22.鑑定士、王女と豪商を助ける
王都近くの森の中にて、馬車がモンスターに襲われているようだった。
ユーリに助けてあげてくれと頼まれ、俺は現場へと急行する。
『どうやら【魔獣使い】がいるようじゃな』
契約した魔物を自在に操るという、上級普遍職の1つだ。
『敵は魔獣使い1人に犬人が20。あと飛竜をなぜか上空で待機させているな。どれも貴様なら楽勝じゃろう』
『犬人(D)』
『→2足歩行の犬型モンスター。厚い毛皮を持ち寒冷地に生息する』
『飛竜(B)』
『→竜種の中では最弱。しかし【飛翔】能力は全ドラゴンの中で最速』
「先に飛竜を殺しとくか」
『飛竜はここから見えぬくらい遥か上空で待機しておる。雷魔法で打ち落とせ』
俺は超加速で走りながら、上空に手をかざす。
「【落雷剣】!」
ウルスラから習った魔法の一つ。
上空から巨大な雷の剣を出現させる。
剣は凄まじい速さですっとんでいき、飛竜の腹を串刺しにする。
バリバリバリバリバリバリバリ!!!
激しい電流が流れ、飛竜は黒焦げになる。
『殺したぞ。ほっとけば死体がおちてくるのじゃ』
「あとは犬人だな」
そうやって会話していると、森の中へと到着。
馬車を犬人たちが囲っている。
その周りには護衛らしきやつらが倒れていた。
真っ白な馬車だ。
金の装飾がしてある。
金持ちっぽいな。
『護衛は瀕死。馬車にのっていた2人は連れて行かれそうになっておるみたいじゃな』
犬人2匹が、女2名を担ぎ上げていた。
「じゃあまずはそいつらから」
俺は雷狼から鑑定した【招雷弾】を発動。
右手から雷の球が、文字通り雷のごとく速度で射出。
「ギャッ……!」「ギャウッ!」
犬人だけに正確にぶち当たる。
麻痺した犬人たちは、かついでいた女たちを落とした。
「アォオン!」「アオォオオン!」「アオオオ!」
犬人たちは敵に気付いたようだ。
俺は収納の魔法紋から、精霊の剣を取り出す。
【斬鉄】をいちおう発動させる。
『なぜ魔法で広範囲攻撃せぬ?』
「いや一般人巻き込みたくないし、剣でやるよ」
犬人1が俺に斬りかかってくる。
「【超鑑定】」
『犬人の攻撃の軌道』
動きの鑑定をすることで、動体視力が超強化。
犬人たちの動きが、スローモーションになる。
が……。
「え……? なんだこれ止まってる……?」
Sランクたちに使ったときは、動きがゆっくりになった。
しかしDランクの犬人たちは、完全にその場に止まっていた。
『相手が弱すぎて動きが止まって見えるのじゃろ』
……なんて容易いんだ。
俺は犬人1の胴体に剣を軽く振る。
斬撃攻撃の威力を上げる【斬鉄】を使っているため、水に濡らした紙よりも簡単に斬れた。
その後は、立ち止まっている犬人に近づいて、剣を適当に振るだけの完全な作業だった。
犬人残り全部を、余裕で切り伏せた。
「な、なんだ貴様ぁああああああ!?」
犬人を殺し終えると、魔物たちの主人たる、魔物使いが叫ぶ。
フードをかぶった、人相の悪い男だ。
「通りすがりの鑑定士だ。敵はこのとおり全部殺した。大人しく投降すれば命はとらん」
『なぜ殺さぬ?』
「俺はユーリに、人助けだけを頼まれてるだけだからな」
脅威を排除すれば良いんだから、戦意のない敵を無意味に殺す必要は無い。
「はあ!? か。鑑定士ぃ~? 嘘つくんじゃねえ! あのゴミ職がこんな強いわけねぇだろ!!!」
「嘘は言ってない。で、どうする? 投降するか?」
「はっ! ふざけんな! おれにはなぁ、まだ奥の手があるんだよぉ!」
勝ち誇った顔の魔獣使い。自信ありそう。
「飛竜以外にもまだ何か飼ってるのか?」
「聞いて驚け! おれはワイバー………………へ!?」
魔獣使いが大きく目を見開く。
「な、なんでてめえ! 飛竜がいることを知ってやがる!?」
「……なんだ。奥の手ってそれかよ。そんなのとっくに俺が倒したぞ」
「ば、バカいうんじゃねえ!? Bランクの竜種だぞ!? 実力のある冒険者だって倒すのに苦労するんだぞーーーーー!!!!」
と、そのときだった。
ひゅぅう~~~~~………………。
どしーーーーーーーーーーーーん!
上空から、さっき倒した飛竜が、俺の目の前に落ちてきたのだ。
「………………うそ、だろ? し、死んで…………る?」
飛竜は丸焦げになっていた。
白目をむいて、だらりと舌を出している。
「で? どうする? 奥の手まだあるのか?」
「………………いや、ないっす! 大人しく投降します! 命だけは助けてくださいぃいいいい!」
魔獣使いがその場で土下座する。
無益な殺生しなくて良かったわ。
俺は飛竜と犬人から能力を鑑定しておく。
『飛竜から【飛翔】。羽がなくとも飛べるようになるそうじゃ。犬からは【耐性・氷属性】じゃと』
「さて……と。敵も鎮圧したし、負傷者の安否確認と手当だな」
『そっちは、お、任せ!』
ぱぁ……と俺の目が光ると、ユーリとウルスラが出てくる。
彼女たちが負傷者の治療を行う。
「じゃあ俺は生きてる二人に話聞くか」
俺は馬車のそばへと向かい。
そのそばで、女が二人、へたり込んでいる。
一人は、なんかすごい豪華なドレスを着た少女。
もう一人は、スーツを着た、グラマラスな女性だ。
「大丈夫か?」
「は、はいですわ!」
少女は立ち上がると、何度もうなずく。
「危ないところを助けていただき、ありがとうございますわ! 勇者様っ♡」
「ゆ、勇者ぁ~……?」
「ハイっ! わたくしの危機にさっそうと駆けつけ、救ってくれたかっこいい……勇者様……♡ 素敵!」
少女は目を♡にして、俺に抱きつく。
こ、こいつ……結構胸ある。
「勇者様っ! やっとみつけた! わたくしの勇者様っ!」
次に、女性の方が、俺に近づいてくる。
20代前半から中盤くらいだろうか。
背が高く、メガネをかけている。
化粧とスーツとがあいまって、大人なイメージだ。
「あ、あんたこの子の母親か……? こいつなんとかしてくれ」
「いや少年、それはできない相談だ」
女性は首を振る。
「私はこの御方の母ではない。それにこのかれんな少女はこの国の【第三王女】。私ごときが命令を下して良い立場の人間ではない」
「お、王女だぁ!?」
少女は俺に抱きついたまま、笑顔でうなずく。
「わたくしは【クラウディア】。国王の娘ですわ♡」
「私はしがない商人。名を【ジャスパー】という。まあ王家と多少太いパイプがあるというだけの、多少大きな商会の社長をやっているものだ」




