21.鑑定士、新しい迷宮のボスも蹴散らす
世界樹の精霊ユーリのために、他の世界樹を見つける旅に出ると決意した。
それから、2週間が経過した。
俺は拠点である街を出た。
この国の【王都】。
その近くにあるダンジョンで、迷宮主と戦っていた。
『不死王(S)』
『→死霊系モンスターたちの王。霊体のため魔法・物理攻撃が通じない。強力な魔法と、【弱体化】、【魔法封じ】をはじめとした、多彩で強力な呪いを使う』
不死王は骸骨が、黒いぼろ布を纏っているような姿をしている。
ぱっと見で全然強そうに見えない。
しかし鑑定したとおり、強力な魔法と呪いを駆使してくる。
しかも物理攻撃が効かないから厄介だ。
「オロロォオオオオオオオオ…………!」
不死王は俺に右手を向ける。
ブツブツと呪文を唱える。
『上級火属性魔法【爆炎連弾】をうってくるみたいじゃぞ。触れると爆発する炎の弾丸を10発射ってくる』
賢者ウルスラの声が、脳内に響く。
彼女と俺は、俺の右目【賢者の石】を通して、意識を共有しているのだ。
不死王は俺めがけて、炎の弾丸を連射する。
「【超鑑定】」
攻撃反射のタイミングを鑑定。
炎の弾丸が当たる前に、剣を振る。
パリィイイイイイイイイイイイイン!
はじき返した炎の弾丸が、不死王の体にぶつかる。
ドガァアアアアアアアアアアンッ!
『効いてないぞ。相手は幽霊じゃ。攻撃魔法は通じぬ』
「わかってる。目くらましだよ」
炎の弾丸が地面に当たったことで、辺りには煙が立ち上がっている。
それは煙幕となり、不死王の目をくらませる。
俺は【超加速】を発動。
凄まじい速さで、不死王のそばまで接近。
不死王の顔面に、俺は右手を向ける。
「【ターンアンデッド】!」
俺の右手が、カッ……! と光る。
ターンアンデッドは、アンデッド系モンスター(幽霊やゾンビなど)を即死させる上級光魔法だ。
俺は賢者ウルスラから様々な魔法を習った。
その中には攻撃だけじゃなく、こうした特殊な魔法もあったのだ。
聖なる光によって、不死王の体は灰になった。
その後には、不死王の着ていた黒いローブ、そして頭蓋骨だけが残った。
『その頭蓋骨を媒介に、不死王が現世に留まっていたようじゃな。ようするに幽霊の本体じゃ。それを鑑定すれば能力を得るぞ』
不死王の能力を鑑定した。
『弱体化(S)』
『→触れた相手のレベルを強制的に下げ、弱体化させる』
『魔法封じ(S)』
『→触れた相手の魔力を強制的に吸い取り、相手の魔法使用を封じる』
『解呪(S)』
『→あらゆる呪い、状態異常を解除する』
『昏倒(A)』
『→触れた相手の精神に干渉し、相手を気絶させる』
ボスということで、やはり多数の能力を持っていたらしい。
ボスが守っていた迷宮核を、俺は手に入れる。
賢者に手術してもらい、精霊神の目が進化する。
『精霊神の目(LEVEL3)』
『→【古今東西・全種族の文字の解読】が鑑定できるようになった』
「どんな文字でも読めるようになったってことか」
直接戦闘には使えないけど、十二分にチートだ。
不死王のドロップアイテムを拾い、俺はダンジョンの出口を目指す。
「ハズレだったなー、ここ。隠しダンジョンじゃなかったわけだ」
不死王は通常ダンジョンの迷宮主だった。
隠しダンジョン以外にもボスは普通にいるからな。
『そう簡単に見つかる物ではない。世界樹は文字通りこの世界を支える木だからな。それを隠しておく隠しダンジョンが、おいそれと見つかってもらっては困るのじゃ』
そりゃそうか。
「王都に来れば、何か隠しダンジョンの情報があるかなってやってきたはいいが……ダメだったか」
『アイン、さん。おちこんじゃ……めっ、です。ふぁい、とー♡』
ユーリが俺を励ましてくれる。
優しい子だよな。
一番がっかりしてるのは、家族に会えなかった彼女だろうに。
自分より俺のことを気遣ってくれる。
「ユーリはほんと、優しくて良い子だよな」
『阿呆か貴様! ユーリは超優しくて超良い子じゃ! 訂正せよ!』
『あうぅ~……♡ はずかしいよぉ~……♡』
俺たちはダンジョンを出る。
ダンジョンから宿のある、王都へと向かって歩く。
王都はここから歩いて半日ほどだ。
途中、大きな森を通る。
「またギルドに戻って情報収集だな」
『しかしギルドに集まる情報は、あまり信用に足るものでは無いことが証明されたな』
「だな。なにが隠しダンジョンの場所を教えてやるだ。あの情報屋。情報料ぼったくりやがって」
ギルドにいた一番の情報通ってやつから、多額の金を出して情報を買ったのだ。
しかし結果は空振りだった。
「王都に来れば人も物も多く集まるから、情報がたくさん手に入るって思ったんだけどな」
ことはそう簡単な話じゃないらしい。
「ごめんな、ユーリ。家族に会わせてやるの、時間かかりそうだ」
『アイン、さん。気に、しないで。ゆっくりで、だいじょーぶ、です! わがまま、いってるの、わたしの、ほー、だし』
『おい小僧。ユーリに気を遣わせるな。とっとと隠しダンジョンに関する信憑性の高い情報を手に入れよ。10秒待ってやる』
「んな簡単に手には入るかよ……」
と、そのときだった。
「きゃぁあああああああああああああ!」
……女性の、甲高い悲鳴が聞こえてきた。
『どうやら王都へ行く途中の森で、馬車がモンスターの襲撃に遭っているみたいじゃ。かなり豪華な馬車じゃな。護衛も多いが全滅寸前じゃ』
ウルスラが自動で、敵の位置と情報を鑑定してくれた。
護衛付きの馬車ってことは、襲われているのは、かなり身分の高いやつかもしれないな。
「ユーリ、敵だ。どうする?」
『助けて、あげてっ。お願い、アイン、さんっ』
「了解だ」
俺は【超加速】を発動。
襲撃現場へと、急行するのだった。
 




