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02.鑑定士、置き去りにされる



 俺たちはダンジョンの2階層へとやってきていた。


 ダンジョンとは、この世に無数に存在する、魔物たちのねぐらだ。


 一説によるとダンジョン自身が巨大なモンスターであり、人間たちを腹に収めるために、中にエサであるモンスターや宝を配置するとか、しないとか。


 そんなまゆつばはどうでもいい。

 俺たちがいるのは、拠点としている街からほど近いダンジョンの1つ。


 ダンジョンごとに出るモンスターはきまっている。


 このダンジョンでは主に、さっきの巨大鼠ジャイアント・ラットが出現する。


「おっ、ラッキー。地獄犬ヘル・ハウンドの死骸があるぜ~」


 剣士ゾイドが、しゃがみ込んで言う。


 人間ほどの大きさの、黒い犬が、死体となって倒れていたのだ。


 ……俺は違和感を覚えた。


「……ゾイドさん。おかしくないですか?」


「あー? 何がだよ」


「ここって巨大鼠の巣ですよね。地獄犬がいるのっておかしいんじゃ……」


 するとゾイドは不愉快そうに顔をしかめると、立ち上がって、俺を正面から蹴飛ばす。


 俺は地面にズシャッと倒れる。


「っせーよ! 口答えせず、とっとと死体からアイテムを回収しろよ、ゴミ拾い野郎が」


「…………はい」


 違和感はあった。

 だが意見したところで、この男がオレの話を聞き入れることはないだろう。


 俺は【鑑定】を使って、地獄犬から【ヘルハウンドの牙】を4本採取する。


「けどゾイドぉ、ラッキーね。地獄犬からのドロップアイテムって、高く売れるんでしょう?」


「ああ。帰ったらぱーっと酒飲もうぜ。その後は宿屋で……な」


 ……このふたりは恋人同士らしい。

 よくこんなやつと付き合えるよな……。


「ってか、おっ! あっちにも地獄犬の死体が転がってるじゃーん。らっき~」


 すっ、とゾイドが右側の通路を指さす。


 俺たちが歩いてきた通路は、1本道だった。


 だが右へそれる道が、あったのだ。


 ……激しい違和感を、俺は覚えていた。


「おいアイン、さっさと死体回収すっぞ」


「い、いや……ゾイドさん。おかしいですってマジで」


「はぁ~? なんでだよ」


「だ、だって……ギルドからもらった地図だと、ここは一本道でしたよ? こんなところに通路なんてなかったです」


「地図が間違ってるんだろ?」


「いやでもギルドが冒険者向けに間違った地図なんて渡さないような……」


「あーもーうぜえな! いくぞおら!」


 ゾイドは2本目の通路を進んでいく。


「い、いやでも! マジで危ないですって! 引き返しましょう!」


 地獄犬という、本来出るはずのないモンスターがいて、本来あるはずのない通路がある。


 ……どう見ても、危険だ。


「あ、そ。じゃおまえだけ帰れよ。ただし、そのリュック置いてけ」


「なっ!?」


「当然だろ? おまえはリーダーに逆らった。ならもうクビだ。稼いだ金もやらねーよ」


「……り、理不尽すぎますよ」


「うっせーよ。どうすんの? 帰るの? くるの?」


 ……ここで引き返すという手は、ない。

 俺は文無しだし、それに俺みたいな不遇職を仲間に入れようとするパーティは、少ない。


 もう数多くのパーティからお払い箱を喰らっている。


 ここでゾイドからも見捨てられたら……。

「わかり、ました……」


 結局従うしかないのだ。

 クソッ……! 俺がこんな職業ジョブだったばかりに……!


 いや、俺が弱いばかりに、か。

 弱者おれは、強者ゾイドにへーこら頭を下げるしかないんだ……。


 俺は地獄犬から素材を採取して、リュックにしまう。


 その後も通路を歩いていると、地獄犬の死体があちこちに見受けられた。


「おいおいここ宝の山じゃね~かよぉ~」


「…………」


 本気でおかしいことに、俺しか気付いていないようだった。


 だって、おかしいだろ?


