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【WEB版】不遇職【鑑定士】が実は最強だった〜奈落で鍛えた最強の【神眼】で無双する〜【アニメ放送中!】  作者: 茨木野
後日談

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208/245

208.鑑定士、屋敷の主人と認められる



 幽霊屋敷にいたリッチーと戦闘になった。


「うそよ……こんな……強すぎるわ……」


 愕然とした表情で、メイド姿のリッチーが俺を見やる。


「話を聞いてくれ。俺は単にこの屋敷に住まわせてもらいたいだけなんだ」


「ふ……ふふ……ぶざまね、私……」


 彼女はまだ、俺の言うことを聞いてくれなさそうだった。


「【ミクトラン】様から、この屋敷を任されたのに……」


「ミクトラン……? おい、まさかおまえ……」


 ゆらり、とリッチーが立ち上がる。


「こうなったら……最期の手段を使うしかないわ」


 リッチーは浮遊し、両手を胸の前で合わせる。


 ゴォオオおおおおお……!


『凄まじいまでの魔力の高まり。こやつ、自爆の魔法を使うつもりじゃ』


「なんだと……?」


『【灰燼滅却炎スーサイド・インフェルル】。その身を犠牲にし、周囲一帯を消し飛ばすほど、強力な爆炎をまき散らす、極大魔法じゃ』


 胸の前に、青い炎の球体が出現する。


 凄まじいまでのエネルギーが、あそこに集まっていた。


『どうする? 転移で逃げるか?』


「いや、それはしない」


『では、どうするのじゃ?』


 俺は深呼吸をする。


「クルシュ、いくぞ」


『なに? クルシュじゃと? おぬし、何を言っておる』


 ウルスラが困惑している様子だ。


『おぬしの左目は、わしの作った封印の眼帯で覆われておる。能力は完全に制限されており、クルシュの【虚無】は使えぬはずじゃぞ?』


「まあそうなんだが、問題ない」


 俺は眼帯の上から、左手を乗せる。

 ぐっ、と掴む。


 いくら力を入れても、眼帯はびくともしない。


 だが……問題ない。

 俺は禁術を発動。


 力を込めて、眼帯をつかみ、引っ張る。


 すると、赤い輝きが、眼帯から漏れた。


『なっ、なんと!? こ、これはまさか……!』


 俺は右手を前に向ける。


「これで終わり。さようなら、ご主人さま……」


「いや、それは必要ない」


 左目が、より強く輝く。

 リッチーの自爆魔法も、負けじと強く発光する。


 超高密度のエネルギーが、周囲を滅却しようとした、その瞬間……。


 ボッ……!


