200.そして鑑定士は未来へ歩き続ける
本編はこれにて終了です。
最後にお知らせがあります。
俺が【それ】を討伐し、1ヶ月ほどが経過した。
国王のもとに、俺は呼び出されていた。
いつもの応接室にて。
「アイン君。久しいな」
「ご無沙汰しています、国王陛下」
俺たちはテーブルを挟んで、ソファに座る。
「ん? アイン君。眼帯なんてしていたかね?」
「いえ、つい最近つけだしたんです」
「おお、そうか。うむ、とても似合っている。さすが【救世の勇者アイン】。何をつけても様になる」
俺の左目にはウルスラが作ってくれた、特製の眼帯がつけてある。
「目をケガしたのかね?」
「いえ、神眼を封じるために、特別な眼帯をつけることにしたんです」
「ほぅ? なぜそうする必要がある?」
「役目は終わりましたから、聖剣とともに封印するのが一番かなと」
全ての黒幕を討伐した後、俺はウルスラに頼んで、聖剣と神眼を封じることにした。
ウルスラは封印の眼帯を作った。
封印を解く(眼帯を外す)【鍵】と、そして勇者の聖剣は彼女が持つこととなった。
地下深くの隠しダンジョンにウルスラは居るので、おいそれと鍵が盗まれる心配も無い。
「わからないな。なぜそこまで厳重に封をするのだ?」
「歴史を、繰り返さないためです」
ミクトランが魔王になってしまったのは、その強大な力を人々が恐れ、その悪感情を【それ】に利用されたからだ。
「【それ】は消えましたが、また復活しないとも限りません。俺は役目を終えました。だから、力を封印したんです」
ちなみに俺のなかの莫大な魔力量は、精霊を通して、世界樹に流れるように、賢者たちに力を貸してもらった。
ようするに、俺自体が保有している魔力量は普通程度に、そして余剰分は世界に還元するようなシステムにしたのである。
「そこまで弱体化してしまったら、君が困るだろう?」
「いいんです。俺が弱体化することで、世界が平和になるんだったら、俺はその方が良い」
『まあ、もっとも魔力と闘気がゼロになったわけじゃないので、鬼神化は使えるし、ユーリたち精霊が存在するから霊装も可能じゃから、普通に世界最強じゃがな』
とはいえ世界を一つ作るとか、宇宙を破壊するなどといったトンデモないことはできない。
それに確かにある程度の強さは持っているけど、制御できる範疇だしな。
「なるほど。賢明な判断だな。さすがアイン君。【救世の勇者】」
「それ……ちょっと恥ずかしいんですが、本当に後世に残すんですか?」
「何を言ってる? 当たり前じゃないか。世界を救ったきみの活躍は子々孫々まで残しておかないとな!」
どうやら俺の活躍を、国王はまとめて歴史に残すそうだ。
【救世の勇者】なんて名前……何度聞いても気恥ずかしさを感じる。
「俺のことはまあ適当でいいんで、ミクトランの方をしっかり伝え残して欲しいです」
エキドナから教えてもらったミクトランとアンリの物語。
それは決して魔王の物語としてではなく、英雄ミクトランの物語として、正しく後世に残してあげたい。
同じ過ちを繰り返さないために、そしてなにより、彼らの名誉のためにも。
「わかっている。そちらもアイン君の名前とともに語り継いでいこう」
国王と話し合っていた、そのときだ。
「陛下。ご機嫌いかがですか?」
「おお! ジャスパー。コキュートス君に、セラフィム君も」
やってきたのは大商人、魔族、そして熾天使の珍しい組み合わせだ。
「何しに来たんだ、おまえら?」
「現状の各世界の状況を伝えにね」
人間たちの世界は、ユーリの【再生能力】で被害ゼロ。
魔界は、アンリのせいで、魔族たちはほぼ死に絶えていた。
しかし魔核が残っていたので、時間が経てば元通りになるらしい。
