201.ユーリ、アリスとお料理特訓
本編終了しましたので、告知通りサイドストーリー等を投稿していきます。
アインさんと、わたしは結ばれました! うれしい!
これは、世界樹の下でちゅ、ちゅーしたあと、数日後のお話です!
ジャスパーさんの、お屋敷にて。
「アイン、さん……ハッキリ言って、ほしーこと、あります」
お屋敷の中にある、アインさんのお部屋の中です。
アインさんはソファに座って、のんびりご本を読んでいました。
「ん? なんだ?」
「……わたしのお料理、もしかして……まずい?」
ピシッ、とアインさんの表情が固まります。
アインさん、今は左目を全体的に覆い隠すような眼帯を、してます。
黒くて、アインさんの御髪と同じ色で、かっこいい!
おっと違った。本題だっ。
「い、いやぁ……そんなこと、ないぞ……?」
黄金色の右目が、わたしから反らされました!
これは、嘘をついている!
わたしにはわかる……恋人の直感というやつだ!
……えへへ~♡ 恋人~♡
「アインさん、嘘は……めっ、です!」
アインさんは、優しいのです。
いつもわたしに気を遣ってくれる、だいすきっ。
でも、恋人同士になったのに、そういう遠慮みたいなのは……いやです!
「アインさん、もう隠し事……いやです。前みたいに……黙ってて、実は辛かった……みたいなの、いやです」
アンリちゃんを討伐したアインさん。
あのとき、実は悪い魂が入っていたそうです。
それで体調が悪くなったみたい。
でも……アインさん、辛いそぶりいっさいみせないから。
強いひとだけど……そういう強がりは、好きじゃないです。
「わたし、のまえでは……正直で居て欲しーです」
「……わかった」
アインさんは、真面目な顔で、わたしにハッキリ言いました。
「ユーリ。おまえのメシは……マズい」
☆
「とゆーことで、アリス姉さま! お料理……教えてください!」
やってきたのは、ジャスパーさんちの厨房です。
となりには四女のアリスねえさまがいます。
「……別に良いけど、ユーリ。私よりもっと料理が美味いひとは多いわよ?」
「アリスねえさまは、最近までお料理、へたでした。でもっ、見違えるように上手になりました! その秘訣……ぜひしりたいです!」
ウルスラおかーさんが言ってました。
精霊は、食事を基本、必要としないと。
なので、何世紀も長い間、わたしたちは地下で暮らすことができました。
ですがここで一つ大きな弊害がっ。
お料理……作ったことない!
「……なんだか気恥ずかしいわ。ウルスラさんに頼めないの?」
「おかーさん、料理へたです!」
「下手なの?」
「ド下手です!」
わたしと良い勝負します。
おかーさんは『いや……基本引きこもりじゃったし……守り手の仕事に料理は入ってなかったし……そもそも王族で料理したことなかったし……』と弁解してました。
「……そう。でも、私も多くを教えられないわ」
「おしえてください! わたし……料理上手な、お嫁さんに……なりたいの!」
わたしがまっすぐねえさまを見て言います。
ねえさまは、「……そう」なんだかまぶしい物を見たような、目をしていました。
目を細めて……けど、どこか羨ましそうな目です。
「……わかった。できる限りのことは教えるわ」
こうして、ねえさまのお料理教室……スタートです!
☆
ねえさまとカレーライスを作ることにしました。
カレーは大好き! おいしいもん!
【あっち】にいたときも、よく食べてました!
……【あっち】って?
まあそれはいいです。
「……料理のこつは、レシピ通り作ること。アレンジを下手に加えようとすると失敗するわ」
「え?」
「……だからユーリ、そのチョコレートを仕舞ってきなさい」
「で、でも……カレーにチョコいれると、隠し味になっておいしいって! 漫画で読みました!」
……漫画? おや? なんでしょうかそれ。
「……アレンジは、基本を守ってから。基礎ができてないうちから応用はよくないわ」
「なる、ほど! 一理あります!」
わたしはポリポリとチョコを頬張るのです。
うーん……うまい!
ねえさまに手ほどきを受けながら、わたしはカレーライスを作ります。
お野菜の皮をムキムキ。
とんとん。
「……そう、上手よ。野菜を切るときは猫の手」
「猫! にゃー!」
「…………」
「じー……」
「……な、なに?」
わたしは、ねえさまに猫の手を強要します。
「にゃー!」
「……わ、私にやれと?」
そのとおり。
わたしは知っているのです。
ねえさまが猫ちゃん大好きだということを!