 彼女が発動させようとした魔法【だけ】が、消滅したのだ。


「う……そ……。ありえない……自爆魔法が、消し飛ばされた……?」


 へたり込むリッチー。


 俺は安堵の吐息をついた。


「こんなの、起きるわけがない……いったい、なにが……?」


『ま、まさかアインよ。わしの作った、超強力な封印術を、自力で解いたのか……?』


「解いたってほど上等なことはしてないよ。ただ眼帯を掴んで、無理矢理ひっぱっただけだ」


 すると眼帯と眼球との間に、わずかな隙間ができた。


 封印術がゆるんだ結果、虚無が使えたというわけだ。


『なんということじゃ……わしが全知識と技術を使って作った最強の封印術を、一時的とはいえ破るとは……さすがじゃ。さすがアインじゃ』


『いやぁ、やるねぇアイちゃん。すごい子だわほんと~』


 クルシュがうんうん、と感心したように言う。


 いやまあ、すげえ疲れるし、長い間封印を解くことできないんだけどな。


「どうして……?」


 へたり込むリッチーが、俺に問うてくる。


「どうして、私を助けた……? おまえほどの剣術使いだ。魔法が発動する前に、私ごと消し飛ばせばよかったのに……?」


 確かに魔法が完成する前に、剣で彼女ごと切れば、それでも助かったかも知れない。


 俺は首を振って答える。


「おまえに、そんなことできないよ」


「え……?」


「おまえは、自分の命をかけてまで、この屋敷を守ろうとしたんだろ? そんな優しい女の子を殺すことなんてできない。それだけだよ」


 リッチーが、ぽかん……とした表情となる。


「そんな……私は、優しくなんてない……。ただ……ご主人さま、ミクトラン様の……帰りを……」


 そのときだ。


「ミクトランは、死にました」


「エキドナ」


 精霊姉妹達の長女、エキドナが、俺の隣に転移してくる。


「え、エキドナ様っ!?」


 リッチーは目をむいて、エキドナを見やる。


「久しいですね、【ロキシー】」


「ロキシー……? エキドナ、この子は?」


「ミクトランの屋敷で働いていた、リッチーのメイドです。私も数世紀ぶりだったので、すぐに彼女と気づけませんでした」


 ミクトランが生きていたのは、遙か太古の時代。


 確かに長い年月が経っていれば、既知の仲だったとしても、顔を思い出すのに時間が掛かるか。


「エキドナ様、お久しぶりです。しかし、数世紀ぶりというのは、いったい……?」


「もしかしてこの子、時間が経っていることに気づいていないのか?」


「時間……? どういうこと……?」


 俺とエキドナは、ロキシーに、ミクトランがいた時代からかなり時間が経っていることを。


 その間に起きたことを、かいつまんで説明する。


『この女は外界に興味がないようじゃった。幽霊と言う老いることのない体も相まって、外の時間の流れに気づいていなかったのじゃろうな』


「そんな……ご主人さまは……もう……」


 悄然とした表情で、ロキシーはつぶやく。

「はは……そうだったんだ。じゃあ、私のしていたことって、全部……無駄だったんだ……」


 落ち込むロキシーに、俺は言う。


「無駄なんかじゃないって」


 俺はロキシーのそばにしゃがみ込む。

 

 彼女の頭の部分に触れる。

 実体はないけど、思いは伝わるだろう。


「おまえは、立派にミクトランの帰る家を守った。あいつがいつ帰っても良いように、庭もこの中も綺麗に保ってさ。きっと、おまえのご主人さまも天国で喜んでるよ」


 屋敷の中も外もは、驚くほど整っていた。

 きっと何世紀も、この子が手入れをしていたのだろう。


 こんなにも大切に思ってくれていたのだ。

 ミクトランも草葉の陰で笑ってるさ。



「アインの言うとおりです。ロキシー。今日までよく頑張りました」


 じわ……っと、ロキシーが目に涙を浮かべる。


「あり、ありがとう、ございます……。エキドナ様。それに……アイン、様」


 カラスの濡れ羽のような、美しい瞳を、彼女が俺に向ける。


 彼女の心が少しでも晴れてくれたようで、良かったよ。


「ところでロキシー。これからのことなのだけれど、あなたはどうする?」


 主人であるミクトランが居なくなった。


 となれば、従者たるロキシーが、この地に留まる理由はない。


「アイン様」


「どうした、ロキシー?」


「……どうか私を、ここに置かせていただけないでしょうか?」


 すっ……とロキシーが頭を下げる。


「あの御方はもう戻っては来ません。ですが、私は愛するこの屋敷を、守っていきたいのです。駄目でしょうか?」


「いや、良いと思うぞ」


 ロキシーは顔を上げて、笑顔を俺に向ける。


「ありがとうございます……新しい、ご主人さま……」


 潤んだ目でロキシーが俺を見やる。


「いや、おまえのご主人さまはミクトランだろう?」


「そうです。しかし、あなたもまた、この屋敷の主人なのです。いけま、せんか……?」


「いやまぁ、別にいいけど……」


 花が咲いたような笑みを浮かべ、ロキシーが俺に近づいてくる。


 俺の唇に、ロキシーが唇を重ねてきた。


「えっ!?」


「「「えぇ~~~~~~~!?」」」


 精霊少女達が顕現し、驚きの声を上げる。

 ロキシーはやや照れたように目線をそらす。


「こ、これは契約……です。屋敷のシモベたる私が、主人と結ぶ儀式……です」


 頬を赤らめながら、ロキシーが言う。


「…………」


 ふらり……とアリスがその場に倒れる。


「ねえさま! し、しっかりしてぇ~!」


 ユーリが青い顔で、姉を抱き起こす。


「ありゃあ、アリスお姉ちゃんライバルまた出現じゃーん」


「これは楽しくなりそうだねぇい~?」


 にやにや、と笑うクルシュとピナ。


 いや何のことなんだ……と戸惑っていたそのときだ。


「アイさん! 味方を連れてきました!」


 受付嬢アイシャが、冒険者達を引き連れて、俺たちの元へとやってきた。


「り、リッチーだ!」「最強の死霊系モンスターだ!」


 怯える冒険者達は、武器を構えて、ロキシーを見やる。


「落ち着いてくれ。彼女は俺の従者になったんだ。もう悪さはしないよ」


 俺が冒険者達に説明する。


「「「おお~~~~~!」」」


 なぜか知らないが、冒険者連中は、感心したように声を上げる。


「す、すげえ……!」

「あのリッチーを従えただと!?」

「おれたちが束になっても敵わない相手を、屈服させるなんて!」


「「「さすがっす、アイさんっ!」」」


 ……冒険者達が、俺にキラキラとした目を向けてくる。


 やべえ。目立ってしまってないか、これ……?


『やはり、隠していても、おぬしがただものではないということは、わかってしまうのじゃな。うむ、さすがアインじゃ』


 俺は深々とため息をつく。

 

 果たして、ユーリ達と静かに、暮らしていけるのだろうか……?


 不安だ、すごく。

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