232.鑑定士、戦いを終え次のステージへ
俺たちのもつ聖杯のかけらを狙って、かつての敵が徒党をなして襲ってきた。
だが……俺の火球だけで倒せた。
俺がいるのは、休暇に訪れていた辺境村の外。
早朝の草原にて。
「ふぅ……これで終わりか?」
周辺は草原だったのだが、何も残っていない。
放った火球の影響で焼け野原になっていた。
ユーリから鑑定した治癒の力で、一瞬で直す。
『さらりとやっているが、広範囲にわたる修復を一瞬で行うこれは、かなり高度な技術じゃからな』
賢者ウルスラの声が、俺の右目におさまっている賢者の石(通信機のようなもの)から聞こえる。
「え、そうなの?」
『気付かず使っておったのか……。まったく、たいしたやつじゃよおまえは。さすがじゃ』
さて、と。
「で、どうするイオアナ?」
草原に一人たたずむのは、白髪の魔族イオアナ。
こいつとは何度も何度も拳を合わせた、まあライバル? のような存在だ。
「やるじゃあないかアインぅうううう……君の強さが健在でうれしいよ」
凶悪な笑みを浮かべて、こちらに近づいてくる。
神眼が封じられていてもわかる。こいつが、かつて戦ったときより強くなっていることを。
「君が強くてうれしいよ……おかげでリベンジマッチが俄然楽しみだ」
「あ、やるの?」
「もちろんさ……! でなきゃ、なんのために生き返ったのかわからないじゃないかぁ!」
ごおぉ……! とイオアナの体から膨大な魔力、そして闘気が吹き荒れる。
それが一瞬で混じり合い、さらに強力なパワーを生み出す。禁術という、魔力と闘気をかけあわせ、身体能力を底上げする技術だ。
「いいぜ、やろう。おまえが何のために、誰の意思で襲ってきたのか知らねーけど……」
俺は剣を構えてイオアナと相対する。
「向かってくるなら全力で立ち向かうまでだ」
「ハッ……! いいねぇ! アインぅうううう! そんな君が大好きさ! 死ねぇえええ!」
イオアナと俺が互いに飛び出す。
音を、光を置き去りにし、お互いの拳と剣がぶつかり合う……。
だが……。
土煙が晴れると、イオアナはそこにいなかった。
「あれ? どこいった?」
すると、脳内にイオアナの声が響く。
『ごめんよアイン。帰ってこいってさ』
「なっ。まじかよ……」
完全にやる気だったのだがな……。
『勝負は次に持ち越しだね』
「まあいいけど」
俺は無限収納の魔法紋に武器を仕舞う。
「てゆーかおまえ、本当に誰に命令されてるんだよ?」
『それを君に教えると思うかい?』
「いいや。おまえ、俺の仲間じゃないしな」
『わかってるじゃないか、さすがアインぅ……。ボクは好きだぜそういうとこ』
「そりゃどーも」
しかし死者を復活させ、さらに操ることのできる相手か……。
厄介なのに目をつけられたようだ。
『君は聖杯の欠片、4つあるうちの2つを回収した。残り半分、それを巡っていくうちに、またボクとぶつかる機会もあるだろう』
「じゃあ、勝負はそんときだな」
『そうだね。それまで……せいぜい死なないでくれよ、アインぅ。ボクのライバル。君を殺すのはボクなんだからねぇ』
そう言って、イオアナの気配が完全に消えた。
「ふぅー……どう思う、ウルスラ?」
しゅんっ、と俺の隣に銀髪の幼女が転移してくる。
丸眼鏡の奥で黄金の瞳がほそめられる。
「裏に誰がいるのか見当がつかぬ。死者を復活させ操る敵など聞いたことがない」
「ウルスラが知らないんじゃな。【それ】が復活した……?」
「わからん。ただ……なきにしもあらずじゃろうな」
【それ】、とは全ての黒幕のことだ。
ミクトランを、アンリを、エキドナを操り、世界に破滅をもたらそうとした存在。
俺は【それ】を倒した。
だがやつの正体は悪意や負の感情、この世から根絶されることはない。
だから……まあウルスラが言うとおり、【それ】が復活したとしても別に不思議じゃない。
「【それ】を完全に封じる方法ってないんだろうか」
「わしが調べておこう。今は体を休めよ」
「そーだな。お任せするよ」
こうして、かつての敵との戦いは幕を下ろした。
それと同時に生じた、新たな疑問とともに。




