214.鑑定士、弱体化しても神を斬る
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ミクトランの忘れ形見を回収するため、俺は隠しダンジョンへとやってきた。
ボス部屋にて。
「ボス戦か……なんか、懐かしさを感じるな」
奈落に落ちた俺は、ユーリ達と出会った。
ウルスラに修行を付けてもらい、強くなって、ダンジョンを抜けるべく、ボスと戦ったっけな。
『なつかしーです。アインさんとの思いで……』
「ほんと、怪我した俺を助けてくれてありがとな、ユーリ」
『アインさん……えへへっ。だいすき、です!』
あの日の彼女が、俺に救いの手を差し伸べてくれたから、今ここにいる。
「よし、いこう」
ボス部屋の中央まで歩いてく。
すると、上空から、結晶でできた鎧が落ちてきた。
『どうやら精霊のようじゃ。ただ、精霊の上位種、精霊神』
「強さはどの程度だ?」
『オリュンポス神程度じゃな』
「そうか。なら、問題ないな」
神が相手であろうと、俺の心が乱れることはない。
能力が制限されていても、俺の中にはいつだって、力を貸してくれる彼女たちがいるからな。
「GYGAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
精霊騎士は叫ぶと、走ってくる。
手に持った槍で俺の心臓をついてきた。
俺は木刀を手に構える。
相手が槍で突いてくる。
剣の腹で、それを受け流す。
そのままカウンターで騎士の胴体に一撃を入れる。
スカッ……。
「木刀がすり抜けたな」
『相手は神と同格じゃから、通常攻撃は当たらぬよ』
「人間の攻撃は、神には当たらない。けれど神の攻撃は人間に当たる……か。久々だな」
精霊騎士は俺めがけて、連続で突きを放つ。
1秒の間に、1000発の刺突。
だが俺はそのすべてを見切り、かわす。
『見事な回避じゃ。さすがはアインよ』
「防戦一方じゃ分が悪いな。……あれをやるか」
バックステップで距離を取る。
「ユーリ、アリス。力貸してくれ」
俺の両隣に、精霊少女達が出現する。
「わかり、ました! 合体ですね!」
「……ええ、もちろん」
ふたりが光の球に変わり、俺の体に入る。
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオ!
莫大な魔力が、体からあふれ出す。
髪の毛は金色に変わり、長く伸びる。
着ている服は純白となる。
『これぞ、最終奥義【霊装】。人と精霊が完全に一体化することで、神となる奥義よ。うむ、やはりさすがはアインじゃ。能力を制限されていても、使いこなせるとは』
霊装は何度も展開した。
神眼がなくとも、魂を合わせる方法は身に染みついている。
「いくぞ」
俺は木刀に聖なる魔力を纏わす。
光の剣となったそれを持って、俺は精霊騎士に特攻。
すでに人間の動きではない。
音を置き去りにした超高速に、精霊騎士は反応できていなかった。
光の剣を、斜めに振り下ろす。
ズバンッ……!
「GI……GAAA……」
運良くよろけて、致命傷を避けたか。
だが俺は負ける気がしない。
「GYGAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
人知を超えたスピードで突きを繰り出してくる。
1秒間に1000回の突き。
だが……。
パシッ……!
「GYGA!?」
「別に増えたわけじゃないだろ?」
掴んだ槍先を、俺は素手で砕く。
ぱりぃいいいいいいいいん!
武器を失った精霊騎士は、素手で殴りかかってくる。
「どうやって?」
「GY……!」
ばらっ……! と鎧に包まれた右腕が、バラバラに落ちる。
『目にもとまらぬ剣速よ! やはりアインの強さは健在じゃな! うむ! さすがじゃぁ!』
『……ユーリ。ウルスラさんはなぜ興奮してるのかしら?』
『きっと、うっぷん、たまってるんです……よ?』
精霊騎士が俺から距離を取り、ぶるぶると震えている。
「やめるか?」
「GY、GYGAAAAAAAAAAAA!!!!!」
体から莫大な量の魔力が噴出する。
失った右腕の部分に収束する。
それは魔力でできた、巨大な槍となった。
「力勝負か? かかってこい」
俺は腰を落とし、光の剣を構える。
「GYGAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
全身全霊を込めた、超高速の一撃を、騎士が放ってくる。
固い結晶の地面をえぐりながら、空間すらも歪めながら、らせんに回転する槍が肉薄する。
俺は避けない。
避けずとも、勝てるとわかっているから。
振り上げた光の剣を、縦に振り下ろした。
ズバアァアアアアアアアアアン!
