【アニメ化記念SS】運命の日
それはアイン・レーシックが英雄となるより遙か前……。
彼がまだ、幼い時の話。
アイン、5歳。ゲータ・ニィガ王国のとある田舎町にて、農業を営む夫婦のもとで生まれ育っていた。
この世界では、五歳になると、全員が【鑑定の儀】というものを受けるしきたりになっているのだ。
5歳を迎えた子供のもとに、天導教会から司祭がやってくる。
司祭は特別な魔道具を用いて、その子供の職業を調べる。
そして、アインは今日、司祭からこう言われたのだ。
『アイン。君の職業は……鑑定士だ』
鑑定士。物を鑑定するスキルだけの、下級普遍職。
司祭から息子の職業を聞いた両親は……真っ青な顔をしていた。
幼いアインには、なぜ両親がそんな顔をしてるのか理解できなかった。
そして、夜。
アインは目を覚まし、トイレへ向かっている途中……。
「可哀想に……まさか、アインが鑑定士だなんて……」
母親が泣いてるのを目撃してしまったのだ。
どうしたのだろうと気になり、アインはこっそりと様子をうかがう。
居間ではアイン母が涙を流し、それを父が慰めている。
「鑑定士……鑑定スキルしか持たない、ハズレ職業だわ。どうして……【農夫】じゃないの? 職業は遺伝するんじゃなかったの……?」
「職業の遺伝については、確実にそうなるってわけじゃない。確率が高いってだけだ……」
「そんな……。じゃ、じゃああの子はもう、不遇職に生まれたあの子は! 家業を継ぐか、冒険者になるくらいしか、生きる道がないじゃない!」
……母が父に怒鳴り散らしていた。
だがけんかをしてるのではなさそうだ。
最初、母が何に悲しんでいるのか理解できなかった。
だが次第に、両親が息子……つまり自分について言及してるのが、わかった。
「アイン……あの子には暗い未来しか待ち受けてないわ……どうしましょう……どうしましょう……」
……アインは遅まきながら理解する。
自分に与えられた職業は、不遇職といって、世間一般からすればハズレに当たる職業であることを。
「戦う力も、守る力もないあの子のために……おれたちができるのは、せめて、長生きしてあげることくらいだな」
「そうね……。そうよね。あの子を守れるのは、私達だけですものね」
……このときの親の台詞が、呪いの言葉となって、アインの中に根付いてしまう。
自分には戦う力も、守る力もないのだ。
自分は、不遇職業。親に迷惑をかけ、親から守られるような、そんな弱い存在であるのだと……。
★
「アインさん? どうしたんですか?」
アインは現在、両親の墓の前に居た。
隣には金髪の美少女、ユーリが立っている。
「ん? ああ、ごめん。ちょっと昔を思い出してさ」
世界を救った後、アインはユーリを連れて、故郷を訪れていたのだ。
「昔? アインさんの子供の頃のこと? どんな感じだったんですかっ? わたし、気になっちゃいますっ!」
わくわく、とした表情でユーリが尋ねてくる。
アインは目を伏して言う。
「昔の俺は、駄目なやつだったよ。親に、職業のことで、すっごく心配かけちゃってさ」
アインが沈んだ声音で言う。
不遇職と判明してからの経緯を軽く説明する。
鑑定の儀のあと、周りからは不遇職と馬鹿にされ続けたと。
「結局……父さんたちが死ぬまで、ずっと心配かけてしまったよ……」
アインは両親が嫌いじゃなかった。
自分を守ってくれる、愛すべき人たち。彼らに最後の最後まで心配をかけたことを、アインは今も後悔していた。
するとユーリは微笑むと、アインの手をぎゅっと握る。
「じゃあ、もう今は安心してますね! だって、今のアインさん、世界を救った英雄になったんですものっ!」
「ユーリ……」
死んだらそれまでと、アインは思っていた。
でも、ユーリは違うらしい。
「死んだ後も、天国から、アインさんの両親は子供の活躍を見ててくれてますよ。だから、きっと今は、誇らしいと思ってるんじゃないかなぁ?」
「…………そう、思うか?」
「はいっ!」
ユーリははっきりとうなずきながら言う。
不思議だ。ユーリがそう言うと、本当に、死んだ両親がどこかにいて、見守ってくれているような気がする。
「神様までやっつけちゃうなんて、すっごーい! って。あれ、自慢の息子ですよーって! きっと今頃天国で自慢大会ひらいちゃってますねっ」
「はは……! そうかもな。そうだったら……うれしいなぁ」
アインは背筋を伸ばし、頭を下げる。
「父さん、母さん。俺を育ててくれて、ありがとう。俺……いろいろあったけど、今、幸せだよ」
隣に愛しい女性がいる。
もう誰も、自分を不遇職のゴミ拾いと呼ばない。
今、彼は幸せであると、心から言える。そんな存在になっていた。
「おーい☆ おねーちゃーん。おにーさーん!」
振り返ると、ピンク髪の美少女が手を振っている。
ユーリの妹、ピナだ。
「速くお昼にしよーよー。せっかくみんなでピクニックにきたんだからさ~」
そうだった。
家族皆で、ピクニック次いでに、ここまで来たのだった。
「いくか」
「はいっ!」
こうして、かつて不遇職だった少年は、最愛の人の手を取り、愛する家族達の元へと向かうのだった。