どこからか拾ってきた猫を、いつもねえさまは愛でています。
「時々、ねえさまやってるじゃないですか。おいしいですか、にゃー♡ って」
「…………」
アリス姉さまは顔を赤くして、うつむいてしまいました。
「やってくれなきゃ、可愛いことしてるって、ばらしちゃいますよ?」
ふふ、ちょっといけない女です。
ピナちゃんはよくわたしをいじります。
その気持ち……よくわかります!
ねえさまを見てると!
「…………」
アリス姉さまは、耳の先まで真っ赤にしたあと、小さくつぶやきます。
「……にゃ、にゃー」
なんとかわいいことでしょう。
とってもねえさま……かわいい!
「動画撮影しておけばよかった、です!」
「……動画?」
「……どうが?」
……はて?
☆
食材諸々をお鍋にぶち込んで、あとは待つだけです!
わたしと姉さまは、お鍋の前で完成を待ちます。
「……ユーリ、貴女がまぶしいわ」
唐突に、ねえさまがわたしを見上げて、そう言ってきました。
身長的には、わたしの方が上なので、自然とそうなるのです。
「まぶ、しー?」
ぴかぴか輝いてるのでしょうか?
でも世界樹の姿でないときは光りませんし……。
ちなみに、あの光は魔力の光です。
自然と発光するのです。
「貴女が、羨ましいわ。……私は、あの人に、まっすぐ思いを伝えられないもの……」
きゅっ、とねえさまが胸の前で手を組んで言います。
あの人って、たぶんアインさんのことです。
ねえさまは、アインさんが好きなんです。
「ねえさま。どうして、遠慮、するのですか?」
「……遠慮なんて、してないわ。ただ勇気が出ないだけよ」
ねえさまは、あんまり心の奥にしまってることを、口に出しません。
慎み深く、上品な姉さまは、とても素敵だと思います。
でも……言いたいことを言えないのは、辛いです。
わたしは隣に立つ姉さまを、抱きしめます。
「ねえさまは……遠慮してます」
「……してないわ」
「してるんです! わたしには、わかります! だってねえさま、最近ずっと……浮かない顔をしています」
特に、わたしとアインさんが、付き合ってから、ずぅっとです。
「……普段から、こんな顔よ」
「ちがいます! ねえさまはもっとこう……ぱー! って。ぱーって! 笑います!」
ああ、語彙力がたりません!
でも、言いたいことは伝わったようです。
「……そう、かしら?」
わたしはしっかりと、うなずきます。
「ねえさま、遠慮しないで。わたし、ねえさまも、みんなも……しあわせになって、ほしーです」
ねえさまたちや、妹たち。
みんなみんな幸せになる。
それが、わたしにとって最高なのです!
「……そう」
アリスねえさまは、ちいさくつぶやきます。
「……そうね。言われてみると……遠慮してたかも」
「遠慮、無用です! ねえさまも、がんがんアタック、です!」
むんっ、とわたしは鼻息荒く言います。
「……でも、どうすればいいの? 私、あなたみたいに綺麗じゃないし、胸も小さいし……」
「ねえさまは綺麗です! お胸は……のーこめんとで!」
ずぅん、とアリス姉さまが落ち込んでしまいました!
「気持ちです。気持ち、あればだいじょーぶ! だいじ!」
「……そうね。そうして、みるわ」
☆
お料理完成したので、わたしとねえさまは、アインさんのところへカレーを持って行きます。
「美味そう……これ、おまえが作ったのか、ユーリ?」
ソファに座るアインさんが、右目を丸くさせます。
「はい! ねえさまと一緒に、です!」
「そうか。じゃあ安心だな」
じゃあってなんですかじゃあって!
まあいいです。
「愛情、たっぷりです♡ 食べてください♡」
「…………」
ねえさまが、顔を真っ赤にしてうつむいています。
わたしは恋のキューピットととして、すすっ、とねえさまの背中を押します。
「ねえさまの愛情も……たっぷりです!」
「そ、そう……なのか?」
アインさんが、ねえさまを見て尋ねます。
「…………」
ねえさまは耳の先を真っ赤にして、ぱくぱくと口を閉じ開きします。
がんばれー! ねえさま!
「……そう」
長い沈黙のあと、一言だけ、ねえさまは言いました。
たたっ! と足早に逃げていきます。
「とゆーこと、です!」
「あ、ああ……そうなのか。……うん、わかったよ」
アインさんはカレーライスをパクッと一口食べます。
「お味は?」
「うん、美味い」
こうして、初めて、お料理は成功したのでした!