光の奔流は相手の槍を、そして相手まるごと飲み込む。
結晶の地面を真っ二つに引き裂きながら、破壊の光は一直線に進んでいく。
やがて光は収まると、後には何も残らなかった。
俺は霊装を解く。
ユーリにアリス、そしてウルスラが俺の前に顕現する。
「うむ、見事な一撃じゃったぞアイン。さすがはわしの一番弟子じゃな!」
うんうん、と眼鏡っこ賢者様がうなずく。
「おかーさん、うれし、そー」
「ま、まぁ……弟子の成長を喜ばぬ師匠もおらぬじゃろう?」
「ふふっ、おかーさん、素直になれば、いいのに???」
「ななっ、なーんのことじゃぁ! わしは娘の婿を取るような不義理は働かぬぞぉ!」
とまぁ、なごやかな雰囲気に包まれていた、そのときだ。
『見事なり、小さきものよ』
ボス部屋の上空から、何かが降りてきた。
それは……幼女だった。
「え……?」
「その幼さでこれほどの強さ。精霊を身に宿す技術。驚嘆に値する」
「は、はぁ……」
5歳程度の女の子だ。
そんな幼い子に、その幼さで~とか言われても、困惑しかしない。
幼女はつやのある黒髪をしていた。
そして、緑がかった黒い着物を着ている。
「あれ? どこかで、見たことがあるような……」
「お母様!?」
右目が光り、第2の幼女賢者・玄武の娘【黒姫】が出てきた。
10歳くらいの見た目、おかっぱ頭のこの子は、ピナを作った賢者である。
「黒姫よ。息災か?」
「ええ、お母様も」
「お母様って……ええ!? こ、この人……まさか、【玄武】本人なのか?」
「然り。見た目でわかるだろうが?」
いや、5歳の幼子にしか見えないんだが……。
「お母様、どうしてここに?」
「頼まれてな。【聖杯】の欠片を守護していた」
「せーはい?」
玄武はうなずくと、両手を前に突き出す。
黄金でできた杯が、空中に浮かぶ。
「きれー、です……」
「……けれどこれ、割れてるわ」
アリスの指摘通り、聖杯はところどころ欠けていた。
「この器の中に、ミクトランの本来の力が封印されている。悪用されぬよう、我ら四神が分割し守護していた」
「なるほど……じゃあこれは、欠片のうち、1/4ってことか?」
「然り。残りは四神たちが持っている。これはお前が持っておけ」
玄武は俺に、聖杯の欠片を手渡す。
「俺が持ってて良いのか?」
「下手人に聖杯の居場所が割れてしまった以上、一カ所に置いておくよりはお前に渡した方が安全と判断した。大切に保管しろ」
それだけ言うと、玄武は消えてしまった。
「お、お母様っ。あなたはどうしてこれを守っていたのですか!? それに、聖杯とは!?」
『己で答えを導け。息災でな、娘よ』
それだけ言うと、ボス部屋がグニャリ……と歪んだ。
「空間が消滅するぞ! みな、一カ所に集まるのじゃ! 黒姫様! 力をお貸しください!」
「…………」
「お早く!」
ウルスラに活を入れられ、黒姫は立ち直る。
ふたりの賢者が結界を張る。
俺たちはそこに入る。
空間のゆがみが激しくなる。
一瞬だけ、意識がブラックアウトする。
……だが、次の瞬間。
「……戻ってきた、のかしら?」
俺たちは元の、ミクトランの屋敷にある書庫へと戻っていた。
「うう~……おかーさん、目が、回るぅ……」
「ああユーリ! わしの膝枕で眠るが良い」
よしよしとウルスラが娘をなでる。
一方で俺は、浮かない顔をする黒髪賢者に近づく。
「黒姫。ちょっと後で話がある」
「ええ、そうね。……色々と、話さないとね。聖杯に、四神のことを……」
どうやら問題は、予想以上に規模の大きな話になっているようだった。




