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【WEB版】不遇職【鑑定士】が実は最強だった〜奈落で鍛えた最強の【神眼】で無双する〜【アニメ放送中!】  作者: 茨木野
後日談

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218/245

218.鑑定士、王都で準備を整える



 聖杯回収の旅を決めてから、数日後。


 王都にて。


 俺は久しぶりに王城を訪れていた。

 応接室にて。


「おお! アイン君! 久しぶりではないか!」


 国王ジョルノが、ドタバタと駆け足で、俺の元へやってきた。


「よくぞ参られた、【救世の勇者】よ! 心から歓迎するぞ!」


「お、お久しぶりです国王陛下……」


 ガシッ! と国王が俺の腕を掴んで、ぶんぶんと腕を振る。


「あとその、救世の勇者ってやつやめてくださいって……恥ずかしいので……」


「なにを恥ずかしがる必要がある! 世界を、我々の平和を救ったのだ! ふさわしい2つの名だと自負しておるよ!」


 真剣な顔で言うんだもんなぁ……。

 

 ややあって。


「アイン君、王都にはどれくらい滞在するのかね?」


 正面に座った国王が尋ねる。


「用事が済んだらすぐに出立します」


「ふむ? また何か厄介ごとを抱え込んでいるのかね?」


 俺は軽く、今おきていることを説明する。

「おおっ! なんということだ!」


 国王は涙を流しながら、ぐすぐすと目元を拭っている。


 ま、マジかどうしたんだ……?