そして戻ったあとまた争いが起きないように、コキュートスを代表としてしっかりと統治を行うそうだ。
俺も有事の際には力を貸すことを約束してる。
天界はオリュンポスの神々が全滅したことで大混乱となった。
だがセラフィムが主神となって旗を振り、今は大分落ち着いてきているらしい。
「すべてアイン様のおかげです。ありがとうございます」
「魔界も潰すのではなく、相互不可侵とし、魔族たちを生かしてくださり本当にありがとうございます!」
魔界と人間界はつながってしまったが、そのあと俺が聖剣で次元を真っ二つに裂いて分離。
おいそれとこれないように体制を整えた。
コキュートスだけは、特級魔族ウーノが持っていた能力を、俺が彼女に付与し、人間界と行き来できるようになっている。
「アイン君。本当に、君はすごい男だ」
ジャスパーが俺に近づいてきて、ぎゅっと抱きしめる。
「やはり私の夫にふさわしい……」
「これこれジャスパー。冗談はやめなさい」
良かった国王は、ちゃんと俺がこのあとどこへ何をしに行くのかわかっててくれているようだ。
「アイン君はうちのクラウディアの夫になるんだからな」
おいぃいいいいいいいい。
「いやあの……俺、このあとユーリにですね……」
ちら、と壁の時計を見ると、約束の時間が迫っていた。
「アイン君。しかしだね、この世界は一夫多妻が普通だ。ジャスパーもクラウディアもおぬしの妻とすることは可能。精霊のご姉妹だって全員と付き合えるのだぞ?」
「いやまぁ……その……えっと、じ、時間なんで失礼します!」
俺は立ち上がって、いそいそと退出する。
「アイン君」
国王は立ち上がり、穏やかな微笑をたたえながら言う。
「私の言ったとおりになったな。君はいずれ英雄となるとね。……ふふっ、私の目もなかなか慧眼だったのではないかな?」
思えばこの人は、最初俺に会ったとき、すぐそういっていたな。
「恐縮です、陛下」
「うむ、地位と名誉を得ても、調子に乗ることはせず謙虚な姿勢を貫く。さすがアイン。見事なり」
☆
さて、やってきたのは始まりの場所。
世界樹のいる、隠しダンジョンだ。
……俺は今から、彼女に思いを告げる。
そのためには、二人きりになりたかった。
だからこの静かな場所へとやってきた……のだが。
「おい、なんでみんな居るんだよ!」
背後を振り返ると、精霊姉妹、賢者たち全員が集結していた。
「「「どうぞお気になさらず!」」」
「めちゃくちゃ気になるからやめてくれってマジで……」
「こ、こらー。みんな、はずかしいから、でていってー」
ユーリがぷんすか怒りながら、姉や妹たちを追い出そうとする。
「まあまあ☆ いいじゃん、お姉ちゃんの晴れ姿みさせてよ☆」
「妹が女になるところ見届けるのは、お姉ちゃんの役割だからね~」
ピナとクルシュは、頑として動こうとしない。
茶化す気まんまんだった。
「これ、皆の者。あまりふたりをからかうでない。ほれ、出て行くぞ」
ウルスラがため息をついて、世界樹のあるホールから、みんなを追い出す。
「ウルスラママはいいの? お兄さんをユーリお姉ちゃんに取られて?」
「と、取るとか取らないとか……し、しらんわい!」
「まあまあ。この世界一夫多妻せいらしいからさ~。だから落ち込まなくていいんだよ、アリス~?」
「……そうね、姉さん」
クルシュはアリスの肩をぽんぽんとたたく。
ウルスラは顔を真っ赤にしながら、ピナにほおをつつかれていた。
やがて全員がホールから退去し、俺とユーリだけが残った。
「どきどき。おへんじ。どきどきっ!」
ユーリが期待のまなざしを、俺に向けてくる。
「あー……その……。うん。きょ、今日は良い天気だな」
「ここ、地下です、が?」
そうだった……。
