231.鑑定士、魔王のごとくザコをなぎ払う
辺境の草原にて。
かつての敵が復活し、俺を倒すべく大挙して押し寄せてきた。
しかし俺は、初級魔法【火球】一発で、敵を吹っ飛ばしたのである。
「な、なんだ……その威力はぁ……!」
フラフラと立ち上がったのは、特級魔族の【キング】だ。
な、懐かしいなお前……。
「……今の【極大魔法】を見ればわかる。てめえ……そうとう鍛えてきやがったな……!」
「え? 極大魔法? いや、ただの初級魔法だけど?」
がくん……! とキングが大口を開けて驚いている。
「う、う、うそだぁ~……」
「いや……ホントだけど。え、この程度で何に驚いてるんだ?」
キングはうつむいて、膝をついて泣き出した。
え、え、マジどうしたの?
『さすがじゃなアイン。戦わずとも相手の戦意を折るとは』
「いやマジでなんもやってないんだけど……」
俺は残っている敵軍を見やる。
火球で大半ふっとんだけど、まだ残っているな。
「よし」
ざっ、と一歩前に出ると、敵達がびくんっ! と大げさに体をこわばらせる。
「どうした、かかってこないのか?」
俺は敵軍を見渡す。
だがどいつもこいつも攻撃してこない。
「なんて……プレッシャーだ!」
敵の一人がそういった。
「なんという禍々しい強者のオーラ……」
「アインめ……ここまで成長するとは……」
「え? え? なんなの?」
よくわからないが完全に敵は動きを止めている。
「そっちからこないなら、俺から行くぞ」
俺は前を向いたまま、【左後ろに手を伸ばす】。
ガシッ……! と飛んできたそれを掴む。
「な、なぜ気付いた!? 完全に気配を絶っていたはず……神眼も使えぬはずなのに……!」
「いや殺気でバレバレだから。よいしょ」
俺は掴んだ敵を、前方の敵軍めがけて投げつける。
けん制目的なので、軽く、軽くと。
「うぎゃぁあああああああ!」
「は?」
突如として、前方にいた大軍が木の葉のように吹っ飛んでいくではないか。
「あれ、俺何かやったか?」
そんなに強く投げつけたつもりじゃないんだが……?
『恐ろしいスピードで敵が飛んでいき、相手とぶつかって、その衝撃波で敵軍が大ダメージを負ったのじゃ。さすがじゃな』
「い、いや恐ろしいスピードって……こんなの普通だろ」
『普通ではない。おぬしはめちゃくちゃ成長したのだ。それこそ最強の魔王を倒すほどに』
「でも力を封印されてるんだが?」
『だとしても、今地上でおぬしを倒せるものはおらぬよ』
「ま、マジっすか……」
そんなレベルになっていたとは……。
「まだじゃ! 諦めるのは早い!」
倒れ伏す敵軍の中から、禿げ頭の爺さんが顔を上げる。
「皆の者、立ち上がれ! 奴に……アイン・レーシックに一泡吹かせてやろうぞ!」
爺さんが仲間を鼓舞すると、敵たちが立ち上がる。
「あんたの言う通りだ!」「主神が立ち向かうんだ、おれたちもやるぞ!」
「「うぉおおおおお!」」
盛り上がっているところ悪いが……。
「だれだ、あいつ?」
「な、なんじゃとおお!?」
禿げ頭の爺さんが切れ散らかす。
「き、き、貴様! よりにもよって主神の顔を忘れたというのか!?」
「? そんなやつと戦ったっけ、俺?」
そもそもバトルした回数が多すぎてな。
すべて覚えていない。
「この……! いいかよく聞け! わしは……この日をずっと待っていた! 貴様に復讐し、地獄に叩き落す日を夢見ていた! そして今日ついに貴様をわしが倒す! わしの名前は」
「長い」
俺は爺さんの顔をつかんで、思い切り地面にたたきつける。
跡形もなく消し飛んだ。
「よくわからんが、やるなら死ぬ気でこいよ」
俺は敵軍をにらみつけて言う。
「じゃねえと……死ぬぞ」
残っていた敵軍のメンバーたちは、ガタガタと震えだす。
「ひぇえええええええ!」「化け物ぉおおおおおお!」「魔王だぁあああああ!」
しっぽを巻いて敵たちが逃げていく。
「これを使うのも久しぶりか」
俺は奈落での修行と、そして倒した魔物を思い出しながら使う。
「【火球】……100連!」
それは俺の目を奪った熊モンスターに使った魔法。
火球を100発打ち出すだけのものだ。
ただし……一発の威力がけた外れになっている今。
その状態で100発も出せばどうなるか……。
「ま、こうなるわな」
草原だった場所は、いつの間にか草一本生えない荒野に早変わりしていた。
敵? もちろん全滅よ。
「あとでメイの力で元に戻すか」
精霊姉妹の末っ子メイは、創樹という力を持っている。
植物を自在に生やしたり動かしたりできる力だ。
あれがあれば、この荒野も一発で元通りだろう。
「うむ、見事な殲滅っぷりだったぞ、アインよ。さすがじゃ」
ウルスラが転移してきて、感心したように言う。
「しかしおぬし、あやつらが言う通り、魔王みたいじゃったぞ」
「え、ええー……うそーん」
「ムーブが完全に悪役のそれじゃったぞ。見事なまでにな」
ウルスラは意地悪そうに笑うのだった。