 この地獄犬、いったい誰が倒したって言うんだ?


 俺たちのような冒険者、と考えるのが自然だろう。


 だがそうなると、不自然な点がある。


 ……なぜ、倒したのに、素材を回収していないのか?


 冒険者がモンスターを倒すのは、ドロップしたアイテム目当てだ。


 だが死体は死んではいるが、アイテムを回収していない。


 ……冒険者が倒したわけじゃないのだ。


 なら……いったいだれが?


「ぞ、ゾイドさん……もう引き返しましょうよ」


「だーもう! うっせえなぁ! じゃ帰りたきゃてめーだけでかえれっつーの!」


 ……と、そのときだった。


「ま、待ってゾイド! アレ見て!!!」


 魔法使いジョリーンが、通路の先を指さす。


 なんだ……と思ってそっちを見て、言葉を失った。


「おいおい……なんだ……ありゃあ……?」


 そこにいたのは、地獄犬の群れだ。


 1匹や2匹じゃない。

 5……いや、10匹はいるだろう。


「おいおいなんだよ聞いてねえぞこんなにいるなんて!!!」


 地獄犬は、1匹当たりの強さがそこそこある。


 剣士と魔法使いがタッグ組んで、ようやく1匹倒せるかというところ。


 それが10匹もいたのだ。

 ゾイドが焦る気持ちもわかる。


 地獄犬の群れは、何かをあさっていた。

 それは、同じく、地獄犬の死体だ。


 ……やっとわかった。

 今まで俺たちが見つけたのは、地獄犬の群れが食った食べ残しだったのだ。


「に、逃げるぞ! 10匹なんて相手してたらおれたちの命が危ない!」

「けど! どうやって!?」


 にやり……とゾイドが邪悪に笑った。


「ジョリーン。麻痺の魔法を……アインにかけろ」


「はぁ!?」


 俺は驚愕する。

 この男、今なんて言った!?


「わかったわ! 【麻痺パラライズ】!」


「がッ……!」


 突如として、俺の体が動けなくなる。

 その場にへたり込む。


 体を動かそうとしても、ビリビリとしびれて、指一本まともに動かせない。


「おら犬っころどもぉおおおおおおおお!」


 ゾイドが声を張り上げる。


「メシがここにいるぞおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 地獄犬たちが食事をやめる。

 血のような赤い目を、冒険者たちに向ける。

 

 ……いや、麻痺して動けないでいる、エサに。


「わりぃなアイン! 死んでくれ!」


「麻痺は持続時間が少ないから、運が良ければ逃げられるから、がんばって!」


 ゾイドたちは俺を残して、一目散で逃げていく。


 地獄犬たちはゾイドたちよりも、動けないでいる新鮮なエサに興味があるようだ。


 モンスターの群れが、俺に向かって走ってくる。


 逃げる仲間たち。やつらは死んでくれと俺に言った。


 ……つまり、俺を助ける気はないってことだ。


「い……や……だ。だず……だずげ……で……」


 麻痺して声もまともにあげられない。

 ゾイドたちが逃げていく様を、そして、地獄犬が俺に押し寄せてくる様を、ただ見ることしかできない。


 ……万事休すだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 食べ残しって言うならそれなりの痕跡 残ってるはずだと思うけど誰もそれに気づかなかったの? [一言] 鑑定士が不遇職ってのを推したいんだと 思うけど、別に弱いや不遇って自覚あるなら 普通…
[気になる点] 今さっき倒した獲物がそんなに早く腐臭を出すわけがないだろ。 狼の死体から死因を予測出来るだろうに、その死因に出くわして初めて分かるとか馬鹿なのかな? あと群れることを、大きな力としてい…
[良い点] ろくなパーティーがいないことが伝わってきていいですね、普通なら鑑定士には雑用を任せずにここぞという時に鑑定してもらうって具合のほうがお金も儲けられそうなのに、金づるを自分から見捨ててしまう…
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