217.鑑定士、再び王都を訪れる
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しっかりと休養を取った後。
俺は、聖杯の回収のために、動き出すことにした。
まずは情報収集。
大商人ジャスパーの居る、王都へと一時帰ってきた。
「随分と久しぶりな気がするな、王都も」
人混みの中を、俺は縫うようにして歩く。
休暇を取るといって出て行ってから、そんなに時間が経っていないはずなのに、懐かしさがこみ上げる。
『みなさん、アインさん、気づきません、ね』
目の中からユーリの声がする。
『今のアインは姿形が、救世の勇者アイン・レーシックとはかけ離れておるからな。気づかぬのじゃろう』
今の俺は左目に眼帯。
金髪。さらにウルスラによる認識阻害の魔法をかけて貰っている。
そのため、街を普通に出歩けるのだ。
俺は通い慣れたジャスパーの屋敷を訪れる。
使用人に案内され、俺はジャスパーの部屋を訪れる。
「やぁ少年、会いたかったよ」
燃えるような赤髪をしたこの人が、商人ジャスパー。
世界樹捜索の際に、かなり世話になった人物だ。
「勇者様ぁ~♡」
純白のドレスに、ティアラを乗せた、美少女がいた。
彼女はクラウディア。
この国の王女様だ。
「く、クラウディア? なんでここにいるんだ?」
「帰って来るという情報をジャスパーから聞きましたの! ああ、わたくしの愛しい人……♡」
クラウディアは笑顔で、俺の体に抱きつこうとする。
「がーどっ!」
左目から、ユーリが出てくる。
クラウディアの前に立ち塞がる。
「ユーリさん! おひさしぶりですわ~♡」
「うん、おひさしぶり、ですわっ」
きゃっきゃっ、とふたりがはしゃぐ。
友達同士なのである。
「おふたりは恋人同士、仲良くしていますのですの?」
「それは、もうっ! 毎日いちゃいちゃ……です!」
「きゃー♡ うらやましいですわぁ♡ わたくしも第二夫人として早く嫁ぎたいですわ!」
「ふふ……待っている、よ。クラウディア、くん」
仲の良い2人。
邪魔しちゃいけないと思って、俺はジャスパーと部屋の隅のソファに座る。
「なぜ俺の隣に座るんだよ……?」
「まあまあ。私と君の仲ではないか♡」
笑顔で俺の体に、しなだれかかってくる。
南国のフルーツみたいな甘酸っぱい匂いがして、くらりとする。
い、いかん!
俺にはユーリがいるんだ!
「そ、それでジャスパー。頼んでいた、聖杯の件についてなんだけど、何か情報入ってるか」
聖杯。
いにしえの勇者ミクトランの、強大なパワーが収められた力の器のこと。
それは4分割され、四神のおわす場所に保管されている。
「アイン君に手がかりを貰い、それっぽいところはいくつかピックアップしたよ」
ジャスパーがパチンと指を鳴らす。
たくさんの使用人が入ってきて、俺の前に書類の山を置いていく。
「いくつかってレベルじゃないだろ……」
「これでも精査したのだ。あとは君がいるから大丈夫だと思ってね」
俺はうなずく。
「アリス。力貸してくれ」
『……わかったわ、アイン君』
アリスの能力、【千里眼】。
文字通り、千里先にあるものすべてを、見通すほどの高性能な目を持つ。
千里眼が書類の山をスキャンする。
範囲内にある膨大な量の書類を瞬時に目を通す。
俺は不要な書類と必要なものを仕分ける。
最終的に……3枚のファイルが残った。
「終わったぞ」
「あの膨大な資料を全て読み切り、いるものだけをピックアップしたのか。さすがだな、アイン君」
「いいや、俺だけの力じゃないさ。サンキューな、アリス」
『……どういたしまして、アイン君』
アリスが少し弾んだ声音で言う。
感情の起伏の薄い彼女だが、最近は感情豊かになってきてる気がする。
「しかし見事に恐ろしい場所が残ったね。【極黒大陸】【煉獄の迷宮】それに……【冥界】か」
「そんなにマズいところなのか?」
「どこも前人未踏の危険領域に指定されているよ」
まず、巨大な島の写真の貼ってあるファイルを手に取る。
「【極黒大陸】は、この世界の北端にある巨大な大陸だ。入ったものは二度と出てこない」
次に、火山の写真の貼ってあるファイルを。
「【煉獄の迷宮】。最高難易度SSSランクのダンジョンだ。火山地帯にあるため入るのも一苦労する。最下層はこの星の中心部だとウワサされている」
最後に……とジャスパーが言う。
「【冥界】。これが最も恐ろしい場所だ」
「どんなところなんだ?」
「一言で言えば、極悪人の魂が収監されている、冥府の牢獄……かな」
「牢獄……」
資料をパラパラとめくる。
宗教関連の書物だった。
この世界での原理原則は輪廻転生。
死後の魂は天界へ送られて、記憶消去をなされたあと、地上へ再び降ろされ受肉する、とされている。
「天界が転生させてはいけないと判断された魂達だけが、冥界に送られるという」
「ヤバいヤツらの巣窟ってことか」
「無論、宗教書にあるような場所が、実際にあるかどうか定かではないけれどね」
確かに広く一般的に、輪廻転生や天界なんてものは、誰かが作った宗教上の空想産物だと思われても仕方ない。
だが、俺は知っている。
天界も、神も、実在した。
ならば冥界もあっても不思議ではない。
「とは言え、冥界がどこにあるかなんて、どこにも書いちゃいないわけだが、それでも探すのかい?」
「もちろん。資料ありがとな、助かったよ」
「なに、君には命を救って貰った恩があるからね」
もう大分前だが、クラウディアとジャスパーの乗っている馬車がモンスターに襲われていたことがあった。
俺は彼らを助けたことがあるのだ。
律儀なヤツだと、俺はジャスパーに好感を抱く。
「その三カ所について、さらに調査を行っておくよ。しばらく王都に滞在するんだろう?」
「そうだな。国王にも挨拶しないとだし、レーシック領にも行ってこないと」
「ゆっくりしていくが良い。その間に調査をさらなる情報の精査を行っておくよ」
かくして、俺は聖杯の居場所についての、手がかりを掴んだのだった。
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