222.鑑定士、森から帰還する
聖杯の回収のため、俺は極黒大陸に住まう青龍の元を訪れた。
青龍のいる遺跡を出て、森へと戻ってきた。
「さて、帰るか」
『アインさん、おつかれ! おかーさん、転移で、ばびゅーんって、かえりましょー!』
左目から精霊ユーリの声がする。
『そうしたいのは山々じゃが、ちと問題があってな』
「問題? なんだそりゃウルスラ」
『どうやら極黒大陸は特殊な結界で覆われているようじゃ』
「結界? どんな」
『転移魔法を阻害する結界じゃ。賢者であるわしですら突破できぬほどの強力なやつが……な』
俺が空を見上げると、木々の合間を縫って、オーロラのようなものが浮いていた。
「なるほど、あれか」
『うむ。破壊を試みたがわしの攻撃魔法でも突破できぬ代物。絶対に壊れぬ強度があるのじゃろうが……』
『問題ない! ですね、アインさん!』
ユーリがうれしそうに言う。
「おうよ。ちょっと待ってな」
俺は刀を取り出して、構える。
『無茶じゃ。この結界は広大な大陸を覆ってなおわしの攻撃を防ぐほどの強度を持っておる。なにか特殊な魔法やスキルが使われ強化されておるのやもしれない』
ウルスラは、斬撃が弾かれて俺がダメージを喰らうことを気にしてくれているようだ。
「心配してくれてありがとな」
『ま、まあ気にするのは当然じゃろ。おぬしはむ、娘のだ、大事なか、彼氏じゃからな』
『とかって~ウルスラママってば、お姉ちゃん関係なくおにーさんのこと大事なくせに~』
ピナが茶化すと、ウルスラは黙ってしまった。
「よし、やるか……【超鑑定】」
神眼を使った鑑定スキルを発動させる。
斬るべき場所をしっかり見定めてから、刀に魔力を注ぎ込む。
刀を振り上げて、斜めに切り下ろす。
ズバァアアアアアアアアアアアアン!
森の木々をなぎ倒し、上空に覆っていたオーロラを一刀両断する。
『な、なんと……! あの強固な結界を一刀のもとに斬り伏せるとは! さすがじゃアイン! 見事な腕じゃ!』
『いやー、ひさびさにおにーさんが鑑定スキル使ってるとこ見たよー。どんな弱点も見抜くスキルだとしても、この結界破るなんて、あいかわらずの化けものっぷりだねー』
世界樹の精霊9人と、いにしえの勇者ミクトランの力を集結させたこの神眼は、森羅万象を見切ることができる。
結界を斬ることなんて、造作も無い。
『アインよ。今の騒ぎを聞いて、森に住まう魔物達が暴れ出したようじゃな』
「みたいだな」
どどどど、と地鳴りがする。
どうやら俺の攻撃が派手すぎて、森に住んでいたヤツらを刺激してしまったらしい。
『魔神に匹敵するクラスのモンスター達がそのかず1000。どうする?』
「問題ないよ」
森の奥から、大量のモンスター達が出現する。
彼らはみな見上げるほどの巨体を持っていた。
『殺すのか?』
「まさか」
俺は彼らを、軽くにらむ。
ドサッ……! とモンスター達は、それだけで気絶してしまった。
『すごい、です! あんな強そうなモンスターさんたち、みんな気絶してます!』
『神眼解放時のアインは、闇に堕ちたミクトランすら凌駕するほどの強さを持っておる。こんな雑魚達は、にらまれただけでビビって倒れてしまうのじゃ。さすがはアインじゃ』
「つっても、この状態でいられるの、ここだけなんだよな」
俺は無限収納の魔法紋から、ウルスラに作ってもらった眼帯を取り出す。
これには封印の術式が込められている。
俺の神眼は、この通りハイスペック過ぎるから、こうして封印を施すことで、日常生活を送れるようにしているのだ。
「ユーリ、みんな、いつもありがとな」
精霊の少女達にお礼を言ってから、眼帯をはめる。
体に満ちあふれていた力が、制限される。
『制限してもめっちゃ強いから、ほーんとおにーさん化け物だよね~』
『ピナちゃん、めっ、です! アインさん、やさしーけど、あんまり化け物連呼しちゃ、かわいそーです!』
『わかってるって~。おねえちゃんの大事な彼氏はいじめないってば~』
『ひゃあっ♡ か、彼氏だなんてぇ~♡』
さて、と。
聖杯の欠片も回収したし、転移を阻む結界も斬ったことだし。
「帰るか、うちに」
『『『おー!』』』
こうして、俺は極黒大陸を去ったのだった。
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