230.鑑定士、かつての敵達を迎え撃つ
翌日の、早朝。
俺は田舎町のはずれにある、草原に一人たたずんでいた。
「アインよ」
「ウルスラ」
銀髪の幼女賢者が、俺のとなりに転移してくる。
「緊張しておるのか?」
「んー……? いや、普通」
「まったく、かつてたおした強敵達が、復活して大軍で襲いかかってくるというのに。たいした自信じゃな」
先日、俺がたおした敵であるイオアナが、忠告に来た。
ゼウスをはじめとした、かつて魔王と世界樹を巡る戦いのなかで、俺が屠ってきた数々の敵達。
それがなぜか復活して、俺をたおしに来るそうだ。
目的は、俺への復讐。
そして俺の持っている、強大なエネルギーを秘めた【聖杯】のかけらを回収しにだ。
「自信っていうか、まあ、俺にはみんなからもらった力があるしさ。それに、守りたい人たちを背負っているからさ」
背後を振り返ると、田舎の町はまだ死んだように眠ってる。
否、騒ぎにならないよう、睡眠の魔法をかけた。賢者様直伝の魔法がここで生きるとはな。
「とんだスローライフになってしまったの」
「まったくだ。世界を救ったから、ユーリ達とのんびり暮らそうと思ったのによ」
それでも、嫌だとは思わない。
投げ出す気も無い。
弱い者を守るのは、力を持つ者の義務だと、俺は学んだ。
「やはりアイン、お前はさすがじゃな」
「ウルスラ、そろそろ来る。下がっていてくれ」
「なんと。鑑定してもいない、左目の義眼は封印しているというのに、わかるのか?」
「ああ、わかるさ。なんとなく、肌で感じるんだよ。敵の殺気がな」
俺の左目に収まっている神眼。
9つの精霊核を元に作られた、規格外の力を秘めている。
それゆえに、俺は使用を禁じ、封印することになった。
結果、弱体化はしたものの、凄まじい数の敵と死闘を繰り広げた経験は俺の中に蓄積されている。
「スキルを使わず経験則だけで敵の場所を鑑定するか。本当に、見事じゃぞアインよ」
「いい師に恵まれたからな」
「そ、そうか……その、ま、なんじゃ。その……えっと……ゆ、油断するじゃないぞ!」
ウルスラは耳の先まで真っ赤に染めて言う。
転移魔法を使って、その場から消えた。
「さて、やりますか」
敵から鑑定した数々の力は、封印されていて使えない。
なら、俺がウルスラから習得した魔法を、使おう。
「魔法って久々だな。どれくらいの威力になってるんだろうか?」
途中から、剣でだけ戦うようになったからな。
魔法を使うのは久しぶりである。
「えっと……じゃあまずは、軽く。【火球】」
その瞬間、俺の右手に炎の球が出現。
俺の魔力を吸ってぐんぐんと大きくなり、やがて巨大な炎の球に変わった。
「あ、あれ?」
凄まじい大きさの火の玉は、敵のいる場所へと向かってすっとんでいく。
爆音とともに、地面がめくり上がる。
衝撃波が、こちらに来ようとしていた敵達を葉っぱのように吹っ飛ばす。
「あ、あれぇ~……どうなってるの?」
『貴様は戦いを繰り返した結果、魔法力もかなり強化されておったのじゃ。初級の魔法でさえも、極大魔法をしのぐ威力を持つ。さすがじゃな』
「ま、まじかー……なんか、俺って、ヤバい強くになってる?」
『とうの昔にな』
ウルスラは、呆れたようにつぶやくのだった。
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