「君はまたも、人知れず世界を救うというのか……誰に頼まれたわけでもなく……うう……立派だ! さすがはアイン君だ!」


「そんなたいそうなことじゃないです。ミクトランは俺の恩人ですし、彼の忘れ形見を回収するのは、後継の勇者である俺の役割みたいなものなので」


「誠見事な心意気、天晴れだ!」


 国王はパンパンッ! と手を鳴らす。


 メイドが入ってきて、国王に何か分厚い紙の束を手渡してきた。


「なんですか、これは?」

「【アイン・レーシック英雄伝】の執筆原稿だ」


「はぁ!? え、英雄伝……ですか?」


 真面目な顔で国王がうなずく。


「言ったであろう? 救世の勇者の活躍を、後世に残すと」


「いや……え、あれ冗談じゃなかったんですか?」


「冗談なものか! 私は君の活躍をすべて事細かに世に残そうと執筆に勤しんでいるところだよ! もってきたまえ!」


 メイドさんが、ガラガラと台車を押してやってくる。


 原稿の束が山盛りになって、運び込まれた。


「こ、これ……全部原稿……ですか?」

「その通り。君の活躍はすべて書いている」


 誇らしげに国王が言う。

 マジかよ……すげえ情熱だな。


「光栄です。ですが……公務でお忙しいのでは?」


「心配は無用だ。空いてる時間を利用して書いている」


「そ、そうですか……」


「完成したらジャスパーと連携し、国民の教科書として配布しようと考えているところだ」


 真面目な顔でトンデモナイことをおっしゃる国王陛下。


「迷惑だったかね?」

「い、いや……俺のために、ありがとうございます」


 気恥ずかしさはあるが別に嫌じゃない。

 そもそも他人が好きでやっていることに口を出す権利など誰にもないのだ。


「今回の旅も、また過酷なものになるのだろう?」


「ええ、まあ……そうなるかと」


「だが私は安心して送り出せるよ。君は数多の困難を乗り越えてきた。大丈夫、君は不可能を乗り越える力がある」


 俺は遅まきながら、気づいた。

 どうやら、未知の大陸へいくことに対して、どこかで不安を覚えていたらしい。


 国王はそれを見抜いていたのだ。

 だから、俺を元気づけるために、わざとひょうきんに振る舞って見せたのだろう。


「気を遣ってくださり、ありがとうございます」


「よい、気にするな。まあ半分くらい英雄伝を作ってるという自慢がしたかったのが本音だからな」


 それでも、元気づけてくれた国王に、俺は感謝する。


「気をつけて、行って参ります」

「うむ、無事を祈っているよ」


 その後騎士団に挨拶したり、クラウディアとお茶したりして、俺は王城を後にしたのだった。



    ☆



 ジャスパーの屋敷にて。


「アインさん、モテモテ、です!」


 私室にて一息ついていると、ユーリがニコニコしながら言う。


「ありがたいことにな」

「英雄伝、読みたいです! ろーどく、します!」

「それはマジでやめてくれ……」


 ジッ……とユーリが俺を見やる。


「ん? どうした?」

「ひさしぶり、に……ふたりきり、です」


「そう……だな」


 彼女と恋仲になって数ヶ月。

 思えばふたりきりでまったりしたことはなかった。


 すすす、とユーリが近づいてくる。

 ソファーに座る俺の腕に、きゅっ、と抱きついてくる。


「アインさん……んー♡」


 サクランボのような小さな唇を、俺に向けてくる。


 俺は周りに誰も居ないことを確かめてから、抱き合って、口づけをかわす。


 すぐ近くに、彼女の柔らかいからだ。

 ふわりと髪の毛から香る、甘い匂い。


 みずみずしい唇の感触に、俺はそのまま押し倒したくなる……気持ちを、グッと抑える。


「むぅー……」


 ユーリが不満げに、頬を膨らませる。


「もう一歩! もう一歩!」


 手をたたいてユーリが催促する。


「い、いや……さすがにそれは……」

「わたし、アインさん、大好きですっ。アインさんも、わたし、好き……です?」


「そりゃもちろん。誰よりも好きだよ」

「なら……もーいっぽ!」


 ふんすっ、とユーリが興奮気味に言う。


「おまえ……またピナとクルシュに何か吹き込まれたな」


 こくこく、とユーリがうなずく。


「姉さまたち、言ってました。恋人、ベッドで、たくさん愛し合うってっ」


 あのお調子者ふたりにはあとでよく言って聞かせないと駄目っぽいな……。


「未だに、一緒に寝てません。いかんとも、しがたいです!」


「そ、そうか……その、すまん。別におまえが嫌いだからとかそういうんじゃ決してないんだ。ただ……」


 決心がつかないというか、なんと言えばいいんだろうか。


 ユーリは、真っ白な処女雪のようなひとだ。

 

 俺みたいな人間が、この手で俺の色に染め上げるのは……いいのだろうか、と。


 どうしてもためらってしまうのである。


「へたれ?」

「うっ……なにも言い返せない。けど誤解しないでな」


 ユーリはニコニコ笑うと、こくりとうなずく。


「わかってます。アインさん、わたし、大切にしてくれてるってこと」

 

 ホッとした俺は、彼女に軽く唇を重ねる。

「もーいっぽ! もーいっぽ!」

「いや……ええっと……」


 そのときだった。


「……ちょっとお姉ちゃんっ。おさないでよっ」

「……ピナちゃん見えないよ~どいてどいて~?」


 ……俺はため息をついて、立ち上がる。

 部屋のドアを上げる。


 ずしゃあっ! と大量の美少女達が、なだれ込んできた。


「なにしてるんだおまえら?」


 そこにいたのは、ピナにクルシュ。

 そこまでは予想内。


 しかしアリスとウルスラまでもいた。


「いやほら、お姉ちゃんの初めては、家族として見ておかないとだめかなーって☆」


「妹が大人になる瞬間は、家族として把握しておかないと~って~」


「わ、わしは母親として、娘が大人になる瞬間を記録に残すという義務がじゃな……」


「…………ごめんなさい」


 はぁ、と俺はため息をつく。


「もうっ! みんな……はずかしーです!」

 

 顔を真っ赤にして、ユーリがぐいぐいとみんなを押す。


「お兄さんちゃんとゴム持ってる? アタシの貸してあげよっか?」


「なっ、なんだよゴムって! しらねえよ!」


「とかいって~顔赤いよぅ~? 知ってるんじゃあないの~?」


「知らん!」


 きゃあきゃあ、と騒いでいたそのときだ。

「おや、随分と楽しそうだね君たち」


 ジャスパーが笑顔で、入ってきた。


「ちょ、ちょうど良いところに」


「ふむ? そうだアイン君。頼まれていたものを、用意してきたよ」


 ジャスパーの手には、資料、そして、ひとふりの【刀】があった。


「こっちは、聖杯の置き場所、【極黒大陸】についての詳しい資料をまとめたもの。そして……こっちの刀は、君に頼まれていたものだ」


 俺は受け取る。

 一見すると、ただの木刀に見える。


「わたしの、木刀?」

「ああ。改良して貰ったんだ」


 俺は柄を掴んで、引き抜く。

 シャランッ……! と綺麗な音を立てて、刀身がのぞく。


「ほぅ……刀に打ち直して貰ったのじゃな」


「ああ。これから行く場所は危険が多いからな。武器を新調しておこうって思って」


 生半可な武器では壊れてしまう。

 そこで、俺はこの世界樹ユーリの、上等な枝から作られた木刀を、刀に変えて貰ったのだ。


「知り合いである最高の刀匠に打って貰った。名付けて【世界樹の刀】」


 うっすらと翡翠色に輝いている。


 これなら世界樹の魔力と親和性が高そうだ。


 手にもなじむ。

 さすがに聖剣ほどではないが、俺の攻撃に十分耐えうる一品だ。


「ありがとう、ジャスパー。いつも助かるよ」


「なに、それ以上にきみはいつも助けられている。気にしないでくれ」


 俺は世界樹の刀と、資料を収納する。


「極黒大陸までの船の手はずは整っている。いつでも出航は可能だ」


「わかった。本当にありがとう」


 俺は精霊達をみていう。


「数日以内に出立する。みんな……また力を貸してほしい」


 精霊少女達は、朗らかに笑うと、こくりとうなずく。


「「「オッケー!」」」

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