212.鑑定士、ユーリと屋敷を調べて回る
魔族の残党達が、ミクトランの忘れ形見を狙っていることが判明した。
翌朝。
俺は金髪美少女ユーリとともに、屋敷の中を歩いていた。
「アインさん、ふたりきり……ひさしぶり、ですっ」
二人で手をつないで歩いている。
ユーリはふにゃふにゃ、と幸せそうな笑みを浮かべた。
「引っ越しで結構ゴタゴタしてたからな。ごめんなユーリ」
「いいえ、いいの、ですっ。アインさん、人気者。ご多忙……わたし、理解してますっ。恋人、ですからっ」
ふふん、とユーリが胸を張る。
「えへへ~♡ 恋人~♡」
奈落で彼女とで会い、交流を重ね、魔王の脅威を退けた後、俺たちは結ばれた。
とは言っても手をつなぐ、キスくらいしかしていない。
恋人になったので、もっと深いことをしても良いのかと最近悩んでいるところ。
「アインさん?」
「あ、いやすまん」
「むー、悩み事、きんしー!」
ユーリが俺の眉間をぐりぐりと触る。
「アイン、さん。抱え込むとき、眉間がきゅーってなります。わかりやすい、です」
「え、マジ?」
うんうん、とユーリがうなずく。
「打ち明けて?」
「いやー……ええっと……」
ちらり、と俺はユーリの豊かな乳房を見てしまう。
俺も男なので、どうしても目が行ってしまう。
大きくて柔らかそうで……い、いかん。
「たいした悩みじゃないよ」
「たいしたことじゃ、ないなら……言って?」
まさか触らせてーみたいなことは言えない。
彼女のお母さんに申し訳が立たないしな。
「もっとユーリと……その、な、仲良くしたいなって」
「♡」
ユーリは俺の腕を、むぎゅーっと抱きしめる
「わたしも……です♡」
彼女が肩に、頭を乗っけてくる。
ふわりと香る甘い匂いに、俺はクラクラしかけた。
腕に当たる柔らかな感触……ええい、雑念を払うんだ。
「ところで、アインさん。なにしてる……の?」
「まあ、散歩がてら、ミクトランの残したものを探しにな」
割と広い屋敷の中を、俺はユーリとともに見て回る。
「忘れ形見……どんな形でしょー?」
「さあな。そミクトランの【職業】がどういった形で保存されてるのか、皆目見当がつかん」
俺たちは倉庫へとやってきた。
年代物のワインが何本も置いてある。
「クルシュねえさま、すきそーです」
「少し持ってくか」
メイドのロキシーから、屋敷の物はすべて自由に使って良いと許可を貰っている。
俺は無限収納の魔法紋のなかに、ワインをいくつかいれた。
「ワインさん、職業……入ってますか?」
ユーリがボトルを持って振る。
「うーん……鑑定して見たけど、この辺には特に変わった物はないよ」
ユーリが目を丸くする。
「いつの間に……? それに、こんなたくさん、ワインあるのに?」
「神眼が封じられてても、通常の鑑定能力は持っているんだよ。それに……魔王倒すまでに鑑定しまくったからな。全体鑑定はできるんだよ」
「すごい……です! さすがアインじゃ、です!」
ニコニコ~とユーリが言う。
「お前に言われると、なんか新鮮だな」
「えへへ~♡ おかーさんの、まねっこ~♡」
ワインセラーを出たあとも、俺たちは屋敷を回り、鑑定して調べ続ける。
「あ、おねえちゃんだ。やっほー」
「ピナ、ちゃん」
精霊の妹たち、ピナ、マオ、メイが、部屋の中でトランプをしていた。
「なになにデート~? んも~お熱いんだから~」
「えへへっ♡ えへへへっ♡」
くねくね、とユーリがうれしそうに身をくねらせる。
精霊達は一定範囲内であれば、俺のそばを離れても動ける。
「おにーさんたち何してるの?」
「ミクトランの忘れ形見を探してるんだ」
「ふーん、それって探す意味あるの? ほっとけばいいじゃん」
「魔族側に渡って悪用されたら困るだろ。せっかく世界が平和になったんだからな」
ピナがジッ……と俺を見てくる。
「どうした?」
「おにーさんって……自分から苦労を背負おうとするよね」
呆れたようにピナがつぶやく。
「魔王倒すまであんなに忙しかったんだからさ、スローライフを純粋に楽しめば良いじゃん」
「いや……でもほっとけないだろ」
ピナが俺を見上げ、ふぅー……とため息をつく。
「ま、おにーさんのそーゆーとこ、アタシ好きだよ。けどもうちょっとさ、肩の力抜きなよ」
「おう、忠告ありがとな」
「そそ、せっかくさ~ユーリおねーちゃんと恋仲になったんだから、夜の方もすればいいのに~♡」
「なっ!?」
メイとマオと遊んでいたユーリが、俺に気づいて近づいてくる。
