229.アリスの憂鬱
鑑定士アインと、精霊ユーリが、屋敷の屋上で夜空を見上げる、一方その頃。
ユーリの姉アリスは、自分の部屋に籠もって、ベッドの上で三角座りをしていた。
「…………」
色素の薄い紫の髪に目、文学少女を彷彿とさせるワンピースに身を包んだ美少女。
アリスは目を閉じて、はぁ……とため息をつく。
「どーした~妹よ~ん」
「……クルシュ姉さん」
精霊姉妹の次女クルシュ。
長い藍色の髪の、セクシーな大人の女性だ。
邪眼持ちなため、目隠しをしている。
「……なんでもないわ」
「むっふーん、あいちゃんたちを盗み見たぁ~よくないぞぉ~」
アリスには千里眼というスキルがある。
遠くにあるものを見つめる魔眼で……ユーリ達を見ていたのだ。
「…………」
ぽすん、とクルシュは妹の隣に座り、頭をよしよしとなでる。
「どうした~浮かない顔してさ。お姉ちゃんが相談に乗るよ~」
「…………」
アリスは姉の胸に頭を乗せて、涙を流す。
「……羨ましいわ。ユーリが、とても」
彼女もまた、アインに思いを寄せる少女の一人。
だが、アリスはかなり多くのコンプレックスを抱えている。
薄い胸、無表情、明るいトーク……どれも自分の苦手なものばかり。
男に好かれるのは、妹のような、明るく、優しく、天真爛漫で……肉感的な女性なのだと、アリスは落ち込む。
「アリス……」
「……私、惨めよ姉さん。ユーリが気を遣って、色々やってくれるのに、……あの人に、振り向いてもらえるようなこと、何もできない」
己の心の中で渦巻いているのは、ユーリに対する嫉妬心だった。
良い雰囲気で、将来を語り合う二人を……アリスは実に羨ましそうに見ていた。
盗み見なんてよくないとわかっている。
けれど……嫌だった。
大好きな彼が、自分以外の女の子に引かれていくのが……。
たとえ、優しい妹だとしても……許せない。
「……そんな自分の狭量さが、余計に、惨めなの」
見た目でも中身でも妹に負け、努力するでもなく……2人の良い関係を妬ましく見やるしかできない。
そんな自分が……嫌で仕方ないのだ。
「ありちゃん……よしよし。泣くな泣くな~」
「姉さん……」
「それは人として正常な反応だよ。そんな自分を責めなさんな」
姉の優しさに触れて、アリスはまた涙を流す。
「アタシらは精霊だけどさ、人の心を持っている。人である以上他者と比べてしまう。しょうがないことさ。けど……他人と比べることほど、無意味なことはない」
「でも……だって……」
「アリスにはちゃんと、アリスにしかない魅力がある。あいちゃんも、ちゃんと気づいているさ。うちの妹の魅力に」
「でも……」
「とりあえず、さ。否定の言葉から入るの、やめなよ」
クルシュは真面目なトーンで、妹を諭す。
「否定の言葉は自分の自信を削っていく。よくない、実に」
「…………」
でも、と言いかけて、クルシュがアリスの唇を指でつまむ。
「大丈夫、あいちゃんと君は結ばれる。自信を持てよぉ我が妹よ」
ね? と背中を姉が叩いてくれる。
次女の体のぬくもりと言葉が、おれかけていた心を修復していく。
「……姉さん、ありがとう」
「うわはは、どういたしまして~。たまには姉っぽいことしてないとさ、みんなからお姉ちゃんだってこと忘れられっかも~って思ってよ~」
「……忘れないわ。わたしたちの、頼りになる姉さんだって、みんな知ってる」
「そりゃあ……光栄だね」
よしよし、とクルシュがアリスの頭を何度もなでる。
「……わたし、頑張る」
「おう、がんばれよ~」
そんなふうに、夜が更けていくのだった。
【※お知らせ】
新作の短編、書きました!
時間がある方はぜひ読んでみてくださいー!
※タイトル
「この幼馴染と結婚前提で同棲してる〜クラスで優等生な彼女が家ではポンコツだと俺だけが知ってる」
※URL
https://ncode.syosetu.com/n8971gr/
広告下にもリンク貼ってあります!




