23.鑑定士、豪商に結婚を申し込まれる
魔獣使いを撃破した後。
お礼がしたいからと、俺は商人【ジャスパー】の屋敷へと、招かれた。
王都にある、1番立派でデカい屋敷。
そこの応接室に、俺たち(ユーリ・ウルスラは顕現してる)は通された。
部屋はデカい。
座ってるソファはフカフカで豪華だ。
「やぁ、少年。待たせてすまないね」
背の高い、20代の女性がジャスパー。
深紅の長い髪。
スーツ姿のナイスバディだ。
「勇者様~♡」
背が低め、10代中頃の少女がクラウディア。
桃色がかった美しいブロンド。
豪華なドレスに身を包んだ、こちらも肉付きの良い美少女だ。
クラウディアが俺の元へと、小走りでやってくる。
「だめ……ですっ!」
バッ、と俺の前に、ユーリが両手を広げて立つ。
「あら? あなたは?」
「わたし……は、ユーリ! アイン、さんの……お、およめさん!」
……何を言ってるんだこの子?
「わたくしはクラウディア。勇者様のお嫁さん2号になりたいと思ってますの!」
「あきらめ、ない……だと……!」
「あきらめる? どうしてですの? 一人の夫に複数の妻がいることなんて、今日日なにも珍しくありませんわ♡」
「がーん! 外の常識、に、しょっく……!」
この世界、重婚オッケーなことを、ユーリは知らないみたいだ。
「そろそろ本題に入りましょう」
王女は俺の正面に立つと、深々と頭を下げた。
「このたびはわたくしたちを守ってくださって、ありがとうございました」
「お礼を言うならユーリにしてくれ。あんたの部下を治療したのは、ユーリだから」
「ありがとうございます、ユーリさん♡」
照れたユーリは母の影に隠れるように、体を小さくして座った。
「後日正式にお礼させていただきますわ……さて、堅苦しいことはこれくらいにして……勇者様ー!」
クラウディアが子供のような無邪気な笑みを浮かべて、両手を広げて近づく。
ユーリが王女の前に立ち、両手を大きく広げていう。
「だめ、です! アイン、さん。さわっちゃ、めっ! アインさん、じゃなく。わたし、を、さわれー!」
「かしこまりましたわ~♡」
きゃあきゃあとはしゃぐ2人を、ウルスラが温かい目で見ていた。友達ができて良かったな。
「少年、ちょっと相談があるんだが、いいかな?」
今まで静観していた商人ジャスパーが、俺のとなりに腰掛ける。
「私の、夫になってくれないか」
「「ええーーーーーーーーー!?」」
クラウディアとユーリが、声をそろえて驚く。
「ど、どういうことですの、ジャスパー!?」
わあわあと少女たちが騒ぐ。
「では順を追って説明しよう。私は【銀鳳商会】という多少規模の大きい商業ギルドで頭目をやっている」
「銀鳳って……あんたの商品、どこにでも置いてあるぞ?」
「まあ多少儲かってはいる。だがしかし金なんて正直どうでも良いんだ。私は金に興味は無い」
「じゃあなんで商人なんてやってるんだ?」
ジャスパーは「ついてきたまえ」と言って手招きする。
俺たちは応接室を出る。
ジャスパーの案内の元、地下室へとつれてこられた。
「すごい、です……宝石、きらきら、いっぱい……」
地下室を埋め尽くすのは、様々な宝石だった。
金剛石、碧玉、紅玉などの宝石が、大量に、そして整然と飾られていた。
「私はこの美しい宝石たちを心から愛してる。この世にある宝石をすべてを保管し、世界の宝であるその輝きを、美しい姿を、永遠に残していきたいのだ」
「自分が宝石が欲しいっていうより、宝石を世界から失わせないために集めて保管してる感じか?」
「そのとおり。だが宝石収集には金がいる。だから金を稼ぐために商人をやっているのだ」
「なるほど……あんたが宝石に命をかけてるのはわかった。けど、俺との結婚に、どう関係が?」
「私は君のその目を見た瞬間、心から君にホレてしまったのだ♡」
熱っぽい視線を、ジャスパーが俺に向ける。
「君の左目は、【精霊核】。この世にかつて存在した、世界樹の力の源泉たる結晶だろう?」
うっとり、とした表情で、ジャスパーが俺に抱きついてくる。
「地上にあった世界樹は、魔王【ミクトラン】を封印する際にチカラを使い失われた」
「魔王……ミクトラン?」
「かつてこの世に存在し、世界を破滅に導こうとした最悪の存在だ」
魔王。そんなものがいたのか……。
「世界樹は魔王を封じた後……どうなったんだ?」
「精霊核を残して枯れてしまったのだ」
地上にあった1本は、そんな経緯があって失われたのか。
「残された精霊核もまたその後いろいろあって失われた。この世で持ってる人間はいない」
はふ、とジャスパーが悩ましげに吐息をつく。
「精霊核を必死に探し回ってたところに君が現れた。これは奇跡だ♡」
目に♡を浮かべて、ジャスパーが俺の前に跪く。
「実物を見て一気に心を奪われた。君は素敵だ。特に目が素敵だ。私を君の目の前にいさせてくれないか?」
実に真剣な表情で、ジャスパーが俺に求婚を申し込んでくる。
「いや、しかし……」
「……おい小僧」
くいっ、とウルスラが俺の服を引っ張る。
全員から離れたところで、俺はウルスラと会話する。
「貴様、申し出を断るつもりか?」
「まあな。無理だろ、あったばっかで結婚なんて」
「よく考えろ。あの女は精霊核を長年探し続けていたのだろう? なら世界樹に関する情報も、かなり持っているのではないか?」
確かに。
「情報収集には金とコネがいる。貴様とあの女が結婚すれば、女の持つ莫大なそれらは貴様の物だ。さすれば隠しダンジョンを見つける確率はぐんと高まる」
ウルスラの言う通りではある。
なんにせよ俺個人のチカラでは、隠しダンジョンは見つけられそうにない。
商会の力を借りるほかないだろう。
とは言えすぐに結婚なんてできない。
相手を利用するみたいな結婚は、不誠実だしな。
「……よし」
俺はジャスパーの元へ行く。
「おまえからの申し出なんだが、急に結婚とか言われても即答できない。もう少しおまえのそばで考える時間をくれないか?」
「全然オッケーだ!」
ジャスパーは笑顔になると、俺に抱きついてくる。
む、胸……結構デカい。
大人の女の、良い匂いがする。
「むー!」「ジャスパー! 抜け駆けはずるいですわー!」
少女たちが不満の声を上げる。
「少年。今日からウチで暮らさないか? 寝食を共にすることで親睦を深めようじゃないか」
「え? いいのか?」
「無論だ。君は私の未来の旦那様候補なのだからな♡」
うっとりとした表情で、ジャスパーが俺の顔をなでる。
「ジャスパー。ちょっと相談があるんだが、精霊核の他の情報とかって持ってるか?」
「あるぞ。大量にな。だが中には危険地域も多く、調査にいける実力者がいなくて、歯がゆい思いをしていた」
「その情報、俺に教えてくれないか。上手くいけば精霊核が他にも手に入るかもしれん」
「わかった! すぐ手配しよう!」