「どーしました?」
「おねーちゃん、おにーさんがモガモガ……」
俺はピナを羽交い締めにし、口を塞ぐ。
「なんでもない! ほらいくぞ、ユーリ」
「? はいっ」
俺はユーリとともに、部屋を出る。
「おねーちゃんは多分、おにーさんのこと待ってるよ~」
ニヤニヤとしたピナの笑みを後ろ目に、俺は彼女たちの元を去る。
いやまあ……多分拒まないだろうけど、それでも……なぁ。
「どーしたの?」
「いや……男の悩みってやつだ。気にすんな」
「……ぽっ♡」
ユーリは頬を染めて、いやんいやんと体をくねらせる。
何を考えてるのかわからんが、何かを誤解させているのだろうことはわかった。
ややあって。
「お部屋、ここが……最後です、ね?」
「ミクトランの書斎か」
俺はギィ……と書斎の扉を開く。
壁一面には本棚があった。
整頓されているのだが、何冊か本が抜け落ちている。
そして……部屋の中央に、本の山と、そしてそこに囲まれている少女がいた。
「アリス……?」
ユーリの姉アリスが、部屋の中にいた。
ただし、彼女は本に囲まれながら、すぅすぅ……と寝息を立てている。
「本を読んでいるうちに寝ちゃったんだろうか?」
俺はアリスの元へ行く。
このまま床で寝ているのは可愛そうだ。
彼女を持ち上げて、部屋に送り届けようとしたそのときだ。
「…………」
ぱちっ、とアリスが目を覚ます。
「おう、おはよう」
「~~~~~~!」
ボッ……! とアリスが顔を真っ赤にする。
彼女は俺の腕の中にいる。
ちょうど、お姫様抱っこする感じだ。
「……あい、アイン、くん。どう、して?」
「ちょっと屋敷探索にな。こんなところで寝てたら風邪引くぞ?」
「……う、うん」
俺はアリスを下ろそうとする。
きゅっ……。
「え?」
アリスは俺の服をつまんで、見上げてくる。
「……もう少し」
「もう少し?」
「……な、なんでもないわ」
アリスを、よいしょと下ろす。
「じー」
「はいはい、あとでお姫様抱っこするから」
「わーい♡」
アリスは必死になって、髪の毛をとかす。
床で寝てたからか、寝癖で少し跳ねていた。
「何してたんだ?」
「……ミクトランの職業について、何か記録がないか探してたの」
「すまん」
「……い、いいの。気にしないで。好きでやってること、だから」
アリスは残されていた手記をパラパラとめくる。
「……ミクトランの父親の日記が残っていたわ。彼は最初、職業を持って生まれていたらしい」
「やっぱり、誰かに途中で奪われたんだな」
こくり……とアリスがうなずく。
「犯人に心当たりは?」
「……記録にはない。ただ、ミクトランにはお兄さんがいたみたい。本来なら彼が当主になるはずだったけど、ミクトランの職業がすごい物だったから、次期当主の座は取られたって」
「その兄貴が怪しいな……。でも、職業を他人が奪うなんてことできるのか?」
「……そういうスキルがないわけでもないわ」
職業を奪うやり方はあるようだ。
「取った物をどこに保管したんだろうな」
と、そのときだった。
「わー!」
ドサドサドサッ!
ユーリが本棚のそばで、本に埋もれていた。
「ゆ、ユーリ! 大丈夫か!」
俺はすぐさま彼女にかけつける。
「こぶとかできてないか? ケガは?」
「へーき、です。ご心配、おかけ、しましたっ♡」
ふぅー……と俺は安堵の吐息をつく。
「…………」
アリスは、そんな俺たちの様子を、沈んだ表情で見ていた。
「……いいなぁ」
「ん? どうした?」
「……いいえ」
アリスが俺たちに近づいてくる。
「……アイン君、これ」
すっ、と指を指す。
そこには本棚しかない。
「特に何か変わったことなくない?」
「……この本棚の向こう、何かあるわ」
本を全部抜いて、俺は本棚を引っ張る。
「壁に……これは、なんだろう? 魔法陣?」
俺は鑑定スキルを使って調べる。
「どうやら転移の魔法陣のようだな」
「……触れると別の場所に移動する魔法陣。明らかに、怪しいわ」
明確に隠す意図が感じられた。
屋敷は結界が張ってあった以上、これを書いたのはミクトラン存命時の、誰かだ。
「行ってみる」
「……私も、いく」
「アインさん、わたしもっ」
俺は転移の魔法陣に、触れるのだった。
【※お知らせ】
「鑑定士」のコミカライズがスタートします!
■7月29日(水)スタート
■「マガポケ」にて、毎週水曜日に更新
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