234.鑑定士、ウルスラと飲む
ある日の夜、俺はウルスラに呼ばれて、屋敷のバーカウンターへとやってきた。
俺がいるのは、かつてミクトランが使っていた屋敷。
魔王との戦いを終えた俺は、辺境に休みに来たのだった。
「よぉ、お待たせ」
「うみゅ……」
うみゅ?
カウンターにつっぷしているのは、銀髪の幼女、ウルスラ。
丸眼鏡に、学者みたいな帽子が特徴的。
こう見えていていにしえの賢者様だったりする。
「おしょい~……」
ウルスラは顔を真っ赤にしてにへにへと笑っている。
「おま……酒臭いぞ」
「わはは! おまえものめのめーい!」
俺はウルスラの隣に座る。
がしっ、と彼女が俺の首後ろに腕を回し、ワインをグラスについでくる。
「おまえって酒飲むの?」
「なんじゃー! わしの酒がのめんのかー!」
微妙に会話が成り立ってねえ……!
「う、ウルスラさん……」
「なんじゃーい?」
「もうちょっと落ち着こうな」
「おちゅちゅいちぇるちゅー♡」
ぜんぜん落ち着いてない……てゆーかからみがやばいな今日。
眼を細めたウルスラが、俺に体をこすりつけてくる。
子猫のようにスリスリと頬ずりする姿が愛おしい。
普段の張り詰めた、理知的な姿とのギャップがスゴイ新鮮だ。
「うー……アインぅ~……おまえさぁ……なぁ~? ちょっと聞いてくれるぅ~?」
「はいはい」
普段結構苦労性だからな、この人。
ユーリをはじめとしてノリの良い女の子達の突っ込み役だから。
「おまえさぁ~……ちょっと働き過ぎじゃあないかの?」
「そうかな?」
「そうじゃ……息つく暇もなく敵を倒し続け、魔王をついにたおして……ゆっくり休めば良いものを、気づけばまた戦いに身を投じておる……」
俺が今やっているのは、聖杯の欠片あつめ。
聖杯。かつて最強の勇者だったミクトラン。
彼は無職者、つまり職業を持たずに生まれた男だった。
しかし実際には、彼には職業があったのだ。
それは凄まじい力を秘めていた。
聖杯という形にし、四神たちが分割管理していた。
だがある日、その聖杯の欠片を敵側が察知。
俺はそれを回収するべく各地を回っている。
「玄武、青龍……ふたりからは回収できた。残る欠片はふたつ……おぬしは、よくやってるよ」
四神たちは人間の到達できない場所にいた。
残り二人も、たぶん想像の及ばない場所に居るのだろうな。
「なぁ……アイン。おぬしは……これからも頑張るのか?」
ウルスラの瞳が不安げに揺れている。
頑張るのか、だって?
「もちろん、がんばるさ」
「……なぜ?」
「みんなの幸せのためさ」
「それは使命からか?」
「いや……俺がそうしたいからだよ」
俺にとって人助けは、もう息をするのと同じことなんだ。
困っている人をほっとけない。
誰かが、命を理不尽を散らそうとしてるのを、見過ごせないんだ。
「俺には戦う力がある。これはウルスラ……おまえがくれた力だよ」
「…………」
「おまえが俺を助けてくれたように、俺もみんなを助けたい。この力はそう使いたいんだ」
奈落に落ちて、死にそうになった俺を、ユーリが助けてくれた。
奈落から抜け出るための力は、あのとき、ウルスラが俺に与えてくれた。
どちらかがいなければ、俺は今ここに立っていない。
俺の中には、彼女たちがずっといる。
その心意気を、その正義の輝きを、俺は絶やさずに残していきたい。
だから行動で示していくんだ。
「そう……か」
「うん」
「………………」
「ウルスラ?」
ウルスラが酔い潰れている。
小さな寝息を立てていた。
俺は彼女をおんぶして部屋へと運ぶ。
俺を呼び出したのはきっと、ここで肩の荷を下ろしても良いんだって言いたかったんだろう。
彼女なりの優しさなんだ。
……でも、俺は途中で投げ出すことはしない。
あと、ふたつ。
俺は聖杯を必ず手に入れる。
争いの種を、この世界から無くすために。
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