」
『サムライの動き(B)』
『→腹部を狙った居合抜き』
軌道を鑑定したため、男の動きがスローモーションになる。
……こいつも、ほぼその場に止まっていた。
俺は自ら近づいて、攻撃反射のタイミングを鑑定する。
ぱりぃいいいいいいいいいいいん!
男の持っていた妖刀とやらが、俺の出した剣にはじかれて、宙を舞う。
「我が神速の居合い! 死ぬ前に目に焼き付けろ! しねえええええええええい!」
スカッ……!
「はーっはっは! 今宵の妖刀もまたつまらぬものを斬ってしまったわ……って、ええええええええ!? よ、妖刀どこいったああああああああ!?」
……どうやらこいつ、俺の動きが、完全に見えてなかったようだ。
弾き飛ばされたことに気付いてなかったのだろう。
どんだけ雑魚なんだよ……。
「し、しかし拙者は周到な男! 刀をもう1本持っているのだ!」
腰に差した1本の刀に、男が手をかけようとする。
俺は【超加速】を発動。
やつが動く前に、サムライの腰から鞘ごと刀を抜く。
「まさかこの2本目の刀を抜くときが来るとはなぁ! 光栄に思え! この刀の刀身を見た者は誰もおらぬ! なぜならそいつら全員死んでいるからなぁあ!」
スカッ……!
「はーっはっは! どうだこの禍々しい刀! これは………………って、ええええええええ!? 刀どこいったんんんんん!?」
「これだろ?」
俺は手に持っている、2本目の妖刀を、男に投げてよこした。
男の足元に、妖刀が転がる。
「う、ううそだ……まったく、気付かなかった……いつ刀を取られたのだ……?」
「おまえがぼさっと突っ立ってるときだよ。で? どうするんだ?」
サムライの男はたらり……と額に汗をかく。
そして、落ちてる刀の前に、きれいな土下座をする。
「調子にのってすんまっせんでしたぁああああああああああ!」
サムライが何度も頭を地面にこすりつけて、命乞いをする。
「お、おい用心棒の先生が土下座してるぞ……」
「おれらも逆らえば命がないんじゃ……」
盗賊団メンバーたちの、顔色が青くなる。
みな武装を解除すると、その場で全員が土下座した。
「すごい。さすがです、ご主人様。なんという手腕……」
ミラが離れたところから、俺にキラキラとした目を向ける。
「旅人よ! わしらの村を救ってくださり、ありがとう! あなたは我が村の英雄だ!」
村長が俺の手を握ると、何度も何度も頭を下げて感謝してくるのだった。




