24.鑑定士、モンスターの大群を瞬殺する
商人ジャスパーの援助を受けることになった。
それから1週間後。
商会が厳選・調査した結果、もっとも隠しダンジョンである確率の高いものを、絞り込んでくれた。
俺はダンジョンのある、東方へと向かうのだった。
ジャスパーの用意してもらった馬車に、俺は乗っている。
隠しダンジョンは馬車で3日いったところにあるらしい。
「ご主人様。お尻は痛くなっていませんか? そろそろご休憩を取りましょうか?」
俺は窓から、御者台に座るその人を見やる。
馬の手綱を握っているのは、メイド服の獣人だ。
年齢は10代後半くらい。
長い黒髪と、ぴんっ、と立った犬耳。
メイド服の胸部を押し上げる、圧倒的な大きさの乳房。
「いや、大丈夫だ。【ミラ】進んでくれ」
「かしこまりました。ただ気分が悪くなった際はすぐにお声がけください。馬車は乗っているだけで疲れますからね」
さて、彼女はミラ。
ジャスパーが、俺の世話係としてあてがったメイドさんである。
彼女の職業は【器用貧乏】。
下級普遍職のひとつ。
戦闘技能の一切を持たない代わりに、数多くの家事の技能を持つ。
例えば掃除洗濯。
庭の剪定や料理など。
すべてをプロ級にこなすことのできる、ハイスペックメイドさんなのだ。
(ちなみに戦闘職すべてを使える【万能職】もある。これは希少職)
ミラは俺の身の回りの世話を全てやっている。
ダンジョンまでの馬車の運転、その間の食事係。
あらゆる雑事を彼女にこなしてもらっている。
ハッキリ言ってすごく楽。
『小僧。離れたところに敵の気配を感じる。数が多いぞ。ユーリのために対処しろ』
俺は窓からミラに声をかける。
「ミラ、馬車を止めてくれ」
「かしこまりました。お気分悪くなりましたか? 酔い止めの薬をどうぞ」
スッ、とミラがメイド服のポケットから、薬瓶を取り出す。
用意周到すぎないか……?
俺は馬車から降りる。
「大丈夫だ。それより敵が近づいてる。数も多いらしいからちょっと倒す」
俺は御者台のミラを、見上げながら言う。
「? それはおかしいです、ご主人様」
ミラが首をかしげる。
「獣人は人間よりも五感に優れます。周囲一帯から敵の気配を感じません」
「なんだ、索敵みたいなこともできるのか。ミラは本当に色々できるんだな」
「恐縮です。さっ、ご主人様。先へ進みましょう。馬車にお乗りください」
どうやらミラは敵が来ないと思っているらしい。
「まあちょっと待ってろ。すぐに片付けるから」
俺はひょいっと馬車の屋根の上に乗る。
「ウルスラ。敵と、正確な位置情報を」
『ゴブリンじゃ。Dランクの雑魚が100体ほど。どうやら我々の進行方向に巣があって、今まさに人里に降りて襲おうとしてる準備中ってところじゃな』
俺は両手をバッ……! と天に向ける。
「ご主人様? いったい何を……?」
「極大魔法を、ちょろっとな」
「極大……へっ!? ご、ご主人様は失礼ながら鑑定士だとうかがっています。熟達名魔法職でも使えない魔法を、本当に使えるのですか……?」
まあこれが普通の反応だよな。
俺は世間的には下級普遍職の鑑定士だから。
「まあ見てろって。【天光迅雷槍】」
俺の体から、大量の魔力が吸い出される。
空が突如として真っ黒になる。
「う、うそ……? さっきまで晴れてたのに……?」
雷雲がわだかまる。
そして天から、無数の雷の槍が、地上に降り注ぐ。
ズガァアアアアアアアアアアアンッ!
俺は魔力切れを起こして、その場にへたりこむ。
すかさずユーリが、世界樹の雫で、失った魔力を補充してくれた。
「…………」
ミラは、ぽかーん、と目を丸くし、口を開いている。
「う、うそ……? 自然災害級の魔法……あれは、極大魔法……。しかも、無詠唱で……?」
ミラが俺に、まん丸に見開いた目を向ける。
「今のは……いったい? ご主人様は……何もの?」
「ん。まあ色々あって、色々できるようになったんだ。詳しいことはあまり聞かないでくれ」
「なるほど……わかりました!」
ややあって、俺たちを乗せた馬車は、ゴブリンたちがいた場所へ通りかかる。
「すごい……ほんとうだ。ゴブリンの、大量の死体が……」
黒焦げになったゴブリンの死体を見て、ミラが目を見開いている。
「ご主人様、あなたの能力を疑ってしまい、申し訳ございませんでした!」
ミラが不憫なくらい、ペコペコと頭を下げる。
「いや、気にすんな。普通に考えて、獣人より感度の高い五感を持っている人なんていねえからな。世迷い言だって思って当然だ」
「ご主人様……私を許してくださるのですか?」
「もちろん。てか全然気にしてないし俺」
「……優しい御方♡ 素敵です……♡」
ミラが頬を赤らめて、俺にキラキラとした目を向ける。
「100匹のゴブリンを瞬殺できる能力があるというのに……ぜんぜん偉ぶらない……できた御方。素晴らしいお人。私はあなたのような傑物にお仕えできること、心から嬉しく思います!」
パタパタと耳としっぽをゆらしながら、ミラが俺に尊敬のまなざしを向けてくる。
「いや別に俺がすごいわけじゃないよ」
「その上謙虚だなんて! すごいです! 本当にご主人様はすごい御方です!」
なんか、ミラの俺への評価が、めちゃくちゃ上がってしまった。
本当に、俺一人のチカラじゃないんだけどな……。