くっ! いざとなったら恥ずかしくて、返事ができない。
「えっと……その……」
俺はなんとか言葉をひねり出そうとする。
だが上手い言葉が見つからなかった。
「アイン、さん」
ユーリが俺に近づいてきて、ニコッと笑う。
「思ってる、こと……素直に、言って♡」
そう言われて、俺は肩の力が抜けた。
そうだよな。
素直に思ってることを言うだけでいいんだ。
何も難しいことはない。
「ユーリ……。最初にここへ俺が落ちてきたとき……助けてくれてありがとうな」
俺は世界樹を見上げる。
輝く大樹は、落下する俺を受け止めた。
重傷を負った俺を、この優しい精霊は癒してくれたのである。
「どこの誰かも知らない俺を助けてくれたこと、今もずっと感謝してるよ」
ここまで来るまで、色々なことがあった。
だがどんなときも、ユーリへの感謝を忘れた日は一度たりともない。
俺が敵を倒し続けたのは、ユーリへの恩を返したいという気持ちがあったから。
だがそれは、次第に彼女への愛おしさへと変化していった。
使命ではなく、恩に報いるんではなく……一人の女の子として、彼女を守りたいと。
俺はユーリに近づく。
そしてハッキリと、彼女の翡翠の瞳を見ていった。
「ユーリ。俺は、おまえが好きだ。これからもずっと……俺のそばに居て欲しい」
ユーリは俺を見上げ、輝かんばかりの笑顔を浮かる。
「はいっ! わたしも……アインさんが大好きです!」
彼女は俺に抱きつく。
そして俺たちは、唇を重ねた。
それは、契約とか霊装とかそういうのを抜いた、本当の意味でのキスだ。
俺たちが抱き合っていると、世界樹は強く輝きを放つ。
光る粒子がハラハラと頭上から振ってきて、まるで俺たちを祝福しているようだった。
「よっしゃー! いけ! そこだ! 押し倒せ~☆」
「良いムード作ってあげたんだから、ほらほらやっちゃいな~」
にゅっ、と精霊や賢者たちが、世界樹の背後から現れる。
「おまえら……見てたのかよ?」
「「「ばっちり!」」」
くっ……! なんて恥ずかしいところを見られてしまったんだ!
「というかウルスラ。みんなを追い出してくれたんじゃなかったのかよ」
「いやまぁその……む、娘がきちんと告白できるか気になって……べ、別にのぞき見する気は一切なかったのじゃがクルシュたちが……」
「といいつつウルスラママが一番見たがってたよね~」
「このー! 言うなー!」
騒がしい姉妹や、賢者たちを見て……俺とユーリは笑う。
「それじゃみんな、帰るか」
「「「はーい!」」」
俺はユーリと手をつなぎ、多くの仲間たちとともに歩き出す。
……この先に何が起きるのかは、まだ何もわからない。
【それ】がまた復活し、新たな魔王が出現することもあり得る。
俺が魔王に堕ちる可能性だってゼロじゃない。
けれど俺は未来に不安を覚えることは一切しない。
神眼は封印され、聖剣もないけれど、問題ない。
だって俺の周りには大切な仲間と、大好きな彼女がいるのだから。
みんながいれば何も怖くない。
だから前を見据えて、しっかりと歩いて行こう。
この目とともに、彼女たちと笑いながら。
〈おわり〉
【※読者の皆様へ、大事なお知らせ】
■【鑑定士】が、書籍化・コミカライズします!
レーベルは【Kラノベブックス】様!
そしてコミカライズは【マガジンポケット】様で連載予定です!
書籍発売時期、漫画の連載時期は、追ってまたここで告知させていただきます!
皆様の応援のおかげで書籍化の話が来ました! 本当にありがとうございます!
■本編は終了しましたが、まだ続きます
外伝や後日談、サイドストーリーを投稿していく予定です。
また書籍化の情報もここに載せていきますので、できればもう少しだけお付き合いいただけると幸いです。




